久し振りだと実感するのに時間がかかることもある
特に何事もなく、無事にラビンさんの隠れ家に辿り着く。
「……随分と久し振りに感じる」
「そうだな。今回はいつもより長かったような気がするからな」
アブさんと一緒に、どこか感慨深くなる。
俺は漸く戻って来れた、あるいは帰って来れた、といった感覚が強い。
アブさんはどうだろうか?
……いや、アブさんはダンジョンマスターなんだから、自分のダンジョンがそうなるのか。
まあ、「青い空と海」と非常に仲良くなっているので、そこが某のいつか帰るべき場所だ、とか言いそうだが。
そんなアブさんだが、帰路についてからは意気消沈していて、今まで励まし続けたことでもう普通というか立ち直っている。
その原因は言うまでもなく「人類最強」。
即死魔法が効かなかったことが、かなりショックだったようで、正しく骨身に沁みた、と。
……言葉はアレだが、醸し出す雰囲気がそうだったので、冗談でもなんでもないとわかったのだ。
ただ、アブさんの即死魔法が効かなかったのは俺も同じだと思うのだが、その時はそんな反応ではなかったよな? と尋ねると、根本が違う、と返された。
詳しく聞くと、俺の場合は力が上回れば通じるが、「人類最強」の場合は即死そのものが通じない――といった感じらしい。
自分で「絶対的な死」と名乗りながら、即死が通じないのは悔しい、と。
なので、どうにかして通じさせてみせる、と息巻いている。
どうにかなるのだろうか? と思わなくもないがアブさんは本気。
なら、俺は応援するだけである。
「まずは魔力密度を……いや、その根幹となる骨密度を増すことからだな」
それは初耳だが……まあ、アブさんなりの、というヤツだろう……きっと。
どう増していくのかは知らないが、頑張れ、とだけ言っておいた。
そんな道中での話を思い出しつつ、ラビンさんの隠れ家の中にある魔法陣で、ラビンさんのダンジョンの最下層へ到着。
いつものようにボス部屋に入ると――。
「………………」
まず目に付いたのは、母さん、リノファ、ラビンさん、カーくん、無のグラノさんたち、が祈りを捧げている、というモノ。
他には誰も――「青い空と海」は拠点作りの最中で、「王雷」の三人はダンジョン攻略中だと思う。
「………………」
祈りの対象となっているのは、もう片付けないんだろうな、と思われる、少し高くなっている場所――の上にある、以前はなかった小さな祭壇。
どういう状況? と疑問に思っていると、無のグラノさんが祭壇の前に移動する。
その雰囲気はいつもと何かが違う。
なんというか……厳か? だろうか。
神聖な……それこそ神殿の中のような雰囲気があった。
無のグラノさんが皆に向かって――一礼。
みんなも合わせて一礼。
「……では、これより古の祈祷を始める。ワシに続いて復唱を。効果があるかどうかは定かではないが、気が紛れるし、ワシらの祈祷が届くと信じよう。では……ルノイヲジブ!」
『ルノイヲジブ!』
「ルクテッドモ!」
『ルクテッドモ!』
「ブウョジイダ! ブウョジイダ!」
『ブウョジイダ! ブウョジイダ!』
「キィエエエエエッ!」
『キィエエエエエッ!』
「あっ、今のはかけ声なので復唱しなくて良い」
『あっ、今のはかけ声なので復唱しなくて良い』
そして、無のグラノさんはそのまま奇妙な動き――骨をカクカクと動かす踊り? だろうか? と始め、皆は真剣に祈り出す。
何、これ? とアブさんは知っているだろうか? と視線を向ければ、アブさんの姿がない。
どこに? と見回せば、いつの間にかみんなの中に紛れて一緒に祈っている。
「……いや、何これ?」
俺としては呟きだったのだが、室内の音が無のグラノさんの踊り? が発する音しかなくて、妙に響いた。
それで皆が一斉にこちらを向いたので――。
「えっと、戻ってきたけど……何事?」
そう声をかけてみるが、皆の反応は俺が思っていたモノは違った。
「戻って来た! アルムが戻って来たぞお~!」
誰がそう言ったかはわからなかった。
何しろ、母さんが飛び出し、俺を抱き締めたからである。
そのまま皆に囲まれ、よくぞ戻ってきた! みたいなことを口々に言われ、男性陣からは言葉だけではなく肩や背中をバシバシ叩かれた。
喜んでくれているのはわかるが、正直痛いのと困惑が強い。
それでも、どうにか先ほどの光景がどういうことか尋ねると、俺がリミタリー帝国に行ってからまったく戻ってこないため、何かあったのでは? と思い、どうか無事に戻ってくるように、という祈祷を行っていたそうだ。
ああ、確かに、これまで出ても一度は途中で戻っていたが、今回は一度も戻らなかったな。
ということは、これは俺のせいでもある? のか?
………………。
………………。
うん。その気持ちは嬉しいので受け取っておこうと思う。
俺も戻ってきたと実感できたので、ありがとう、と皆に伝えておいた。
それでこの話は終わり――ということにしよう。
というか、アブさんは俺と一緒に戻ってきたのに、なんで今は皆と一緒に喜んでいるんだ?




