さすがにその手段は、というのもある
俺が前に向かって進むと、セカンたちがあとを付いてくる。
チラリと上を見れば、アブさんも入って来ていたので、念のために目配せ。
わかっている、と頷きが返ってくる。いざという時は、出し惜しみはしない。
そうして、謁見の間の中ほどで進むのをやめて対峙する。
「……よくぞここまで来た、と言っておこう」
現皇帝・ラトールがそう口にする。
ただ、褒めているような類のモノは一切感じない。
寧ろ、声の調子から感じられるのは――。
「まるで、これ以上先には進めない――何もできないと言いたげだな」
俺はそう言うと、現皇帝・ラトールの目付きが鋭くなる。
その目にはハッキリと敵意……それと侮蔑が見えて、隠す気は一切なさそうだ。
いや、まあ、敵なのは確かなので、そんな視線でも別にいいとは思うのだが、先ほどの自ら名乗ってくれた優しさはどこに行ったのだろうか? やはり、先ほどのは優しさではなく、どうして自分のことを知らないのだと、思わず言ってしまったのかもしれない。
でもまあ、皇帝ともなれば迂闊にというか、そう頻繁に外に出るのは難しいだろうから、もしかすると自分の知名度ってそんなにない? みたいなことを常に考えていてもおかしくない。
知っていると思っていたのに知らないと突き付けられたら、動揺くらいはする可能性はある。
先ほどのは、そういう思いによって、か。
闇のアンクさんのことに関して現皇帝は関係ないし、少しは優しくしてもいいかもしれない。まあ、俺がそうでも、セカンたちがそうするとは限らないが。
「……貴様、どうして我をそんな目で見ている。何やら、こう……不快だ。そうではない、と否定したくなる。……いや、どうしてそれで、無理に否定しなくてもいい、みたいな目になるのだ」
意味がわからないと眉根を寄せる現皇帝・ラトールの態度に、近衛騎士たちが反応する。
「貴様! ラトール陛下への直答だけではなく、そのような不遜な物言いと態度! 万死に値する! この場で切り捨ててくれる!」
近衛騎士たちが腰に差している剣を抜こうとする。
なんだ? もうやるのか?
竜杖を身構え――気付く。
目の前にはエラルとワンドに加えて、リミタリー帝国側の重要人物ばかりというか、この戦いを終わらせるのに打倒しなければならない者ばかりである。
ということは、だ。
ここで超広範囲魔法に定評があるかもしれない今の俺の魔法を放てば……終わりでは? ここで終了にならない? 魔力は……クフォラとの戦いで使ったと言ってもまだまだ余力は充分にあるし。……いやいや、待て待て。そんな魔法をここで使ってみろ。ここは位置的に帝城の中心みたいなモノだし、中心が崩れたとなると、さすがの帝城も持ち堪えられずに完全倒壊……はさすがにならなくても、五割以上はもっていかれる可能性は充分にある。さすがにそこまで倒壊させるのは……ちょっと……。
それに、ほら……さすがに、この場の空気というか……それで終わらせるのは……ねえ………………セカンたちと相談くらいはしておこうかな。
ちょっと待ってもらおうとしたが、その前に待ったが入る。
「待て。近衛騎士たちよ。そいつは私が相手をする。見過せない――確実に殺さねばならないからな」
ワンドが俺を見ながらそう言ってくる。
「『暗黒騎士団』・団長であるワンドがここまで口にしているのだ。お前たち、手を出すなよ。逆にワンドに斬られるぞ」
「はっ!」
現皇帝・ラトールの言葉に近衛騎士たちが俺から敵意を外して……トゥルマに向ける。
トゥルマは元近衛騎士だし、思うところがあるのかもしれない。
いや、他にも同じようにそれぞれ思うところがある人物が居るのか、視線を向けていて……いや、こちらも同じように視線を向けていた。
それに気付くと、どことなくこの場の空気が重くなっている気がする。
一触即発の空気というか、何かきっかけがあれば一気に動き出しそうな……そうだよな。思うところ、あるよな。
敵が固まっている。好都合だ。と超範囲魔法――ついでに威力高めに放って終わらせるのは違うとわかる。
……危なかった。本当にやる直前だった。相談した方がいいと一旦待って良かった。
俺はしっかりとワンドを見て口を開く。
「……そうだな、正直なところ、俺は別に皇帝をどうこうリミタリー帝国をどうこうなんかに興味はない。反乱軍に協力しているのも、お前とエラルが目的だからだ。だから、今はそれ以外どうでもいい。俺からすれば、まずはお前とエラルだ」
「そこは同意見と言っておこう。お前がここまでくるとは思わなかったが、どうやら部下が不甲斐なかったようだ。まあ、それはいい。ここまで来たのだ。なら、私が直々に殺してやる。その方が、報告を聞くよりも安心できるというモノ」
「……アンクさんの時と違って、卑怯な真似は通じない。果たして、それでお前に俺を殺すことができるかな?」
俺とワンドの間で、戦いが起こりそうな雰囲気が漂い始める。
それに合わせて、他でも同じように漂い始め――それが謁見の間の中を満たしていく。
……タイミングを合わせた訳ではない。
けれど、こっちも向こうも、同時に前へと飛び出した。




