サイド 密談
誰が見てもわかる豪華な部屋。
そこにある、ふわふわの毛皮が張られたソファーに女性が座っていた。
絹のように輝く金の長髪に、切れ長の目を持つ、三十代後半ほどの美しい女性。
皇位が身に纏うようなローブを着ているのだが、それでも男好きするような体付きは隠し切れていない。
そんな女性と、一目で高価とわかるテーブルを挟んだ先にある同じソファーに、頭から黒いローブを被り、その身を隠している者が座っていた。
「ほんと、皇族殺害に失敗するなんて予想外過ぎたわ。そのせいで、リミタリー帝国の反撃が早かったし、そのあとにも予定していた他のところが少し遅れそうだわ」
女性の方が、少しだけ苛立ちを露わにする。
「まあ、上手く戦争にまで発展したんだから、いいんじゃない? 多少遅れるくらいは許容範囲内でしょ?」
黒ローブを被っている者がそう答えた。
雰囲気とは違い軽い調子の喋り方だが、黒ローブを被っている者は男性であると声でわかる。
「それはそうだけれど、対応が面倒になったのよ。色々とね」
「まあ、自分も手伝うから、そう気を遣う必要はないよ。でも、リミタリー帝国には気を付けた方がいいね。アレの強さで相手を殺せないことがあるとは自分も思いもしなかったし、そうなると普通に考えれば邪魔が入ったってことだよね。そこまで強いのが……アレと対抗できるのがあの国に居るってことだよね?」
そう言う黒ローブの男性の声には、少しだけ殺気が込められていた。
合わせて、問答無用で相手を問い詰めるような雰囲気も醸し出す。
けれど、そんな黒ローブの男性に向けて、女性は面倒臭そうに口を開く。
「ああ……なんだったかしら? そうそう。確か、あなたは強い魔法使いは絶対殺す、とか言っていたわね。確かに魔法使いも関わっているようだけれど、別にそういう訳でもないわよ」
「本当に? 自分に何か隠しているとか、そういう訳ではないよね?」
「私とあなたの間で? そんなのある訳ないでしょ。まあ、あなたにはあるでしょうけれどね。あなたの目的を知らないのは事実だし。けれど、そこらを詮索するつもりはないわ。意味はないもの。あなたは私に協力してくれる。敵ではない。味方。そういう約束だもの。あなたに対して私が知っておくべきことは、それで充分でしょう?」
女性の問いかけに、黒ローブの男性は先ほどまでの雰囲気を消し、柔和なモノへと変える。
「……うんうん・その通りだね。自分とキミの関係はそれがすべてさ。それで、そういう訳ではないってことを聞きたいんだけど? その口振りだと魔法使いは居たってことだよね?」
声は上機嫌そうであるが、魔法使いという部分に関しては、僅かながら殺気を感じさせながら問う黒ローブの男性。
女性は、そんな黒ローブの男性に笑みを返して口を開く。
「別に警戒する必要はないわ。アレに手も足も出ず、逆に一発で倒されて身動きできなかったようよ。強い魔法使いではないわね」
「そういう強いではないんだけど……まあ、アレに手も足も出なかったのなら警戒する必要はないかな。となると、どうやってアレの邪魔をしたか不思議だけど……ああ、そういえば、あの国には『暗黒騎士団』っていう精鋭が居るんだっけ?」
「そうよ。アレから話を聞いた限りだと、その中でも特に強い二人に足止めされて、皇族殺害ができなかったみたい。一応調べてみたけれど、アスリーとファイ、だったかしら。思っていたよりも『暗黒騎士団』にはいいのが居るみたいね」
「なるほど。やっぱり、多少は警戒しておいた方がいいかもね。……どうする? 戦力が必要なら用意するけど?」
黒ローブの男性が女性に問いかける。
女性は考える。
言葉にしなくとも、黒ローブの男性が何を用意するのか、女性にはわかっていたのだ。
そして、それが必要であるかどうかも――それを考えている。
「……戦力的にはアレが居れば充分だけど、数が多いに越したことはないわね。でも………………」
しっかりと考えて、女性は口を開く。
「頼んだとして、その見返りは用意した方がいいのかしら?」
「特に必要ないよ。これも約束を果たしてくれれば充分だから。これは、そのための――自分たちが望んだ戦争なんだしね」
「そうね。それなら、用意してもらおうかしら」
「そうこなくてはね。それに、使った時にどんな感じなのか知りたいし、試しておきたいからね」
「試すのは別にいいわ。でも、粗悪なモノだと逆に困るんだけど?」
「大丈夫。粗悪なモノではないよ。色々やり過ぎただけで、戦力としては充分。ただ、そんな感じだから今まで使い道がなかっただけ。こういう大きな戦じゃないと、思いっきり力を振るえないでしょ。ああ、それと、アレに使ったのと同じのも用意しておくよ。……念のためにね」
「ええ。期待させてもらうわ」
女性が笑みを浮かべる。
黒ローブの男性の表情は見えないが、陽気な雰囲気が漂っていた。




