身分とか立場とか関係ない時がある
場所を移し、スリーレル公爵家の屋敷内にあるダイニングルームへ移動。
人数が多いので、あそこには無駄に大きな食卓もあるし、場所として悪くないだろう。
こちらは来た全員で、対するはこの屋敷に残った者たちの代表格である母さんと、老齢の執事が一人。
老齢といっても、この人は背筋もしっかりとしていて、どこか歴戦の勇士のような顔立ちと雰囲気を持っている執事で、名は「シード」さん。
このシードさんも、というよりは、今この屋敷に残っているのは全員味方というか、スリーレル公爵家をよく思っていない人たちだ。
普段から付き合いというか、仕事仲間だったからこそ、それをわかっている。
そして、まずは母さんとシードさんからスリーレル公爵家のことについて聞くが、やはりというか俺の予測通りの行動を取ったそうだ。
やっぱり、としか言えない。
ちなみにだが、スリーレル公爵夫人――跡継ぎの母親は居ない。
有用スキル持ちではあったが、病気で亡くなっている。
生前は夫人からもよくいびられていた。
「ところで……あなたたちは息子とどういう関係なのかしら?」
母さんが穏やかな口調でそう尋ねてくる。
「くっ……」
「新緑の大樹」のリューンさんが呻き……いや、こっち側は俺以外の全員がどこか苦しそうだ。
ど、どうした? 食中毒か?
そこらのモノでも拾い食いしたのか?
ん? そういえば、なんか室内の空気が重いような……。
「これこれ。敵ではないというのに、メイド式威圧の一、『冥途へ送りますよ?』はやめなさい」
「敵ではないかもしれませんが、女は息子に這い寄る可能性があります。男はついで……いえ、中には居るかもしれません。ですが、師匠がそう言うのならこれくらいにしてきます」
そうそう。シードさんは母さん……それと、父さんの師匠である。
もちろん、執事とメイドとしての、だ。
俺も執事についてはシードさんから教わっていた。
というか……あれ? なんか空気が軽く……いや、普通に戻っただけか。
「……アルム。お前の母親、何者だよ」
対峙するだけでドッと疲れるような、そんな強力な存在と出会ったあとのようなことを「新緑の大樹」のリューンさんが尋ねてくるが――。
「メイド」
としか答えられない。
「……この母親にしてこの子あり、か」
「新緑の大樹」のリューンさんがどこか達観したかのようにそう言うと、揃って他の人たちがうんうんと頷く。
似た者親子ってことだろうか?
でへへ。と頭を掻くと、母さんも同じように頭を掻いていた。
「こほん。話が逸れましたな。では、続きといきましょう」
シードさんがそう言って、スリーレル公爵領についても教えてくれる。
現在、スリーレル公爵領は反乱軍の話を聞き、今こそ立ち上がる時ではと決起しようとしているそうだ。
要は、反乱軍に加わるのがスリーレル公爵領に住む人たちの考えで、逃げたスリーレル公爵家は帰って来るな! いや、来させるな! が合言葉となっている。
それだけ追い詰められているということであり、スリーレル公爵家を守っている有用スキル持ちの者たちも合わせて居なくなったので、これがおそらく最大最後のチャンスだと考えた結果だろう。
まあ、スリーレル公爵家に求心力なんて欠片もないので、当然の帰結だと言える。
なので、俺としても同行者について色々と明かしやすい。
ダンジョン最下層での出来事についてはあとで母さんにだけ明かすとして、それ以外の言ってはいい部分を簡潔に伝え、同行者がどういう立場の人たちなのかを紹介する――までは、普通に進んでいた。
でも、今は違う。
「リノファちゃんは可愛いわね」
「あ、ありがとうございます」
今の俺の立場を伝えると、母さんが突然リノファを自分の膝の上に乗せて、頭を撫で始めたのである。
リノファは照れつつもなされるがままだ。
さすがに危害を加えれば問題だけど、そうではないため、同行していた護衛の人たちがオロオロしている。
「いや、母さん。リノファは王族だよ?」
さすがに不敬罪とか適用されるのでは? と思ってしまう。
「何を言っているの、アルム。今、アルムとここに居ないテレイル殿下、いえ、もうそういうのは必要ないわね。テレイルはアルムと義兄弟となっているのでしょう?」
「まあ、対外的には」
「なら、テレイルの妹であるリノファちゃんも、アルムの義妹ということになるわよね?」
「まあ、そういうことになる、か?」
確認のために「新緑の大樹」の面々を見るが、誰しもがこっちを見るなと視線を合わせてくれない。
「そして、私はアルムの母親。アルムに義兄弟ができたというのなら、それは私にとっても義理とはいえ息子と娘。母親が息子と娘を甘やかして可愛がるのに、王族とかそんなことが関係あるのかしら?」
「ない」
どれだけ考えても、答えはその一つ。
「……いや、少なくとも時と場所は選ぶべきだろ」
「新緑の大樹」のリューンさんの言葉に頷く人が多かった。
とりあえず、スリーレル公爵領の住民たちは、反乱軍に協力するということがわかった。




