できれば別の人が……と思う場合もある
アンル殿下の下で一つに纏まったリミタリー帝国軍による、アフロディモン聖教国軍への蹂躙が始まった。
蹂躙と評したのは、見たまま。
帝都・外壁の上からだと、その様子がよく見えた。
蹂躙となったのは、数の違いによるモノも理由の一つだが、最大の理由はアフロディモン聖教国軍にある。
見事大当たり、と言うべきか、俺が巨大な炎の檻に閉じ込めたアフロディモン聖教国軍の中に、隊長、団長、将軍などがほとんど居たのだ。
それで、そいつらが巨大な炎の檻の中から外に向けて叫ぶ訳である。
「自分たちを助けろ! 早くこの炎をどうにかしろ!」
「勝手な逃亡は許さない! 敵前逃亡で死刑! そうなりたくなければ戦え!」
「救出しろ! 替えの利く貴様たちと選ばれし私たちとでは、立場が違うのだ! 優先すべき命は私たちである!」
大体こんな感じで。
それで、さっさと逃げればいいのに、アフロディモン聖教国軍の足がとまる。
もちろん、それでも逃げ出す者は居たが、躊躇したのも事実。
それでリミタリー帝国軍が辿り着き、蹂躙されていく結果となる。
また、巨大な炎の檻の中で戦っているファイとアスリーも、こうなることがわかっていたのか、そこら辺の者は倒さずに後回しにしていた。
リミタリー帝国軍が辿り着くと、もう用は済んだと倒していたが。
そうして、リミタリー帝国軍は巨大な炎の檻を避けながら、アフロディモン聖教国軍を蹂躙しつつ、大部分はそのまま逃げた者たちの追撃を行う。
残ったリミタリー帝国軍は、帝都の門前に陣取って守るのと、中に入って帝都内、それと帝城内にアフロディモン聖教国軍が残っていないかを確認しに向かうのとに分かれている。
その中で帝城に向かっている一団の中にセカンとトゥルマの姿を見た――ような気がしないでもない。
いや、正直に言えば、遠過ぎてわからなかった。
居た、ような……居なかった、ような……まあ、どちらでもいいか。
重要なのは、アフロディモン聖教国軍を帝都、帝城から居なくすることである。
ちなみにだが、俺のところにアフロディモン聖教国軍は一人も現れなかった。
安全そのものだった――という訳ではない。
「………………」
あの頃のクフォラの視線を感じっ放しだった。
肉体的、魔力量的には問題ないのだが、精神的には酷く疲れたが……特に何も起こらず、無事だったことを喜んでおこう。
「……これだけの規模の魔法を使っても疲れすら見せない魔力量……どうにか………………はっ、この状況……逆ハーレムから個別に入った、ということかしら……」
急に悪寒が来て、危うく魔法を解除するところだった。
理由はわからないが、ファイかアスリー……いや、セカンたちでもいいので、アブさんではなく誰か一人だけでいいから一緒に居て欲しい気がする。
できるだけ早く……。
その願いが通じたのか、誰かこちらに来る気配を感じる。
一人ではない……二人だろうか。
ただ、敵意のようなモノは感じないというか、そういう雰囲気ではない――と思うのは、走っているとかではなく、歩いて来ているからだろう。
アフロディモン聖教国軍だったなら、逃亡中でそれどころではないだろうし。
それでも一応警戒していると、現れたのはエルとナナンさんだった。
「……やはり、あの巨大な炎の檻を作り、維持しているのはアルムだったのですね」
「エルとナナンさんか。よく、ここに居ることがわかったな」
「偶々ですよ。帝都内にアフロディモン聖教国軍の姿は余り見かけませんでしたし、念のために外壁も確認しに来たのです。まあ、ナナンと一緒に外壁からの景色を見たかった、というのもありますが」
少し照れながらエルがそう言うと、ナナンさんがブイサイン。
ただし、その相手は俺ではなく、クフォラに向けて。
「……一度、ナナンさんとはしっかりとお話しする必要があるようですね」
エルとナナンさんは平気そうだし、この場の空気が重く冷たくなったと感じるのは俺だけだろうか?
景色を見に来たと言いつつ、ナナンさんはクフォラと睨み合っているけれど? それはいいのか?
関わると面倒な気がするので、そっちはそっとしておこう。
できれば、違う人に来て欲しかったと思わなくもない。
「それにしても、あの巨大な炎の檻が俺の魔法だとわかっていたのか?」
「セカンさんがそう言っていました。アンル殿下とネラル殿下だけではなく、私とトゥルマさんも納得しましたけれど」
まるで他の人たちは信じていなかった、というような言い方だが……まあ、そんなモノか。
「ともかく、無事で良かったです」
「そっちもな。その口振りだと、無事に『人類最強』から逃げおおせたようで何より」
まあ、アブさんからの情報で知っていたけれど。
「それはこちらの台詞ですよ。ファイ、アスリーと共に『人類最強』を抑えようとしたのは驚きでした」
「……それは俺もだ」
ファイからの強制参加だったからな。
逃げる前に巻き込まれたんだよ。
「でも、そう簡単にやられる人たちではないと思っていましたから、大丈夫だと信じていました。……まあ、逆にアフロディモン聖教国軍をここまで痛めつけているとは思っていませんでしたが。それに、クフォラと共に居るとも」
「ああ、クフォラはアスリーが助けたんだ。で、内乱は既に終わっていたようなモノだからというのもあるが、そこにアフロディモン聖教国軍が来たからな。協力することになったんだ」
「なるほど。そういうことでしたか……おや? あの巨大な炎の檻の中で、何やらファイがこちらに向けて手を振っていますが?」
「ああ、終わったんだろ」
全滅でもさせたかな?
フィアとアスリーならできるだろうし。
一応、巨大な炎の檻を残ったリミタリー帝国軍が囲んでいることを確認してから魔法を解いた。
とりあえず、これでこの場での戦いは終わった……かな。




