切り札を出したら、普通はそれで終わりだよね?
「……フフフフフ」
なんかワンドが不気味に笑い出した。
いや、いきなりそんな笑いをするとか、なんか怖い。
「……ワ、ワンド?」
エラルが心配そうに声をかける。
いや、殺すよ。どちらも殺す。それだけのことをしたんだ。きっと、闇のアンクさん以外にも似たようなことをしているはずだ。いや、それは間違いない。
……ん? 待てよ。そういうことか。俺に対してワンドは怒りを露わにしていたが、エラルは恐れを抱いているように見えた。
それは、あの時闇のアンクさんは逃げ延びることができた。その先で死んだかもしれないし、生き延びて復讐の刃を研いでいるかもしれない。生死不明だからこそ、またいつ復讐に現れるのかわからない……それが怖かったのだろう。
……だからか。闇のアンクさんにした仕打ちを考えれば、このリミタリー帝国はエラルが皇帝の時にもっと荒れていてもおかしくないと思ったが、そうではなかった。いや、反乱が起こっている訳だし、荒れてはいるのか。それは現皇帝・ラトールのせいもあるけど。
いつか始まるかもしれない報復、あるいは、同じようなことをして似たような状況になり、別の誰かからの報告を恐れて、これまで強く出られなくなっていたのかもしれない。
だから、そこまで国が荒れることはなかった。
だが、それが遂に現れ――抑えていた恐怖が出てしまった、といったところか。
まあ、そっちは別にいい。
エラルとワンドが仲間なのは間違いなく、その仲間が心配そうに声をかけているんだ。
ワンドは、不気味に笑う以外の反応をした方がいいと思う。
「フフ……大丈夫です。エラルさま。気が触れた訳ではありません。私は正気ですよ。ただ、このままでは、こちら側の敗北は事実として起こります。それは栄えあるリミタリー帝国のためになりません。お優しいアンク殿下では駄目なのです。リミタリー帝国に優しさなど不要。リミタリー帝国に必要なのは強さのみ。強さですべてを――世界を――支配するのがリミタリー帝国なのです」
いや、そんなお前の理屈を披露されても困るのだが。
けれど、正気なのは助かる。
これは――この場の戦いだけは、闇のアンクさんの復讐の続きだと理解したまま果たしたいからな。
「ワンドよ。ほ、本当に大丈夫なのか?」
「もちろんです。これから、この場の……いいえ、反乱軍を皆殺しにし、リミタリー帝国こそ世界に覇を唱える強国……いいえ、超国であると示すために一役買うための覚悟が決まっただけですので」
ワンドがそう口にする。
いや、状況を見えているか? お前は俺に一撃も与えらず、現皇帝・ラトールとその他は既に捕らえられているのだ。
どうしようもないと思うが? 逆転はない……と思うが、ワンドにはそれができる策があるように見える。
そして、それを今から使う、と。
「お借りします」
ワンドが黒い大剣を片手で持ち、エラルから黒い盾を借りて、エラルよりも前に出て俺と対峙する。
「なんだ? 自分の方から殺してくれ、ということか?」
「いいや、死ぬのは貴様の方だ」
「……状況が見えていないようだな。これから、この状況ではどうしようもないだろう?」
「どうしようもできるのだよ。この状況でも覆すことができるモノがある。リミタリー帝国の魔道具は――その力は世界一なのだ」
ワンドが勝利を確信している笑みを浮かべる。
どうやら、ハッタリでも強がりでもなく、本当に何かあるようだ。
竜杖を身構える。
闇のアンクさんの記憶を受け継いだ時から決めていた。
エラルとワンド――復讐の続きを果たす時は、闇のアンクさんの属性――闇属性の魔法で果たす、と。
魔力を体に漲らせる。
「フフフ……ジャアム! あれは完成しているのだな!」
突然、ワンドが声を張り上げた。
問いかけ? ジャアム? 人の名前? 誰だ? と思っていると、捕らえられている白衣の男性が答える。
「あ。あれですか? い、一応完成まで持っていっていますが、まだ試作ですべての必須項目を確認していませんので、安全面に心配が」
「使えるのなら結構!」
どこか狂気的に見える笑みを浮かべて、ワンドが両腕を広げて、黒い大剣と黒い大盾を強調するように見せつけてくる。
「フハハハハハッ! 私が何も対策を講じていないと思っていたか? 年老いて体が満足に動かなくなることなど、己が一番理解しているわ! だからこそ、用意しておいた! とびっきりをな! 栄えあるリミタリー帝国がここまで大きくなったのには、魔道具の力も大きく関わっている! その力を見せてやる!」
「そ、そうです! 見せつけてやってください! ワンドさま! リミタリー帝国の魔道具は世界一! その証明を! 魔道具でこいつらを皆殺しにしてやってください!」
捕らえられたままなのに、白衣の男性が強く叫ぶ。
あっ、「うるさい」とナナンさんが叩いて黙らせた。
それを見ている間に、ワンドが動く。
「『連結』!」
何やらキーワードのような言葉をワンドが口にすると、黒い大剣と黒い大盾が強く輝き出す。
黒い大剣にあった継ぎ目が連接剣のように伸びていき、黒い大盾は継ぎ目の部分から縦に四分割に分かれ、黒い連接大剣となったモノの柄部分にくっ付くように繋がって、四分割した黒い大盾の先端がそれぞれ内側に折れて牙のようになる。
その形をそのまま見れば、上下の大牙を見せるように口を開けた――巨大な黒蛇、だろうか。
わかりづらかったため、改稿しました。
詳細は次話の前書きにあります。




