相手を知ることは重要である
出会い頭の攻撃は……なかった。
天井から吊るされたシャンデリアに照らされた謁見の間は、繊細な刺繍の垂れ幕が垂れ下がり、細かな装飾が施された壁に囲まれ、それに合わせたような荘厳な雰囲気に満ちていて、敷かれている絨毯が奥まで続いている。
その奥――数段高くなった場所の真ん中に玉座が置かれてそこに鎮座している者――それと玉座の左右に一脚ずつ、玉座よりも格は下がるが豪華な椅子が置かれ、そこにも鎮座している者が居た。その周囲を守るように立っているのが、七人。
合計十人が居る。
注意深く入ってきたことがおかしかったのか、どことなく笑っているように見えた。
その中で、玉座と豪華な椅子に座っているのが皇族だろう。
それがわかるのは、俺の中に闇のアンクさんの記憶があるからである。
俺から見て左の豪華な椅子に鎮座しているのは、記憶の中よりも年老いていてもわかる、白髪の長髪で鋭い眼光を持つ八十代くらいの男性――エラルだからだ。
ただ、俺を見るその目にはどこか怯えがあるように見える。
そして、中央の玉座に鎮座しているのは、白髪交じりの金髪に冷たい印象の目を持つ五十代くらいの男性で、どことなくエラルに似ているので……おそらく現皇帝。名は……エラルとワンドが目的だったから――。
「アルム。どうした? 早く進め」
うしろからセカンが早く行けと急かしてくる。
俺が先頭に立っているので、先に行きづらいのだろう。
というか、今更ながら、どうして俺が先頭なのだろうか? これだとまるで俺が率いているように見えるのだが……反乱軍の協力者って立場だよ、俺。
でも、今更この位置を変える――というか、変えようと動くのも変か。
このままでいこう。けれど、先に行く前に――。
「あ、ああ。でも、その前に確認したいんだが」
「なんだ?」
「現皇帝の名って何?」
「……はあ」
セカンが息を吐く。
この場でこいつは……とか思っていそう。
いや、だって、ほら。今まで一切興味なかったし。俺の目的じゃなかったから。
「……我が名は、ラトール。栄えあるリミタリー帝国を統べる皇帝である」
返事は玉座の方から聞こえてきた。
どうやら、俺の問いは向こうにも聞こえていたようだ。
まあね。外は戦闘中で騒々しいけれど、謁見の間は静かだから。そういう造りなのかもしれない。謁見の間って直答もあるから、声を拾いやすいようにしている可能性はある。
でも、わざわざ教えてくれるとはありがたい。
どうも、と軽く一礼。
ただ、さすがに優しさで教えた訳ではないだろうから……知られていないのが寂しかったとかかな?
玉座の右の豪華な椅子に鎮座しているのは、金髪にこちらを見下すように見ている二十代くらいの男性。
確か、アンル殿下とネラル殿下の他に皇太子が居るって言っていたから、そいつだろう。
………………。
………………。
「まあ、いいか。次は」
「良くはないだろう! 俺さまを誰だと思っている! 栄えあるリミタリー帝国の次期皇帝、皇太子であるラフラルさまだぞ! 貴様は処刑だ!」
いきなり怒鳴られた。
「……なるほど。やっぱりお前が皇太子か」
「貴様! 俺さまはラフラルだと言って、というか、お前とはなんだ! お前とは――」
何やら皇太子がわーぎゃー叫んでいるが、耳は貸さなかった。
正直言って、玉座側に居る者たちの中で、ある意味一番どうでもいいというか、戦闘に関しても皇太子として習ってはいそうだが、強そうには見えないので放置でもいいだろう。
次は、皇族以外だ。
エラルの隣で立つワンドは以前も見たが、白髪の短髪に厳つい顔立ちをさらに険しくして俺たち……いや、俺を見ている。
視線が合ったので、ここまで来た。もう逃げられないぞ、と見返しておいた。
エラルと違い、ワンドは俺に対して敵意と殺意しかない。
そんなワンドの他に、黒い鎧を身に付けているのが二人居る。
「暗黒騎士団」の人数的に抜けたセカンを数えなければ、これで十三人。つまり、一人はセカンの代わりに「暗黒騎士団」に入った人物。
一人は、茶髪に無表情の二十代くらいの男性。
一人は、銀髪に鋭い眼光の二十代くらいの男性。
「……セカン。ワンド以外の『暗黒騎士団』は?」
「一人は知っている。茶髪の方だ。名はサティ。『暗黒騎士団』が敵に回った場合に表に出てくる者。言ってしまえば、『暗黒騎士団』を処刑するための『暗黒騎士団』だ」
なるほど。相当強いってことか。
まあ、さすがにファイとか「暗黒騎士団」最強の男性よりは弱いと思うが、処刑というのなら何も真正面から行う必要はない。暗殺寄りってことだと思う。
ただ、もう一人の方は知らないそうだ。
エルにも視線を向けるが、知らないと首を横に振った。
どうしたものか、と思っていると、ナナンさんと目が合う。
「……あれの名はニューン。つい先日、セカンさんの代わりとして入ったヤツ」
そう補足してくれた。
教えてくれてありがとう。
向こうにも聞こえていたようで、鼻で笑う仕草で返された。
なんか癇に障る。
あとの四人の内、三人は揃いの鎧を身に付けており、闇のアンクさんの記憶から近衛騎士だということがわかった。
俺は皇太子と同じく特に何も思わないが、トゥルマには思うところがあるのだろう。敵意を持って見ている。
あと一人。茶髪の三十代後半くらい、白衣を身に纏っている男性が、俺を憎々しげに見ていた。
……知り合いではない。
「セカン。あれは誰だ?」
「あいつはジャアム。リミタリー帝国の魔道具師を束ねる魔道具師長だ」
なるほど。となると、俺を憎々しげに見ているのは……クフォラが言っていた魔力波の件だろう。U型建造物を破壊したことかな?
そんな感じで一通り確認してから、俺は前へと進む。




