まあ、こういうの言いたくなるよね
黒い大蛇のようなモノがワンドを締め上げ、叩いて気絶させ、俺に向く――その様子は、邪魔者を排除したからこれで思う存分に動ける、という風に見えなくもない。
それに、今は何が起こったのか? という純粋な疑問の方が強いのだ。
締め上げていたし、偶然とは思えない。
意図的だと思う……ん? 誰の意図だ?
「ワ、ワンド! どうした! ワンド!」
エラルが動揺しながらワンドの下へ駆け寄る。
ワンドの身を揺すろうとしたが、その前に黒い大蛇のようなモノが煩わしそうにエラルの方を向き、先ほどと同じく尻尾のような部分で壁まで叩き飛ばす。
威力がそこまででなかったのか、あるいはエラルが思っていたよりも頑丈だったのか、気絶しなかった。
ただ、俺のかかと落としよりは痛かったのだろう。
気絶はしないが、エラルは痛みで動けなくなった。
そうして、再び黒い大蛇のようなモノは俺の方に向き直る。
黒い大蛇のようなモノが、シャー……と威嚇するように口のような部分を大きく開け――俺に対する敵意を感じた。
………………。
………………。
いや、どういうこと! と思わずセカンたちを見る。
「「「………………」」」
セカンたちからは、いやこっちを見られても……という雰囲気が返ってきた。
エラルとワンドは俺に任せた。だから関わらない。任せた。巻き込むな。という意思も感じる。
……まあ、それはそうだよな。
俺も同じ思いだし。
ナナンさんに物理的に気絶させられた白衣の男性なら何かわかるかもしれないが、起こしたら起こしたでうるさいだろうし、もう一度ナナンさんが物理的に黙らせそうだ。
そうなると、今度は永遠に黙ることに……別に白衣の男性の身を案じる訳ではなく、生死はどちらでもいいが、反乱軍 にとっては生かしておいた方がいいかもしれないし、今はそっとしておこう。
待てよ。アブさんなら何か知っている、あるいは気付いていることがあるかもしれない。
少しばかり期待してアブさんを見れば――下を見ろ! と必死に指差している。
――下? と視線を下げれば、黒い大蛇のようなモノが直ぐそこまで這って来ていて、俺の足に噛み付こうとしてきた。
大急ぎで足を上げて回避すると、黒い大蛇のようなモノの口のような部分が閉じ、ガギンッ! と金属同士がぶつかる甲高い音が鳴る。
危なっ! 今のは本当に危なかった! 身体強化魔法を継続していて良かった。
そう思うのは早かったと、上げていない足の方に黒い大蛇のようなモノが噛み付こうとしてくる。
上げた足を下ろし、噛み付かれようとする足を上げて回避。
すると、今度は下ろした足に噛み付こうとしてきたので、上げた足を下ろして狙われた足を上げて回避すると、次は下ろした足の方が襲われ――と何度も上げ下げして回避し続ける。
途中で、踏ん付ければいいことに気付き、踏もうとしたが避けられた。
「こいつ!」
ならばと竜杖を叩き付けるが、黒い大蛇のようなモノは体部分をしならせて回避。
一度でやめず、何度も竜杖を叩き付けるが、黒い大蛇のようなモノは枷が外れたかのようにこれまでよりも素早く、一度も当たらない。
そうしている内に黒い大蛇のようなモノは俺から距離を取り、しゃしゃしゃしゃ、と笑うような仕草を見せる。
決めた。絶対潰す。
「そうか! わかったぞ!」
突然、セカンが声を上げた。
黒い大蛇のようなモノがいつ襲いかかってくるかわからない以上、視線は外せないが口だけ開いて尋ねる。
「何がわかったっていうんだ!」
「ジャアムが言っていただろう! 学習することができると! つまり、学習した結果なのだ! アルムを殺すためには邪魔だと! ワンドの読まれている攻めは必要ないと学習して、気絶させたのだ!」
なるほど。……俺だって思い付いたから。今、戦闘中だからそんな余裕がないだけで、思い付いたから。
ところで、ジャアムって……ああ、白衣の男性のことか。
……こういうの、不意に思い出すんだよな。
主に、どうでもいい時に。で、忘れる。
いや、それは別にどうでもいい。
ワンドが邪魔だと判断する学習は正しいと、俺も思う。
ただ、それを実行するって――。
「だが、これは結局魔道具だろう! 命令したヤツ、つまり使用者も排除の対象になるのか!」
「それは……そうか! ジャアムが試作と言っていた! ということは、まだ命令者に対する安全面とかそういう部分はまだだった可能性が高い! 実際に手を……尻尾か? とにかく、気絶させられたのだからな!」
答えるセカンの口調は力強く、これで間違いないという雰囲気がある。
余程自信があるのだろう。
何故なら、ドヤッているから。
チラッと見ただけでわかるドヤッ、だ。
俺もそれが正解だと思うし、それは別にいいのだが……チラッと見た時に感じだと……今度、夜のお店に行ったら話しそうなんだよな。
いい土産話が手に入った、と考えていそうだった。
トゥルマも見えたのだが、どこか悔しそうにしていたので、いい土産話が取られたとか思っていそう。
……まあ、別にいいんだけどね。
それに、そこにワンドの意識があろうがなかろうが、邪魔するのなら排除するまで。
そんな俺の心情を察したのか、黒い大蛇のようなモノは、しゃしゃしゃしゃ、と笑うのをやめて、しゃー! と威嚇してきた。




