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賢者巡礼  作者: ナハァト
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いつもより強く思い起こされる時もある

 厳しい訓練のおかげで、新たに受け継ぐことができるようになっていた。

 無のグラノさんのお墨付き。

 なので、土のアンススさんの記憶と魔力を受け継ぐことになり――早速とばかりに始める。

 いつも通りに戻ったラビンさんにお願いして、二つの魔法陣を用意してもらう。

 片方の中心には、俺が立つ。もう片方の中心には、土のアンススさんが立つ。

 まず、土のアンススさんの方の魔法陣が光り輝き、その光が俺の方の魔法陣に移動してくる。

 俺に受け継がれていく土のアンススさんの記憶と魔力。

 次第に土のアンススさんの方の魔法陣の輝きが治まり、俺の方の魔法陣も輝きが治まれば……それは無事に受け継がれたことを示す。

 これまでであれば、高揚感で見事な(今まで失敗している)魔法を披露するのだが、それよりも強く、俺の脳裏に土のアンススさんの記憶が呼び起こされる。


     ―――


 土のアンススさんの出身は――わからない。

 物心ついた時には、既にアフロディモン聖教国。その聖都・サークレッド。そこにある教会の孤児院に居た。

 だから、親の顔も知らず、出自もわからない。

 けれど、土のアンススさんは、そういうことを気にしていなかった。

 何もわからない孤児であっても気にならないほど、幸福を感じていたのだ。

 院長でもある優しい神父に、同じく慈愛に満ちたシスターたち、それと仲の良い孤児仲間が居て、自分は恵まれている、と思えた。

 その孤児院生活の中で、土のアンススさんは、同い年の黒髪の少年――ジブルと特に仲良くなる。

 土のアンススさんがその時のことを思い返すと、ジブルに対しては、幼心ながらこの時から惹かれていたそうで、何事もなければ将来を共にするんじゃないかな? と思っていたようだ。

 そうして年月を重ね、土のアンススさんは十五歳になる。

 その時から既に、長く美しい茶髪に、妖艶な顔立ちに、グラマラスな体付きからは色気が漂っていて、男性の目を惹き付ける女性であった。(※本人の記憶によるモノです)

 この時、土のアンススさんが授かったスキルは「土属性魔法」、それと魔法、魔力に関して強化されるスキルをいくつか。

 先天的に得られるモノとしては破格であった。

 ただ、十五歳というのは孤児院を出る年齢でもあり、孤児院を出た土のアンススさんは、そのまま冒険者となる。

 低ランクであれば依頼内容など色々と苦しいが、しっかりと働けば金になるし、何より高ランクになれば実入りも破格と言っていいほど多くなって、孤児院に援助もできるようになるからだった。

 何より、魔法使いとして土のアンススさんは天才そのもので、これまで受け継いだモノがあるからわかるが、無のグラノさんたちと同格レベルの才能があったのだ。

 瞬く間に冒険者ランクを上げるのだが、何もそれは土のアンススさんだけの力によるモノではない。

 土のアンススさんは共に成長したジブルと、二人で冒険者パーティを組んでいたのだが、そのジブルがすさまじかったのだ。

 これは土のアンススさんの記憶なので、実際にジブルがどのようなスキルを得たのかはわからない。

 しかし、ジブルは、天才という言葉すら霞む、年齢に見合わない、他者を圧倒するだけの馬鹿げた強さを持つ者――「怪物」と呼ばれていた。

 そう呼ばれるようになった原因の一つに、土のアンススさんにちょっかいをかけようとしたAランク冒険者を、当時Dランク冒険者だったにも関わらず、一方的に叩きのめしたのだ。

 別に、Aランク冒険者の方が油断していたとか、反撃しなかったとか、そういうことではない。

 寧ろ、戦闘系特化であったにも関わらず、きっちりと真正面から叩きのめしたのである。

 規格外、と言えた。

 そんなジブルと共に過ごしていく内に、関係性は冒険者パーティ仲間から恋人へと変わる。

 まあ、その辺りは土のアンススさんだけの思い出なので触れないでおこう。

 それに、重要なのはこのあと――順風満帆に思えた冒険者生活が、突如終わる時が来たのだ。

 その時は、土のアンススさんは少女ではなく美しい女性へと、ジブルはたくましい男性へと成長していて、冒険者としての活動も続けており、名が大きく売れ始めた頃、アフロディモン聖教の大司教から依頼を受ける。

 依頼内容は神事で使用する魔物の討伐依頼で、それは難なく達成して、その際に依頼主の大司教と出会った。

 その大司教は女性で、ジブルに目を付け――自分のモノになれ、と欲したのだ。

 もちろん、ジブルは応じなかった、

 しかし、数日後、ジブルは土のアンススさんの前から姿を消す。

 土のアンススさんは行方を必死に探すがアフロディモン聖教国では見つからず、他国にも探しに行き……ラビンさんのダンジョンの攻略――神事に必要な魔物を取りに赴いていたアフロディモン聖教国の一団の中で見つける。

 ジブルは、女性大司教の下でその力を振るっていた。


「こんなところで一体何を! いえ、それよりもどうしていきなり居なくなったの!」


 土のアンススさんがジブルに声をかけるが――。


「………………」


 ジブルは何も答えない。

 ただ、土のアンススさんを見る目は、雄弁に語っていた。

 ……誰だ? お前は? と見知らぬ人を見る目であった。

 狼狽える土のアンススさんだが、このままでは何かいけない気がして、ジブルを連れて行こうとしたが、そこで女性大司教が命を下す。


「その女を殺せ! いえ、餌として使えるかもしれないわね。痛めつけなさい!」


「……命令のままに」


 土のアンススさんは、恋人であるはずのジブルの手によって痛めつけられ、捕らえられてしまう。

 ラビンさんのダンジョンの中に連れて行かれ、女性大司教が口にしたように餌――狙っている魔物を誘き寄せるための囮として使われそうになったため、土のアンススさんは連れて行かれる途中で土属性魔法を乱射して必死に抵抗したのだが、ジブルにやられて――そのまま大穴へと落ちることになった。

 それが、今から約十年前の出来事で、そこから今に至る――のだが、このジブル。幼い頃はわからなかったが、青年と呼べるまで成長した時、誰かわかった。

 ジブルは現在こう呼ばれている。

 ――「人類最強」と。

 つまり、土のアンススさんは、恋人であるはずの「人類最強」に殺されたようなモノである。

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