表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者巡礼  作者: ナハァト
423/614

サイド それぞれの戦い ファイ 2

 敵襲、という言葉が耳に届く。

 けれど、それはおかしい。

 今更、だからだ。

 ここは帝城であり、敵襲――反乱軍による強襲は既に起こっているというか、それなりに時間が経っている。

 戦いは至るところで起こっていて、帝城内はどこも戦場だ。

 現に、俺が今アスリーとやり合っている場所――帝城の門前も破壊された跡がある……というか、帝城のホールに続く門と壁が破壊されているが、ここでどれだけの戦いが起こっていたのだろうか。

 こんなことをしたヤツとは是非とも戦ってみたい。

 今はアスリー優先だが。そのあとで、でも。

 ……そうではなく、つまりここは今戦場であって、それなのに敵襲……とは?

 リミタリー帝国軍側の援軍が来て、そう口にしたのだろうか?

 いや、それもおかしい。

 強襲されているからこそ、援軍として駆け付けたのだから、反乱軍が居ることは知っているはずだ。

 だからこそ、今ここで敵襲と口にするのは非常に違和感があった。

 それはアスリーも同じなようで、気付けば戦う手をとめていて、俺と目が合うとどういうことだ? と首を傾げる。

 わかる訳ないだろ、と俺も首を傾げた。

 だが、答えは直ぐに判明するだろう。

「敵襲」と言いながら、帝都からこちらに向けて走って来ている兵士が見えたので、そいつから聞けば詳しいことは――。


「て、敵襲! 北西より『アフロディモン聖教国』が侵攻開始! その先頭に『人類』――」


 聞けなかった。

 突如、その兵士の頭上から何か大きな塊が飛来し、そのまま殴り飛ばしたからだ。

 現れたその塊は――黒い髪に、厳つい顔立ちで、その身の丈は人の1.5倍はある巨躯で、格闘家が身に付けるような胴着を着ていても隠せない、筋骨隆々――いや、一般的なそれよりも尚逞しい体付きの、三十代半ばの男性。

 実際に相対するのは初めてだが、情報として聞いていた通りの人物。

 その人物が、こちらに向けて歩いてくる。


「……『人類最強』」


 その言葉が、アスリーの口から漏れる。

 見れば、「人類最強」から感じられる圧力の濃密な強さによって、少し震えているように見えた。

 それは俺も同じか。

 いいや、この震えは強いヤツと戦えることの喜びのはずだ。

 そう言い聞かせて己を鼓舞した。

 すると、アスリーが俺に声をかけてくる。


「……一時休戦だ、ファイ。今だけは――アフロディモン聖教国が侵攻してきたのなら、リミタリー帝国軍と反乱軍が争っている場合ではない。リミタリー帝国の『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』として戦ってもらうぞ」


「まっ、それが妥当だな。あれは一人でどうこうできるような存在じゃない。そういえば、アスリーはあれに対抗できるとか言われていなかったか?」


「勝手にそう言われていただけだ。それに、実際にアレを前にしてみれば、それが如何に戯言であったかよくわかる」


「確かにな。情報だけではなく実際に見れば、そうは言えんよな。というか、どうにかできるのか? あれ」


「できなければ、リミタリー帝国は終わりだ」


 アスリーが長剣を構える。


「まっ、国の心配よりも先に、自分の命の方を心配しないといけないけれどな」


 槍を振り回したあと、構える。

 そして、「人類最強」が帝城の敷地内に足を踏み入れた瞬間――。


「ふっ!」


「はっ!」


 アスリーと同時に飛び出す。

 別に図った訳ではないが、タイミングを合わせた左右からの挟撃を行い――「人類最強」は巨躯とは思えない速度で動き、俺の槍、アスリーの長剣を、それぞれ指で摘まむようにしてとめる。

 咄嗟に引こうとするが、摘ままれているだけの槍が一切動かない。

 それはアスリーも同じで、お互い「人類最強」を蹴り、その勢いで離れようとするができなかった。

 蹴った感触から伝わってくるのは、巨木……巨岩……いや、何をしようが微動だにしない何かを蹴ったかのようなモノ。


「……すべては、教皇さまのために」


 そんな呟きが聞こえた瞬間、摘ままれている槍ごと下ろされ、地面に叩き付けられていた。

 黒い鎧の上から衝撃が伝わり、全身に痛みが走る。

 だが、それだけ。

 体全体には効果がなくとも、指先になら通じるだろう――と槍を摘まんでいる指に膝蹴りを放つ。

 ダメージが入った様子はないが衝撃は伝わったようだ。

 ほんの僅かだが緩む感触があり、そこで全力を出して一気に引き抜き、体を回転させながら「人類最強」の背中側から反対側に移動し、付いた勢いのままにアスリーの長剣を摘まんでいる「人類最強」の手を突き刺す。


「ぐっ!」


 突き刺さらない。

 武器の性能よりも、俺の膂力よりも、「人類最強」の方が強かっただけ。それだけのこと。

 ならば、と槍を回して石突き部分で力強く叩く。

 その衝撃でアスリーも長剣を引き抜くが、そこで俺とアスリーは「人類最強」に殴り飛ばされ、帝城の外壁に体を打ち付ける。

 蹴られたダメージはでかいが、それでとまる訳にはいかない。

 何より、相手は「人類最強」。

 戦いにおいて、極上の相手なのは間違いない。

 湧き上がる感情のままに笑みを浮かべ、「人類最強」へと襲いかかる。

 アスリーも続いていた。

 そのまま戦い始めるが……正直通じていない。

 どれだけ攻撃しようが防がれ、かわされ、さらにこちらは攻撃を受けてダメージを負っていく。

 それに、何が目的かはわからないが、帝城内に向かう「人類最強」の歩みをとめることができずに許してしまう。

 帝城のホールは反乱軍とリミタリー帝国軍が入り乱れていた。


「アフロディモン聖教国襲来! 今はそっちに当たれ!」


 とりあえず、意識と視線は「人類最強」の方に向けたまま、口だけ出しておく。

 それ以上を気にする余裕は俺にもアスリーにもなかった。

 その途中、殴り飛ばされ、その衝撃で謁見の間の大扉をぶち破ってしまう。

 だが、戦いの勝敗はまだ決していない。

 体はまだ動く。まだまだこれからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ