動こうとしたら先に動かれることもある
当然と言えば当然だが、数は力である。
といっても、ただ数を揃えればいい、という訳ではない。
言ってしまえば、それなりの質でなければいくら数を揃えたところで有象無象にしかならないのだ。
直近の具体例だと、エラルとワンドである。
二人で襲いかかろうが敵にすらならない。
魔道具によって力を底上げしていようとも、だ。
けれど、そこに質の高いのが加わるとなると、話は変わってくる。
「やれ! そいつを殺してしまえ!」
ワンドの命令を受けて、黒い大蛇のようなモノが襲いかかってくる。
噛み殺そうとするだけではなく、その連接剣のような体躯を活かして、俺に巻き付き絞め殺そうともしてきた。
果たしてそれは絞め殺されるでいいのか、切り刻まれて死ぬのか、どっちだろうか。
まあ、それで捕らえられる俺ではないので気にしなくていいかもしれないが、黒い大蛇のようなモノからの攻撃を防ぐ、あるいは避けたところに――。
「ちぇいっ!」
ワンドが超速で襲撃してくる。
武器がないので体術によるモノだが、それでもワンドの行動自体は当初と変わらず読めるので問題はない。
だが、黒い大蛇のようなモノを相手しつつとなると一動作分は対処に遅れてしまう。
でもまあ、遅れても元々あった余裕が削れるだけで、まったくなくなる訳ではない。
まだ、対処できる。
襲いかかる黒い大蛇のようなモノを竜杖で叩き、ワンドを殴り、蹴り飛ばしたりと、こちらからの攻撃も入れていく。
これで、もう一人でも増えれば余裕がなくなって本当に面倒なことに――と思ったのがいけなかったのかもしれない。
「……わ、我を忘れてもらっては困るな!」
ワンドと黒い大蛇のようなモノが優勢に見えたのか、エラルも動き出して加わる。
長剣を振り回しながら襲いかかってきた。
「アルム! 助けは必要か?」
セカンが尋ねてくる。
といっても、その声に心配しているようなモノは感じられない。
一応、念のため、という感じだ。
「要らない!」
なので、断っておく。
これはエラルとワンドを俺がこの手で倒すことにこだわっているだけではなく、そもそも脅威ではないからだ。
ただ、このままエラルの行動を許すと余裕が完全になくなって本当に面倒になるので、その前に退場願おう。
「忘れていないから、安心してやられろ。あとでトドメだ」
エラルにかかと落としを食らわせて、床に叩き付ける。
「貴様ぁ!」
ワンドが怒る。
ついでに倒してやろうかと思ったが、そこに黒い大蛇のようなモノが襲いかかってきたので断念。
エラルの意識を断つことはできなかったが、いいダメージを与えることはできた。
痛みで床をゴロゴロと転がっているので、エラルはもうその時まで放置でいいだろう。
しかし、本当に黒い大蛇のようなモノが少し厄介だ。
これが魔道具というのも信じられないが、バトルドールの人型ではないモノ、と言われればどこか納得である。
けれど、バトルドールとはまったく違う。
姿形の話だけではなく、元が黒い大剣と黒い大盾ということもあって、その体は非常に頑丈で倒しにくい上に、その強さも元となったバトルドールの比ではない。
だが、黒い大蛇のようなモノの一番厄介なところは、学習するということだ。
こちらからの攻撃に直ぐ対処されて、通じなくなる。
だからといって、対処できないこともない。
通じる内に潰してしまえばいいのだ。
ただ、本当に頑丈なので身体強化魔法だけの肉弾戦では足りない可能性もあるので、そろそろ攻撃魔法でも使って跡形もなく消し飛ばした方がいいかもしれない。
黒い大蛇のようなモノに対してそう判断した時――それが起こった。
俺に、ではない。
ワンドの方に、だ。
「ん? どうした? さあ、動け! 早く襲いかかるのだ!」
突如、黒い大蛇のようなモノの動きが鈍くなり、ワンドの命令通りに動かなくなる。
「くそっ! いきなりどうしたのだ! やはり、まだ使用するには早かったか!」
ワンドが慌て出す。
そういえば、白衣の男性が試作と言っていたっけ。
いきなり動かしているし、俺も何度か叩き付けた。
それでどこか故障でもしたのかもしれない。
まあ、なんにしても、これは好機だ。
黒い大蛇のようなモノが動かないのなら、今の内にワンドを片付けてしまおう。
そう判断して、とっておきの……闇のアンクさんがこの時のために作り出していた闇属性魔法を――と魔力を練った瞬間、黒い大蛇のようなモノが動き出して襲いかかる。
俺に――ではなく、ワンドに。
「な、何ぃ!」
突然のことに驚き、反応が遅れたワンドは黒い大蛇のようなモノに巻き付かれ、締め上げられる。
「ば、馬鹿な! 一体何を!」
ワンドはどうにか抜け出そうとするが、黒い大蛇のようなモノの巻き付きはビクともしない。
寧ろ、締め付ける力が余りにも強く、ワンドの輝く黒い鎧が軋みを上げて、ヒビまで入るくらいだ。
「ぐ、ううう……な、なんだ、これは……何が起こって…」
ワンドが苦しそうに声を出す。
「くっ! ええい! 命令だ! 今直ぐやめろ! 私から離れるのだ!」
しかし、黒い大蛇のようなモノはやめない。
寧ろ、尻尾のようになっている部分を持ち上げ、ワンドの頭部を叩き、気絶させる。
ワンドから力が抜けると、黒い大蛇のようなモノは締め上げるのをやめて、今度は俺の方を向く。
……何故だろう。より手強くなったような気がしないでもない。




