表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者巡礼  作者: ナハァト
411/614

人の胸の内はわからない

 前へ出ると同時に、ワンドと相対するということで、闇のアンクさんの受け継いだ記憶が俺の中で浮き上がる。


     ―――


 現在から大体五十年前。あと周辺の小国をいくつか落とせば、リミタリー帝国が現在の形になるという頃――リミタリー帝国は大きくなるにつれて、その内部も力を付けていき、そのまま力に溺れ、己を失い、保つことが難しくなっていた。

 王国時代からの民が優遇され、帝国となって支配した周辺国の民は奴隷のように扱う。

 そのようなことが人々に蔓延して広がっていく。

 特に皇族や上位貴族はそれが顕著と言えるだろう。

 何を行おうともねじ伏せられて問題でなくなる。

 反乱に至る歪みは、この頃から既にあったのだ。

 その頃には、既に「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」は存在していて、能力を上げる黒い鎧もあり、当時からリミタリー帝国・最強戦力とされていた。

 闇のアンクさんは、その一員。副団長であった。

 というのも、闇のアンクさんにはある種の才能があったのだ。

 魔法もそうだが、魔道具――黒い鎧に対する適合性が他の者よりも高かった。その分の消耗――魔力消費や黒い鎧にかかる負荷はあるが、それでも当時「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」最強は闇のアンクさんだったのは間違いない。

 闇のアンクさんは、黒い鎧に使用している素材との親和性が高いのではないか、と推測しているのだが……まあ、あながち間違っていないと思う。

 まあ、それはさておき……闇のアンクさんの人生は順風満帆だったと思うのだが、それが今に至る原因となった事件がある日起こる。

 いや、その予兆となるべきことは前からあった。

 肥大した力、意思は、時として暴挙を引き起こす。

 それが行われたのは、元周辺国の一国――そこにある村。

 そこに反乱を企てている者たちが集い、それを捕縛、あるいは阻止――という名目で、当時の「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」全員が派遣された。

 これは、今もそうだが普通ではあり得ないこと。

暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」は、リミタリー帝国最強の剣であると同時に盾でもあるのだ。

 特に帝都は「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」が居るからこそ盤石の守りである、とまで言われている。

 なのに、一人も残らず、なのだ。

 闇のアンクさんは、余程のことが起きている、と最初は思った。

 ただ、気にかかることもあって、確かに「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」全員が派遣されたが、その他は従者のような者たちと、魔道具師しか同道していなかったのである。

 余程のことなら戦力だけでなく人数も必要なのでは? と考えたが、当時から団長であるワンドに尋ねると、「これで充分だ」、「エラル皇帝陛下の指示である」としか答えず、仕方ない、着いてから判断するしかない、と闇のアンクさんも従う。

 そうして、闇のアンクさんは何かしらの不穏な空気を感じつつ、目的の村へと辿り着く。

 結果から言えば――行われたのは虐殺。全滅。村はなくなる。

 ただし、そこに反乱者なんて居なかった。

 村人全員が、当時の黒い鎧の新型性能実験、検証として殺されたのである。

 闇のアンクさんはそれに気付いた瞬間に、これが異常である、おかしいと思う「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」の数人と共に立ち塞がり、とめようとしたが……駄目だった。

 如何に優秀であろうとも、相手も同じく優秀な者で構成されている「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」。それに、当時の「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」は、言ってしまえばそういう輩――ワンド側の者が圧倒的に多く、闇のアンクさんたちは数の力で負け、捕らえられ、気を失うまで痛めつけられて――気が付いた時にはすべて終わっていた。

 それだけではない。

 捕らえられた闇のアンクさんたちは、この暴挙を行うよう指示したエラルと実行したワンドから危険視され、エラルが皇帝として君臨していたということもあって、ありもしない罪をいくつも被せられ……極刑とされる。

 また、エラルとワンドは、逆らう者はこうなるという見せしめに使おうと、帝都に処刑台を用意した。

 そこでさらなる悲劇が起こる。

 闇のアンクさんには仲睦まじい婚約者が居た。

 処刑台に上げられた闇のアンクさんを救おうと、その婚約者が助命の嘆願を申し出たのだ。

 しかし、エラルとワンドはそれに耳すら貸さず――さらには、これは闇のアンクさんが自分たちに逆らった罰として絶望を与えると……ワンドが取り押さえ、エラルが婚約者の胸に剣を突き立てた。

 そこからの闇のアンクさんの記憶は、今のスケルトン状態になるまでの間、曖昧である。

 何故なら、怒りで我を忘れているような状態だったからだ。

 それでもどうにか断片的に繋ぎ合わせれば、婚約者を殺された闇のアンクさんは怒り狂い、拘束されていたのだが、その拘束を無理矢理解き、共に殺されそうになっていた仲間たちを救うと同時に暴れに暴れた。

 闇のアンクさんは自らが傷付くことを厭わずに、処刑人や取り押さえようとしてくる「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」を倒しながら、エラルとワンドへと襲いかかる。

 殺された婚約者の復讐を行うために。

 実験で殺された村の人たちの無念を晴らす、という部分もあったかもしれない。

 数は相手の方が多いのだが、この時の闇のアンクさんはそれをものともせずに、次々と倒していき――エラルとワンドへと迫る。

 エラルとワンドを相手にして、互角以上の戦いを繰り広げ……エラルにいくつも傷を与え、あともう少しでワンドを殺せそうになった時、エラルが闇のアンクさんの婚約者の死体を傷付けようとしたため気が逸れた――瞬間、ワンドに斬られて倒れてしまう。

 そこで、仲間たちが救出に入り、どうにかこの場から脱出。

 闇のアンクさんは婚約者を残していけないと口にしていたが、ワンドに斬られた傷は致命傷に近く、満足に動くことはできなかった。

 帝都から出ることに成功し、傷を癒して全快すると同時に復讐の続きを――といきたいが、差し向けられる追っ手がとまらずに、逃亡を続ける日々。

 それは他国に渡っても続き――最終的に世界最大(ラビンさんの)ダンジョンで追っ手を撒こうしたが失敗して、闇のアンクさんはあの大穴に落ちてしまい、今に至る。

 もし、闇のアンクさんがスケルトン状態になって、外に出られたのなら――そのまま復讐しにリミタリー帝国に戻っただろう。

 しかし、出られなかった……。


     ―――


 普段の――俺と接する時の闇のアンクさんは優しい(スケルトン)だった。

 けれど、その記憶を受け継いだ今――闇のアンクさんの心の中には常に無念があったのだ。

 俺が、復讐の続きを果たし、無念を晴らす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ