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賢者巡礼  作者: ナハァト
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サイド それぞれの戦い エル&ナナン

 アルムが動いたのと同時に、私たちも動き出します。

 アルムの狙いは口にしたように、エラル前皇帝とワンド団長のようで、ワンド団長が相手をするようアルムの下へ向かいました。

 その間に、私たちは現皇帝・ラトールを押さえる――のが理想ではありますが、そう簡単にはいきません。

 現皇帝・ラトールの下へと辿り着く前に、立ち塞がる者たちが居ます。

 私とナナンの前に立ち塞がったのは、セカンさんの代わりに「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」入ったという新入り――ニューン。

 武器は――持っていない。その代わり、両腕に小さな円盾を付けている。


「本当はセカンを倒して『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』には実力で入ったと証明したかったが仕方ない。さすがにあっちの邪魔はできないからな。俺の相手は必然的に雑魚となる訳だが、たとえ雑魚でも『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』なのは間違いない。それに、二人同時に相手をして倒してしまえば、否応なしに俺の実力は知れ渡るというものだ」


 既に勝利を得たような笑みを浮かべるニューン。

 そう決め付けるのは早計というモノです。


「随分と性格の悪そうなのが入ったようですね。まあ、私からすれば『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』の大半はこんなモノだったような気がします。ナナン以外は興味すらありませんでしたし。ですが、もう抜けましたので元ですが、先輩として教えてあげますよ。『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』の強さとは、どれほどのものであるべきか、を」


 短剣を手に私が突っ込み、細剣を構えたナナンがあとに続きます。

 そのまま連携を行いますが、私とナナンの連携は……まあ、形だけでは整っている、という程度でしょうか。

 そもそもこれまで共に戦う機会はありませんでしたし、幼い頃も大抵……いえ正直に言えばナナンには一度も勝てずに叩きのめされてばかりでしたが……まあ、今なら負けませんが。ナナンを守れる男になったと思います。

 いえ、今は戦いに集中しないと……。

 ともかく、そんな感じなので、形だけとなってしまうのは仕方ありません。

 それでも普通なら充分通用します――が、相手も「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」に選ばれるだけの力は持っている、ということでしょう。

 ニューンは円盾を巧みに使い、私とナナンの攻撃をすべて捌きます。

 戦いが始まってから、一撃もまともに入っていません。


「ハハハッ! 先輩っつっても大したことないな! 二人も居て、俺に攻撃を通せないとはな!」


 言ってくれる! と力を込めて短剣を振るう。

 すると、円盾に受け流され、そのまま蹴り飛ばされました。

 鎧越しでも威力は充分に伝わり、痛みを感じます。

 なるほど。セカンさんの代わり――つまり、格闘術の使い手でもある訳ですか。


「エル!」


「ハッ! 雑魚い!」


 私を心配する悲痛なナナンの声のあと、ニューンの鼻で笑ったような声が聞こえてきました。


「おいおい、マジでこんなものなのか? 『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』――いや、能力強化されている黒い鎧を付けていて、これか? まあ、俺が強過ぎるってのもあるんだろうがよ!」


 嘲るように言ってきます。

 やれやれ。たかが一撃を当てた程度で……随分と調子に乗りますね。

 底が知れるというも――。


「おっ! いいこと思い付いた! さっきの感じだと、あんたとナナンは恋仲ってヤツだろ? ナナンはよ、俺が『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』に入った時に目を付けていたのに、上手くやりやがったな」


「……は?」


 それが何ですか? と言いたくなる。

 何より、私に対する嘲りがそのままなのが気にかかった。

 醜悪な笑みを浮かべたニューンが口を開きます。


「だからよ、あんたとナナンを倒したら、ナナンは俺がもらってやるよ! ナナンも強い男の方がいいだろう? だが、負けたあんたをそのままにするのは可哀想だし、せめてもの情けであんたの目の前でナナンとやってやるよ! ナナンは俺のモノになったとな! ハハハハハ!」


「……誰がお前のモノになど――」


 ナナンが反論しているようですが、私には聞こえませんでした。

 いえ、ナナンの声だけではありません。周囲の音が一切聞こえなくなっていき……視界も……。

 私は私を忘れ――怒りのままに――。


 (オーガ)が生まれた。


     ―――


 ………………。


「……ル!」


 ………………。


「エ……!」


 ………………誰かに、呼ばれ……。


「エル!」


 はっ! と意識が目覚めます。

 周囲を確認し……何やら記憶が抜け落ちている気がします。

 というのも、私は誰かの黒い鎧の首元を掴み、もう一方の手は血まみれの拳を握っていました。

 誰かは……わかりません。いえ、正確には相当殴られたのか、顔面の形が変わり過ぎていて判別が付かない、でしょうか。


「………………」


 こひゅー……こひゅ―……と、辛うじて、という感じで息はしていますので、生きてはいるようです。

 これは一体誰で、誰がこんなことを……あっ、血まみれの拳。私か。

 ということは……。


「……ナナン。もしかして、これはニューンですか?」


「……覚えてないの?」


「はい。まったく」


「……えっと」


 ナナンの説明によると、ニューンが話している最中に私が目にもとまらぬ速さで飛び出し、短剣を投げ、ニューンが円盾で防ぐが、私がその間に距離を詰めて円盾を掴んで力任せに防御を崩し、ニューンの黒い鎧の首元を掴んで、そのまま顔面を殴り続けた……らしい。

 記憶にまったくありません。

 本当にそれは私でしょうか? そのような乱暴な戦い方をした覚えはこれまでないのですが。


「……やったのは、間違いなくエル」


「そうですか。なんとも、私らしくない戦い方を」


「……でも、カッコよかったよ。私のために怒っているってわかったし。……だから、嬉しかった」


「……ナナン」


「……エル」


 甘い空気が私とナナンを包みます。

 今、世界には私とナナンだけ……おっと、これ(ニューン)はもう要りませんね。

 ぽいっ、と捨てます。

 さあ、ナナン。続きを――。


「……今の内に皇帝を」


「……そうですね。うん。そうです」


 現皇帝・ラトールの確保に向かいます。

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