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賢者巡礼  作者: ナハァト
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言いたいことがわかる視線ってあるよね

「まずはこちらを」


 そう言って、クフォラが押印された封筒を取り出して、神官の一人に渡す。

 神官は五十代くらいの男性に渡し、五十代くらいの男性は封を開けて中から一枚の紙――おそらく書状だと思われるモノを取り出して……読み終わると笑みを浮かべる。


「確認できました。アンル殿下――いえ、今はもう皇帝に即位されたのでしたね。アンル皇帝が私のことを覚えておいでで、こうして頼ってくれることは嬉しい限りです。こちらも身の証を立てさせていただきますね」


 五十代くらいの男性が小さく手を振ると、シスターの一人が前に出てきて、両手のひらサイズの、布に包まれた物を取り出して見せてくる。

 布が払われると、中にあったのは幾何学模様の紋章が刻まれたレリーフ。

 なんだろう? と思っていると、それがアフロディモン聖教・枢機卿の証だと、エルが小声で教えてくれた。


「確認させていただきました。陛下から聞いていた通りの紋様で間違いありません。このような状況の中、こうしてお会いする機会をいただき、ありがとうございます。ルーベリー枢機卿」


 前に出たシスターが下がると、クフォラと五十代くらいの男性――ルーベリー枢機卿の話し合いは始まる。

 とりあえず、護衛が必要になるような事態にはならないようで、少し安堵した。

 ――で、話し合いは直ぐ終わる。

 顔合わせ、ということもあるが、現状で互いに渡せる情報の数が少ないからだ。

 ただ、ルーベリー枢機卿も交渉すら行わない現状に、言いようのない不安は感じているそうで、何かしらの企みがあると考えて教皇に探りは入れているらしい。

 しかし、上手くいかないというか、現在のアフロディモン聖教国は現教皇の独裁状態で、下手に近付き過ぎると「人類最強」の力によって問答無用で殺される可能性が高い――というか、実際にそういうことはこれまでに何度もあったらしく、慎重な行動が要求されている。

 そのため、中々情報は手に入らない。

 リミタリー帝国の方はさらに、だろう。

 だからこそ、ここで協力しておくのだ。

 現教皇との交渉が不可能であるのなら、新たな教皇と交渉できるように。

 そのためにリミタリー帝国は協力する、と。

 今回は、その意思を伝えるのが目的のようだ。

 しかし、それはリミタリー帝国側――アンル陛下の考えであり、ルーベリー枢機卿からすれば突然のことである。

 少し考える時間を欲しい、と返された。

 ただ、それは断るためというよりは、覚悟を固める時間が欲しい、という感じである。

 ちなみに、周囲の神官やシスターたちは乗り気だった。

 こちらが思っているよりも、現教皇の独裁状態というのは酷いのかもしれない。

 そして、本来なら覚悟が固まるまではクフォラたちは聖都に留まっておくべきなのかもしれないが、それどころではなくなったのだ。

 ルーベリー枢機卿から今わかっている情報を教えられたのだが、そのせいである。

 それは、少し前の話。

 攻め上がって来ているリミタリー帝国軍に対して、ルーベリー枢機卿を含む数名の枢機卿が、現教皇にどう対処するのかを尋ねた時のこと。

 他国からの援軍でどうにか戦線は持ち直したが、リミタリー帝国は間違いなく世界有数の大国であるため、結果は目に見えている。

「人類最強」が居ようとも、国としては勝てない――というのはクフォラから聞いた話と同じであった。

 だからこそ、枢機卿たちは交渉を始めるのだと思っていたのだが――違っていた。

 現教皇は既に対処済みだから大丈夫だと告げたそうだ。

 合わせて、この戦争はそう長くは続かない、とも。

 詳細はわからない。

 けれど、リミタリー帝国軍に何かが起こるのは間違いなさそうだ。

 そのため、クフォラたちは一度戻ることを決めた。

 まあ、この話し合いの結果というか感触も伝えないといけないだろうし、いいんじゃないかと思う……思うのだが……何故か、クフォラとエルは俺を見てくる。


「緊急時ですので、仕方ありませんね」


「急いで戻った方が良さそうですし、お願いできませんか?」


「……何? 何かあるの?」


 ナナンさんは不思議そうにしているが、それは知らないからか、体験していないからだろう。

 つまり、空移動でリミタリー帝国軍が居るところまで運べという訳か。

 まあ、三人くらいなら、もう苦でもなんでもないが……。


「いや、俺はリミタリー帝国軍がどこに居るか知らないんだが、大丈夫か? 道案内できるのか? 迷うと思うんだが?」


「大丈夫よ」


「問題ありませんね」


「……迷うことなんてあるの?」


 迷う訳がない、と自信満々――いや、そんなことになったことがない、という感じである。

 くっ。一度でもいいから迷えばいいんだ。

 そう思うが、クフォラたちを運ぶことにした。

 まあ、リミタリー帝国軍に何が起こるのか気になるのだが、これで確実に辿り着けるな、という思いもない訳ではない。

 そして、クフォラたちはいつでも動ける準備はできていたようで、ルーベリー枢機卿たちに「またお会いできることを願っています」と伝え、「それはこちらも願っています」と返されたあと、直ぐ出発となった。

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