中々寝付けない夜もある
ラビンさんにもらった地図上だと、おそらくアフロディモン聖教国に着いたと思う。
ただ、空か見る限りだと、周囲で争いが起こっているような雰囲気はない。
一応、アフロディモン聖教国の東部にあるリミタリー帝国側からではなく、南部から入ったことが関係しているだろう。まだここまで届いていないのか? それとも、リミタリー帝国が帝都を攻められた時の意趣返しで、聖都まで一直線に進んでいるのかもしれない。
そこら辺のことが何かわかるかもしれない、と進む先に町があったので寄ってみる。
ついでに、宿泊もしよう。
踊るゾンビたちに会ってから野宿続きなのだ。
「………………普通に入れたな」
ポツリ、と呟く。
それほど大きくない町――大きな町の間にある宿場町のようなところだが、普通に入ることができた。
あれ? 戦争中だよな? この国。
周囲の様子を窺うが、平和そのもの。
人々は往来の中で楽しそうに会話をし、荷馬車も普通に行き来している。
空から町の様子を見ているアブさんに視線を向けると、特に怪しいところはない、と返された。
これでは状況がわからない。
どうしたものか。
こういう時は宿屋である。宿屋の女将さんに聞こう。
この町の中をぶらつき、気になるモノや食料を買いつつ、宿の大きさではなく行商の商人の多くが宿泊するような宿屋を探す。まあ、大抵は結局大きなところになるのだが。
この町一番っぽい宿屋に食事付きで宿泊する。
食事はパン、サラダ、スープとここら辺は普通だったが、メインとなるガーリックソース付きステーキが美味かった。
そのまま食堂でのんびりしつつ、三十代前半くらいで妙に色気を感じさせる若女将に話を振ってみる。
「ここ最近どうですか? リミタリー帝国との戦争に入ったと聞きましたが、不穏ではないですか? ここら辺は大丈夫そうですが」
という感じから始まり、妙な色気の若女将から色々と聞く。
少しばかり話し込んでわかったことは大きく分けて二つ。
それ以外だと、特に印象に残ったのは若女将の悩みで、旦那居るのに何故かお誘いを受けることが多く、その理由がわからないというもの。
「本当に。何故かしら……ふぅ」
溜息一つとっても色気を感じさせる。
それだ! と言っても、これは本人が気を付けてもどうしようもない類な気がするので、ちょっとわからないですね、と答えておいた。
多分だが、同じことを問われた人は、同じように答えていたと思う。
まあ、これは横に置いておいて。
わかったことの大きく分けた二つの内の一つは、予想通りというか戦争は既に始まっているということ。
相手はもちろんリミタリー帝国で、真っ直ぐに聖都に向けて進んでいるそうだが、今はどこまで進んでいるかは不明。
一気に進んでいるという話もあれば、停滞しているという話もある。
まあ、離れた地であれば確証は得られないだろう。
ただ、リミタリー帝国の悪い噂は聞こえてこない。
占領したとしても非道な行いはしない、ということだろうか。
しかし、アフロディモン聖教国の隣国のいくつかは友好国として軍を派遣しているという話は出ている。
それが本当だったとしても、元々リミタリー帝国とアフロディモン聖教国の間にある国力は、リミタリー帝国の方が上だったため、これでどうにかまともに戦える、といったところだろうか。
個としては「人類最強」が居るアフロディモン聖教国がぶっちぎりだが。
今どの辺りで戦っているかとかは、わからなかった。
ただ、押しているのは、リミタリー帝国の方らしい……が、「人類最強」が出てきたら押し返されそうな気がしないでもない。
戦争の終わりはまだ先のようだ。
もう一つは、こちらは噂の域を出ないが、この戦争を期として現教皇に対する派閥が動くかもしれないそうだ。
というのも、現教皇はかなり好戦的な人物、というのが関係している。
まあ、確かに、失敗したとはいえリミタリー帝国に攻め入って皇帝殺害を企てて実行したのだから、その通りだと思う。
野心的とも捉えられるが、実際そういう疑惑があるらしく、現在の教皇という地位を得るために、かなり強引な手を使ったという噂が後を絶たないそうだ。
なので、味方も居るそうだが、敵も多い。
けれど、これまで誰も現教皇には手を出せなかった。
その理由は一つ。
現教皇の側には「人類最強」が居るからである。
下手に手出しする、あるいは逆らえば、「人類最強」によって粛清されるだけではなく、現教皇が気に入らなければ、それだけ殺されることもある――とそういう噂が絶えないそうだ。
真偽は定かではないが……まあ、リミタリー帝国に攻めたのは間違いない事実なので、好戦的なのは間違いないだろう。
なので、これを好機として、現教皇を排除したいと思っている勢が動き出すのでは? という噂話がアフロディモン聖教国内に流れている。
――と、これくらいが限界だった。
いや、宿屋の若女将からの情報だと思えば充分ではあるが、足りない気もする。
これ以上を知ろうと思うのなら、もっと奥側――聖都の方に向かわないと難しそうだ。
色々教えてくれてありがとうと伝えて、部屋に戻った。
アブさんは部屋で待機していたので、わかったことを伝え、明日はさらに奥へと向かうことを決める。
そうして、妙に色気のある若女将と話した影響からか、微妙にもんもんして中々寝付けなかったが、気が付けばいつの間にか寝ていた。
翌日。宿場町を出て、奥へと向かって出発する。




