とりあえず体を動かそうとしたのだと思う
アフロディモン聖教国に向けて進む。
移動手段は、もちろん竜杖による飛行である。
ただ、アフロディモン聖教国は現在戦争中……多分。
さすがにリミタリー帝国がもう攻めていると思うのだが……まずはその辺りの確認をしたい。
……あれ? それならリミタリー帝国に行ってからの方がいいだろうか?
知り合いも居るし、より状況もわかる。
でも、そうなると戦争に参加することになりそうな気がするが……「人類最強」を相手にしようとするのならそれもアリかもしれない。
理想はもちろん一対一だが……俺だけでどうにか……いや、大丈夫。そのために強くなったんだ。大丈夫。やれる……と思う。
……駄目だな。敗北した時の痛みがチラついて、どうにも弱気になってしまう。
まあ、いいか。とりあえず、当初の予定通り、アフロディモン聖教国に行こう。
リミタリー帝国経由だと時間がかかるし、状況はアフロディモン聖教国に直接行ってもわかるはずだ。
ひゅーん、と飛んでいく。
「アルム。そっちは西。冒険者の国・トゥーラがある方だ」
アブさんから修正が入った。
……はい。あっち、ですね。了解。
―――
急いで行きたいところだが、アフロディモン聖教国の現状はまだわからない。
とりあえず、慎重にいこう。
今更一日や二日は変わらない……はず。
そうして進んでいく中、運が悪くと言うべきか、上手い具合に町や村がなく、野宿することになった。
丁度いい場所を見つける。
森の中の開けた場所。平坦で、見通しも悪くない。
水場はないが、そこは魔法使いの俺。水属性魔法で解決である。まあ、やり過ぎると周囲一帯が水浸しになるので気を付けないといけないが。
マジックバッグの中からテントを取り出し、寝る場所を確保。
「ふむ。某は安全かどうか周辺を見てこよう」
「ありがとう」
アブさんが周囲の警戒に向かう。
その間に、俺は安全のための結界系の魔法の準備をしておくことにする。
いつもなら火属性か光属性だが、ここは森の中。そして、俺が発動する魔法。もしもの場合は周囲に燃え移って広がる可能性が高いので、選択肢から除外。
なので、闇属性で周囲から見えなくするくらいで丁度いいかな、と思っていると――。
「……ア、アア……」
なんか呻き声のようなモノが聞こえてきた。
聞こえてきた方に視線を向ければ、腐敗臭が鼻に届く。
何が? と思えば、視線の先に居たのは、ボロボロの服や武具、体も同じくボロボロで骨が見えているのも居るゾンビたち。
数は十もいっていないと思う。
「なんでこんなところに?」
ボロボロの武具を身に付けているのも居るし、冒険者パーティが死んでそれで――とかだろうか。
ただ、もう魔物なのは間違いない。
アブさんの周辺警戒は……反対側の方から始めているようなので、まだ見ていない方だからすり抜けても仕方ない。
竜杖を構え、ゾンビたちに向けた。
同時に、ゾンビたちからただならぬ気配を感じる。
一見すると普通のゾンビだが、なんというかそういうのを超越した存在感だ。
そういうのがわかるようになったのは、カーくんの厳しい訓練のおかげだろう。
最初から全力の光属性魔法で纏めて排除する。
それが最善か――と魔力を漲らせると、ゾンビたちは歩みをとめ――。
「……ア、ワン……ア、ツー……ア、ワン、ツー、スリー、フォー」
先頭に居るボロボロの武具を身に付けたゾンビが、指を鳴らしながら数を数え始め――踊り出した。
………………ん? ん、ん?
なんで踊り出した? と思うが、何やら目を惹く。
その踊りに合わせた音楽はもちろん聞こえないが、かなり浮き沈みがあるように思えるように、ゾンビたちの踊りは時に激しく、時に緩やかに、そして一糸乱れぬ見事なモノであった。
すごい――と見入ってしまう。
見入っている間にゾンビたちは踊り終わり……俺は自然と拍手していた。
ゾンビたちは揃って一礼するが、それも様になっている。
「ご観覧いただきありがとうございました」
先頭のゾンビがそう言う。
いや、喋るのか! と思ったが、そういえばさっきカウントダウンしていたな、と思い出して口を噤む。
「まさか、最後までご観覧いただき、さらに拍手までいただけるとは思いもしませんでした。これで心残りはありません。どうぞ、お好きなように」
ゾンビたちは、天に召される覚悟はできていた、と無抵抗。
俺は……もったいない、と思った。
それに、喋れるということは、会話ができるということ。
なので、とりあえず、ゾンビたちから話を聞いてみると、予想通りというか、ゾンビたちは二つの冒険者パーティの集まりで、共同でこの森に居る魔物の調査に来た時に殺されて、放置されたままだったため、それでゾンビ化してしまったそうだ。
人としての意識が残っていたのは、幸運か、不運か。
俺には判断ができないが、少なくとも、ゾンビ化――つまり、魔物化したことで森の中の魔物に襲われなくなった。
けれど、この姿では町に戻ることもできない。
……近くに町があったのか……いや、今考えることではないか。
ともかく、行き場をなくしたゾンビたちは……踊り始めた。
……いや、うん。そこでどうしてそうなる? と思ったが、それは今更なので何も言わないでおく。
それで、ここまで上達したのはすごいは……披露の場はない。
襲ってこないことをいいことに魔物に見せたが反応は悪く――というか、理解していないようで、町に行って人に披露しようとすればその前に滅ぼされそうなのでそうする訳にもいかず、どうしたものかと悩んでいる時に俺が現れた。
一人であったし、どうせ滅ぼされるなら踊りながら、もしくは踊ってから、と思っていたそうだ。
それで、今に至る、と。
話を聞いて……やはり、もったいないと思う。
ただ、ゾンビで思い出すのは「青い空と海」だが、なんというか、あれとは方向性が違う気がする。
なので、どこかに魔物の村か町がある、という情報を伝えておいた。
これまでに俺が出会った魔物たちなら、喜んで受け入れそうだからである。
ついでに、魔物を転職させる存在が居るようなので、それでゾンビたちにとっていい方向になれば――と思わなくもない。
ゾンビたちは前向きで、感謝の言葉と共に探してみると目的を持ってくれた。
そこでアブさんが戻ってきて互いに驚き警戒するが、俺が間に入って仲裁。
ゾンビたちの踊りを見て、アブさんもご満悦である。
これがのちに、世界中を虜にするダンス集団「ゾンダンサーズ」との出会い……になればいいな、と思った。
―――
翌日。ゾンビたちに見送られながら、アフロディモン聖教国に向けて出発する。




