実際目にするまでは信じられない時もある
スリーレル公爵領から王都に向かうと、その間には広大な草原が広がっている。
そこで、反乱軍は国軍を相手に戦っていた。
状況を確認するため、俺と「新緑の大樹」は直ぐにテレイルの下へ。
スリーレル公爵領から付いてきた人たちは、リノファが反乱軍の隊長の一人に預けていた。
リノファの護衛の人たちと、母さんは一先ずそちらを手伝ってもらう。
テレイルは大きな天幕の中に居て、作戦立案に使う小さな駒がいくつも置かれている大きな台座の前で難しい顔をしている。
他にも反乱軍の武官、文官的も集まっていて、難しい顔をしていた。
――難色といった雰囲気。
戦況はよくないのかもしれない。
ゼブライエン辺境伯とシュライク男爵の姿がないのは……多分、前線に居るのだろう。
「テレイル!」
俺がテレイルに声をかけると、驚く者と驚かない者が居る。
驚くのは、そういう場面をこれまで見てこなかったからで、それでも不敬だと声をかけないのは、俺とテレイルが対外的に義兄弟だというのが効いているからだろう。
「アルムか。戻って来てくれて助かる。それで、そっちは?」
「ああ、無事に助けた。それとやっぱり予測通り、王都に逃げているようだ」
「そうか。公爵という地位に居ながら……情けない」
「それで、こっちはどうなんだ? ……あんまり、よくないようだが」
テレイルが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「どうやら、私たちが最初に王都に着いたようで、その分の戦力が回されているようだ。今は国軍とやり合っているが、その奥に騎士団と三特殊部隊も陣取っていて、いずれ出てくるのは明白」
「まだ様子見、といったところか?」
「そうだね。それに、国軍が相手だとやり過ぎる訳にもいかない」
「そうなのか?」
「結局のところ、これは内乱だからね。終われば、そのまま次は国防にも力を割かないといけない。その時に使える力は多いに越したことはないからね。といっても、許容できるのは国軍と騎士団だけかな。その中なら、まだ上から戦いを強要されている人たちも居るけれど、三特殊部隊は完全に『スキル至上主義』に染まっている、というよりはそのおかげで生かされているようなモノだから、戦力という意味でももっとも手強く、激しく抵抗してくると思う」
素直にすごいな、と思う。
俺ならそこまで考えるかどうか……とりあえず、特大魔法を連発してから降伏を促すくらいはすると思うけど……それで駄目なら、今度はとめない。
包囲して逃げ道を絶ち、包囲内に向けて徹底的に魔法を撃ち込み続ける、くらいか。
まっ、今は考えるより動くのが先だ。
俺がやるべきことをやるだけである。
「テレイル。今、俺にできることは?」
今のところ、魔法操作ミス――魔力過剰投与による、結果的に大規模魔法になってしまうのが得意だ。
テレイルは俺がそう尋ねるのを待っていたかのように笑みを浮かべる。
「あるよ。実はいくつかあって……」
―――
という訳で、護衛の「新緑の大樹」から一人離れ、俺は竜杖に乗って空へ。
テレイルから、まずは相手側の竜騎士を無力化して欲しいとお願いされたからだ。
今はこちらに降った飛竜五体が新たな搭乗者を得て国軍側の竜騎士を押さえているが、それも限界が近い。
というのも、国軍側の竜騎士は七騎居て、数で負けている。
空中で争っているのが視界に入り、もう少し詳しい様子がわかる。
争いながら飛竜たちが鳴き声を張り上げているのだが、どうやら相手の飛竜を説得しようとしているようだ。
ただ、上手くいっていない。
「新手か! 殺せ!」
近付く俺に気付いた国軍の竜騎士の一人が叫ぶ。
それで、国軍の飛竜たちの動きがとまった。
「お、おい! どうした! 何をしている!」
国軍の竜騎士たちが口々に罵声のような命令を出すが、飛竜たちはがん無視。
顔を見合わせ、こちらの飛竜たちを見て、俺を見て……露骨に不味そうな表情を浮かべる。
やべえ、俺たちやっちまったかもしれない……みたいな雰囲気だ。
これはアレか。
こっちの飛竜たちの言葉を信じずに抵抗というか反発していたものの、実は本当のことだったとわかり、どうすればいいかわからない、とか?
そんな感じ? と反乱軍側の飛竜たちを見れば、その通りだと頷きが返される。
というか、反乱軍側も新たな竜騎士が乗っているのだが、飛竜たちが俺の方を優先するのはいいのだろうか?
……問題なさそう。
というより、その人たちから、どうにかできますか? と視線で尋ねてきている。
まあ、できるかできないかで言えば……。
「じゃあ、上に乗っているのを落として、こっちに降るのであれば許す」
国軍の飛竜たちに向けてそう言うと、行動は速かった。
こちらの飛竜たちが降った時と同じように竜騎士たちを落としていき、終われば整列して頭を下げる。
とりあえず、竜相手には、竜杖とドラゴンローブが効果的過ぎるな。
「お前たちはこの人たちの言うことをよく聞くように。それと、先輩竜にもな。……それじゃ、あとのことはお任せして大丈夫ですか?」
竜騎士から任して大丈夫だという返事をもらったので、新たに降った飛竜たちを任せ、俺はさらに奥に向かって飛んでいく。




