戦闘職じゃなければ弱いとは限ら……なんでもないです
母さんの無事は確認できたが、それで終わりではない。
反乱を成功させて、初めて俺は安心できる。
なので、今日はこのままここで一泊して、明日は明朝から反乱軍へ合流するために出発するつもりだ。
そこで待ったが入る。
「私も行くわ」
母さんが付いてくると言い始める。
「漸く馬鹿な当主と間抜けな跡継ぎを正面から拳でぶっ飛ばせる機会が訪れたのですから、とりあえず尻を蹴り叩いてやらないと気が済みません。膝蹴りで自分たちが行ったことを自覚させ、頬を引っ叩いてこれからどうなるのかをわからせて、王城から投げて王都に落とし、関節技で極めながら泣いて謝らせます。それだけやれば多少スッキリするでしょうから、それからであれば然るべき処置を……いえ、これまでの心身的苦しみを考慮すれば、そこからさらに拷問器具を一通り……」
取る手段が全部違うのは、父さんのこともあるし、母さんはきっと俺以上に思うところがあることの表れだろう。
俺としては母さんの気持ちもわかるので、付いてくることに問題はない。
離れた場所で何か起こるくらいなら、近場の方がまだ安心だ。
それに、今の俺なら母さんを守ることも可能である。
「……まあ、いいんじゃないか。護衛の対象がもう一人増えるくらい問題ない……というか、護衛が必要かどうかわからないが」
「新緑の大樹」のリューンさんがそう言い、パーティメンバーも同意するように頷いている。
護衛か。それには俺も同意だ。
「そうだな。母さんはか弱いし、護衛は必要だ」
「え?」
何故かみんな驚いている。
母さんはその通りだと頷き、シードさんは微笑みを浮かべているだけ。
「いや、母さんはメイドだぞ。戦闘職じゃないんだから、か弱いだろ」
「そ、そう……だな」
「母さんも自分はか弱いって言っていたし、間違いない」
「自己申告かよ!」
とりあえず、護衛してもらうとなると報酬が必要……と思ったが、よくよく考えてみればまだ無一文だ。
……俺にとっての最大の報酬は母さんの安全だし、反乱の協力で得られる副次的な報酬というか、現金でどうにか払えるだろうか?
あとでテレイルと相談しておこう。
そのあとは、これからのことを軽く打ち合わせして、このままこの屋敷で一泊する。
一応貴族の屋敷なので、リノファが泊まっても問題ない。
その夜に母さんにだけ、ダンジョン最下層で何が起こり、俺がどうなったか、それと反乱が終わったあとの目的も話した。
それがいつになるかはわからないが、その時が来れば快く送り出すと、母さんは俺の意思を尊重してくれる。
ただし、その代わりという訳ではないが偶にでいいから顔を見せて欲しい、とお願いされたので、もちろんと返す。
あと、俺がお世話になった無のグラノさんたちに会わせて欲しいとお願いされた。
母親として挨拶と俺を助けてくれたことへの感謝を伝えたいそうだ。
……う~ん。会わせるのは構わないが、問題はどうやってラビンさんの隠れ家まで連れていくか、だな。
「ツァード」までゼブライエン辺境伯や「新緑の大樹」の面々を運んだ時はそこまで時間がかからなかったから平気だったろうけど、長時間となると安易な方法では……まっ、今直ぐ解決しなくてはいけないモノではないか。
まずは、反乱を成功させてから、だ。
あと、もちろんマジックバックの中にあるお土産も渡しておいた。
「あらあらまあまあ」
満面の笑みを浮かべる母さん。
喜んでくれたようで何より。
ただ、今夜の分を除いてもまだ入っているので、使わない分は保存の意味も込めてマジックバックに仕舞っておいた。
――翌日。
時間的に考えて、合流する頃には王都で戦端が開かれている可能性が高いので、早々に反乱軍と合流するため早朝に出発する。
ここで付いてくるのは母さんだけ。
シードさんが居てくれれば何かと頼りになるが、ここに残って残った人たちを取り纏めないといけないそうだ。
残念。
シードさんや、この屋敷に勤めている執事やメイドさんたちに見送られながら出発する。
反乱軍と合流するまでの道中、母さんはリノファを可愛がるだけではなく、いつの間にか「新緑の大樹」のリディさんとベルデさんから「師匠」と呼ばれていた。
「母さん、師匠、なの?」
「そうよ。これでもメイドを極めているからね。炊事洗濯掃除、所謂家事関連は一通り極めているから、その伝授をお願いされたのよ。ね?」
「「はい!」」
直立不動で「新緑の大樹」のリディさんとベルデさんが答える。
既に強固な上下関係が築かれているようだ。
これには「新緑の大樹」のリューンさんとロロンさんから文句が出ると思っていたが、「ありがとう……本当にありがとう……」と逆に泣いて感謝された。
どうやら、色々とあるようだ。
そういえば、水のリタさんと土のアンススさんと光のレイさんも、それぞれ得意を自慢していたけど、苦手なのもあるんだろうか。
王都に向かうまでの間は、特にこれといったことは起こっていない。
精々が、スリーレル公爵領から反乱軍に協力するという人たちが合流して、それなりの大所帯になったことくらいだろう。
そして、王都に辿り着いた時――予想通りというか、戦端は既に開かれていた。




