褒めても素直に受け取られるとは限らない
奥に向かったのは、国軍の後方に控えている騎士団――の中でも特に三特殊部隊の動向を確認するためだ。
テレイルの見立てだと、三特殊部隊の力はこの戦いの行く末を左右してもおかしくないほどらしい。
なので、偵察ではあるが、もし可能であればいくらか削って欲しいそうだ。
もちろん、俺はこのまま殲滅させるつもりである。
何しろ、三特殊部隊が居るところまで行けば、反乱軍との距離は開き、全力の魔法が使用できるのだ。
そこでなら、たとえ魔力量を間違えたとしても、反乱軍まで届くことはない……はず。
大丈夫だよな……と思いつつ、騎士団が居るところを少し越えたところに、三特殊部隊が陣取っていた。
それが三特殊部隊だと確信を持って言えるのは、上から様子を見ればよくわかるからだ。
騎士団はきちんと整列しているのだが、三特殊部隊は整列せずに酒と食べ物で宴会を行っていて、その様子はまるで盗賊のようである。
……とりあえず、あそこを中心に巨大な火の玉でも打ち込んでみるか。
そう思った瞬間――竜杖が勝手に動いて無理矢理体ごと左に逸らされる。
すると、先ほどまで俺が居た場所に矢が通っていき、その軌跡を目で追うと、途中で勢いを失って落ちていき――。
「ぎゃっ!」
騎士団の一人に当たった。
おー……と矢を射ったと思われる、こちらに向けて弓を構えていた者に向けて拍手を送る。
「ふげやがって! 射殺してやる! 大人しく当たりやがれ!」
何故か激昂して俺に向けて矢を射り始める。
褒めたのに怒るとはコレ如何に。
ただ、射られるとわかっていれば、当たる訳がない――と言いたいところだが、俺自身は正直言って大したことないのはわかりきっていること。
なので、射られるとわかっていても避けるのは無理。
少なくとも、あえて最小限の動きでかわすとはできないので、大きく動き続けることで回避していく。
何しろ、こちらは空を飛んでいて、相手は飛べない。
そこを上手く活かして動く内に、何やら見世物のようになっていた。
「さっさと当てろ~!」
「あと五本以内に当たる方に賭けたんだから、しっかり狙っていけ~!」
「生意気にも空なんて飛びやがって、殺せ殺せ!」
三特殊部隊の宴会を楽しませるようになったのが、非常に不本意だ。
その様子を見てさすがにイライラしたので、俺なりにやり返すことにした。
矢をかわしつつ下りていき、三特殊部隊の誰からも見えるような位置でとまると――。
「ふぅ~……」
え? これだけ揃っているのに一撃も当てることができないの? と頭を左右に振り――。
「はあ~……」
駄目だ、こいつら……と息を吐き――。
「無能」
と半眼で告げて、鼻で笑う。
効果は劇的だった。
『てめえ! 生きていられると思うなよ!』
それはお前たちの方だ。
殺し、暴力、狩り――隠語ができるくらいまで、その名の通りのことをこれまで好き勝手にやってきたんだ。
そのツケを払う時が来たと思え。
三特殊部隊が襲いかかってくるが、俺は上昇して回避する。
上空に行ってしまえば、大多数はもう俺に手は届かない。
攻撃手段は矢を射るか、魔法を放つくらいだが、どうやらそれほど多くないようだ。
回避することができるというか……なんか弱い。
いや、矢の方ではなく、魔法の方が……なんか弱い。
火の玉や水球、土塊なんかが飛んでくるのだが……俺からするというか、火のヒストさんの記憶に当てはめると、なんかしょぼい。
有用スキル持ちだともてはやされているのに、こんなモノなの? と言いたい。
「……こんなモノなの? ぷっ」
もう一度下に下りて、聞こえるように言ってみた。
ついでに、笑う真似も。
『殺すっ!』
三特殊部隊の殺意が上がった結果になったが、俺は既に上昇している。
放たれる攻撃の頻度が上昇したが、やっぱり矢はまだしも魔法攻撃はしょぼいまま。
う~ん……俺を舐めて本気を出していないのかと思ったが、どうも違うようだ。
火のヒストさんの火属性魔法と比べると、どれも大したことないのだ。
そう判断していると、矢と魔法だけではなく罵声も飛んでくる。
「てめえ! 下りてこい!」
「卑怯だぞ! 真正面から戦え!」
「逃げてんじゃねぇよ! まともに戦えねぇのか!」
なんか喚き散らしているが、要は地上に下りて、武器が届く近距離で戦えということだろう。
……馬鹿なのか? と言いたい。
自分の優位な場所、距離で戦うのは基本だろうに。
それに、三特殊部隊の言い分に従うということは、魔法使いが剣だけで戦うようなモノだ。
その逆の場合でも、お前たちは素直に従うのか? と問いたい。
まあ、そもそも、三特殊部隊とまともにやり合おうなんて思っていないので、聞く気は一切ない。
体中にやる気だけではなく魔力も漲らせる。
「『赤燃 天より降り注がれ 空を焼き 大地を焦がす 火雨』」
まずはと、三特殊部隊が居るところに向けて火の雨を降らせる。




