とりあえずハッキリと言うことが大事だと思う
土のアンススさんの記憶と魔力を受け継いだ翌日。
俺は土のアンススさんと個人的に話す。
「一応確認するけれど、彼が――ジブルが『人類最強』でいいんだよな?」
「それは、私がアルムに確認したいことなんだけど?」
「ああ、それはそうか。そうだな。見間違いとかそういうのではない。今、『人類最強』と呼ばれているのはジブルだ」
「そう。やっぱりそうなのね。……すごいわね。今はそんな風に呼ばれるまで強くなっているなんて」
「……どうしたい?」
「どう、とは?」
「俺は皆の記憶と魔力を受け継ぎ、その代わりもそうだが、俺は俺の意志で皆の心残りとか、そういうことを払っている。だから、アンススさんが望むなら……たとえ『人類最強』と呼ばれるような存在が相手でも退く気はない」
「私は……戸惑いの方が強い、わね。復讐とかそういうことよりも、そっちが……どうして私のことがわからないの? とか、なんであの女と一緒に居るの? とか。甘いかしら? 甘いわよね。これも、惚れてる弱み、とかかしら?」
骸骨で表情はわからない。
けれど、どこか自嘲しているような、そんな笑みを浮かべている雰囲気がある。
「何かの事故で記憶を失った、とかか?」
「そんな素振りはなかったけれど、絶対ではないわね。でも、そうだとしても、やっぱり私のことがわからないなんて――そこだけは許せないわ。だから、一発殴ってきてくれる? あいつの目がバッチリと覚めるようなヤツでお願いね」
「わかった。任せろ。キツイのを食らわせてやる」
土のアンススさんと、そう約束した。
そうと決まれば、そのために動く。
これで再び「人類最強」とやり合うことが決まった訳だし、そのためには何より強さが必要だ。
「もっと厳しくして欲しい。今よりもっと強くなるために」
充分はない。
「人類最強」がどれだけ強いかわからない以上、どれだけやっても足りないかもしれないが、やっておいて損はない。
時間はあるし……いや、あるか? これ?
万全を期すなら、あと一人――残っているのは無のグラノさんの記憶と魔力。それを受け継げるまで強くなって、受け継げばより万全というか、俺の感覚だとそれでも勝てるかどうか、といったところだが、その時間はないかもしれない。
というのも、「人類最強」が居るアフロディモン聖教国は、リミタリー帝国と戦争中のはずだ。
リミタリー帝国も内戦の後処理を終えてからと色々準備があるだろうし、あれから直ぐに戦争が始まったとは思わないが、もう数か月は経っている。
戦争は既に始まっているだろう。
どちらも大国レベルなので直ぐに終わるとも思えないが、だからといって、こっちの準備が整うまで「人類最強」が生きているとも限らない。
絶対は存在しないのだ。
………………。
………………。
いや、「人類最強」なら、なんか理不尽を発揮しても……いや、絶対はない。
リミタリー帝国にはファイやアスリーが居る。
可能性はゼロではない。
……俺も、今できることをやって、アフロディモン聖教国に行った方がいい気がする。
それに、土のアンススさんの記憶を見た俺からしても、怪しいのは女性大司教の方だ。
土のアンススさんの記憶の中だと、女性大司教が「人類最強」をかなり欲したように見えた。
「人類最強」に対して何かやった可能性は充分にある……あるのだが……「人類最強」に通じる何かってあるのだろうか?
……想像ができない。
いや、もしかすると人によってはとかで……抜け毛とか腰が痛いとか足が臭いとか……いや、それは違うか。
ともかく、そう遠くない内にアフロディモン聖教国に行くべきだと思った。
―――
さらに一か月近く経った。
できることは充分にやったと思う。
カーくんの厳しい訓練も乗り越えて、魔法も上達した……はずだ。
やはり、あまり使用していない闇属性と土属性はまだ不安が残る。
いや、弱気は駄目だ。
できる。できる。良し。できる。
失敗しても、次に繋がればいいのだ。
今できる準備を終えると、アブさんも準備を終えた。
「どうだ? アルムよ?」
そう言って、アブさんが両腕を上げて筋肉を見せつけるようなポーズを取る。いや、筋肉ないけどな。
……特に変わった様子はない。
けれど、アブさんは骨密度を上げると言っていた。
聞いたところによると、骨の内部の話。
……うん。見た目の話ではない。よって、どうだ? と見せられても困るのだが、こういう時に「何が? 何か変わった?」と言うのは悪手。
しかし、どう言ったものか。
下手なことを言えば悪手よりも悪くなる。
曖昧ではなく、ハッキリと……。
「……頑丈になっているよな」
「そうなのだ! 骨密度が上がって、より多くの魔力を保有できるようになったのだ! これなら、より強力な即死を放つことができる!」
意気揚々とアブさんが言う。
あの訓練方法に意味はあったのか、と思わなくもないが、効果は出た? ということでいいのだろうか?
とりあえず、回答を間違えなかったようで、ホッと安堵。
そうして、「気を付けて」とか「無事で」とか身を案じるような言葉をもらいつつ、皆に見送られながら、アブさんと共に出発する。




