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賢者巡礼  作者: ナハァト
422/614

サイド それぞれの戦い ファイ 1

 時は少しだけ遡り――。


     ―――


 俺が「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」に入ったのは、そこが最強だったからだ。

 誰だって一度は夢見るだろう。

 最強になりたい、と。

 それを叶えるのに一番の場所だと、俺は思ったのだ。

 ただ、実際はそう単純ではない。

 自分の力量に自信はあった。

 実際、「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」に入るまでは、苦戦はしても敗北することはなく、このまま最強まで駆け上がることができると思っていたのだ。

 そんな俺の前に立ち塞がったのが、アスリー。

 黒の長髪をうしろで一つに纏めて、「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」で最強と呼ばれる存在。

 しかも、端正な顔立ちなので非常にモテる。

 帝城勤めのメイドとかが恍惚とした笑みを浮かべながら、よく噂しているのを見かけていた。

 まあ、それは別にいい。

 女性からモテようがモテまいが気にしない。

 俺が気にしているのは、最強だと呼ばれているのが俺ではなくアスリーの方だということ。

 実際、そうだった。

 模擬戦だが、俺は負けた。

 世の中には自分よりも上が居るのだと知り、同時に俺の中での目標が最強ではなくアスリーに勝つことに変わる。

 合わせて、気付くことがあった。

 俺が最強を目指していたのは、戦うことが好きだからということ。

 戦いは楽しいモノだと再確認できた。

 だからこそ、色々と気付かせてくれた――感謝の気持ちも込めて、俺はアスリーを倒す。


     ―――


 その機会が訪れる。

 アルムからの提案で空から帝城に強襲を仕掛けると、アスリーは帝城の外壁を蹴り登って襲いかかってくるなんて真似を行ってきた。

 そこに、俺が上から仕掛ける。

 まあ、落下する、とも言うが。


「アスリー!」


「やはり来るか、ファイ」


「当然だ!」


「面倒な采配をする」


 アスリーが俺の落下していく位置から外れ――ようとしてやめたのが見えた。

 俺が槍を構えているので、帝城の外壁に突き刺して方向転換できることを察したようだ。


「ならば、お前からだ、ファイ。『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』を裏切り、反乱軍に付いたのだ。命を失う覚悟は当然あるのだろうな」


 アスリーが長剣を構え、俺と一戦交える様子を見せた。

 俺はニッ、と笑みを浮かべる。


「当たり前だろ! お前こそ覚悟はできているんだろうな! 今ここで、俺に負ける覚悟が!」


「愚問を」


 俺の振るう槍と、アスリーの振るう長剣がぶつかり合い、そのまま共に落下していく。

 といっても、ただ落下するのではなく、アスリーとやり合いながら。

 金属同士がぶつかる甲高い音を何度も奏でつつ、途中――俺は帝城の外壁やバルコニーを伝いながら、アスリーは木々を次々と渡りながら、地上へと下り立つ。

 その場所は――中庭。

 様々な草花が彩り豊かに咲き誇り、俺とアスリーの視界を奪おうとしてくる――が、惑わされない。

 それはアスリーも同じこと。

 今は目の前に相手()しか見えない。


「ファイ。確かにお前は強く、手強い。だが、それは俺に次ぐ強さでしかない。わかっているとは思うが、お前はこれまで俺に勝ったことはないのだからな」


「いつの話をしている? アスリー。お前はその強さから帝都、帝城の守護を任された。以前よりも戦いの場……それだけではない。戦いの質も落ちただろう? だが、俺はこれまで最前線に居続けた。お前との差は、もうない」


「……口ではなんとでも言える。お前が口だけの男かどうかは、その時にわかることだ」


 同時に飛び出し、俺の槍とアスリーの長剣がぶつかり合う。

 その衝撃が強過ぎたのだろう。

 周囲の草花の種子や花びらが空へと舞って――視界の一部を遮るのと同時に動き出した。

 守るのは性に合わないので、俺は怒涛の攻めを繰り出す。

 アスリーはそれらすべてを長剣で受けつつ、捌きながら、時折反撃も行ってきた。

 その反撃が相変わらず鋭い。

 どれも俺の命を刺し貫こうとしてくる。

 明確な殺意が長剣に乗せられていた。

 ……そう。これだよ。こちらは殺す気。あちらも殺す気。命の取り合い。緊張の連続。緊迫した空気。こちらとあちらの間、取り巻く空間のどこにでもあって。それらが一瞬で。あるいは永遠で。

 だが、それよりも俺を高揚させるのは、アスリーとやり合って確かな手応えを感じているということ。それはアスリーの方も同じだろう。

 俺とアスリーの実力が近しいということを。

 だからこそ、決着はどうなるかわからない。

 生か、死か。

 それが今はわからない。

 最後に立っていた者だけがわかること。

 ――ああ。俺は今戦っている。生きている。

 抑え切れずに、俺は笑みを浮かべた。


「楽しいなあ! アスリー!」


「それはお前だけだ。ファイ。この状況でお前だけが自分の戦闘欲を優先させている」


「それが、俺だ!」


 俺は抱く感情のままに振るう槍を激しくしていく。

 それはアスリーもそう。俺に合わせるかのように、反撃が苛烈になってきた。

 だが、そうなってくると中庭は手狭――というよりは、俺とアスリーの戦いを収めきれない。

 それに、こっちの都合で草花を散らせるのもな。

 帝城とその敷地内のすべてが俺とアスリーの戦いの場であると、帝城内通路や部屋、訓練場など様々な場所を移し、城門前で戦っていると――。


「て、敵襲~!」


 その言葉が俺とアスリーの耳に届く。

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