そのあとの印象が強過ぎて思い出せないこともある
クフォラが石人形に炎を纏わせて、燃え盛る石人形とした。
だが、外まで俺を追ってきたのは間違い。
外なら、帝城を損壊させる心配とか、そういうことを気にする必要はないのだ。……いや、あるのはあるか。いや、クフォラがもうホールの門を壊したし、今更ではないだろうか? ここから多少壊れたからといって、全壊にならなければ全壊ではなく、多少の多の方で済むから問題ない……で終わればいいが無理だろうな。
というか、これまでに俺が帝城に与えた損壊と、今クフォラが壊したホールの門とその外周部なら……クフォラの方が損壊させているのではないだろうか? ……そうに違いない。
なら、これ以上損壊させないようにすれば……帝城損壊に対する追及はクフォラの方に……向かないか。向く訳がない。まあ、今はそこを気にしても仕方ない。何より、まずは勝つことが先である。
それに、クフォラも言った。建て直せばいい、と。
だから、相手がゴーレムでくるのなら、こっちもゴーレムだ。
幸いと言うべきか、少し距離はあるが井戸が見えた。
そこの水を媒介にして――。
『青流 其れは流動的で 其れはあらゆるモノを取り込み 其れは素直である 水人形』
井戸の中から窮屈そうにして、水でできたゴーレム――燃え盛る石人形と同程度の大きさの水人形が現れる。
俺の横に立たせるが……うん。その体から水がぼたぼたと落ちてきていて、俺の足元が結構濡れる。
でもまあ、これは俺の制御の甘さが原因。水のリタさんだったなら、一滴も落ちないように留めることができるだろう。
水人形を見て、クフォラが笑みを浮かべる。
「当然のように対抗してきて……嫉妬しますよ。あなたの魔法と魔力量に」
「嫉妬? あんただって『暗黒騎士団』なんだから一流……いや、それ以上だろ」
「フッ。もちろん、魔法に関する技術全般には自信がありますよ。それでこの地位まで上りましたから。ですが、魔力量自体は、まあ多い方ですが、同程度や私以上は居るでしょう。この黒い鎧で増えたとしても、です。しかし――」
クフォラが俺を睨む。
その目には強い感情が宿っていた。
おそらく、それが嫉妬だろう。
「あなたより魔力量を持つ者は居ないでしょうね。魔法使い凡そ百人分の魔力波を防いでなお、ここまでなんでもないように活動しているのですから」
魔力波? ………………なんの話? と思ったが直ぐに思い出す。ああ、そんなことしたな、と。そうして思い出していると、クフォラが半眼で俺を見ている。
「……今、忘れていたって顔をしませんでしたか?」
「いいえ、まったく」
疑われないように即座に否定しておく。
「まあ、あなたにとっては魔法使い凡そ百人分の魔力量など忘れるくらい大したことはない、ということでしょう」
疑われてはいない。確信を持たれたようだ。何故?
でも、大したことはない、とは思っていない。本当に。
ただ、帝城に入ってから濃密なことばかりだったから、そっちの印象が強く……というだけである。
「だからこそ、それだけの魔力量を持つあなたが魔法使いとして妬ましく、憎い! どうしてそれだけの魔力量を持つのが私ではなかったのか!」
クフォラが激昂し、合わせて燃え盛る石人形の纏っている炎が大きく燃え上がる。
その分、火の粉が待って、俺の近くにある観賞用だろう園芸に火が付いて――燃え上がる前に水人形を少し動かして消火しておく。
周囲が危なくなるから、クフォラは落ち着いて欲しい――と思っていると、クフォラが本当に落ち着いた笑みを浮かべる。
……え? それはそれで、なんか怖い。
「……ですが、もういいのです。ないものねだりをしても致し方ありません。それに、あなたの思いはしっかりと受けとめました」
「………………は? 俺の思い?」
「ええ。あなたは応えてくれた……。知っていますか? 愛と憎は表裏一体。愛が憎しみになることもあれば、憎しみが愛になることもあるのです。……さあ、私の熱い思い! しっかりと受けとめて強く抱き締めて! あなたの思いで!」
「なんか変なこじれ方をしている気がする! 行け! 水人形! 燃え盛る石人形を倒すんだ!」
俺のからの命令を受けた水人形が前に出て、燃え盛る石人形に襲いかかる。
「フフ。あなたから来ていただけるなんて、積極的ですね。燃え盛る石人形。私の熱い思いを戦いなさい」
水人形と燃え盛る石人形が戦う。
まあ、戦うというよりは、お互いに防御無視で殴り合うという感じだが。
押しているのはこっちの方――と言いたいが、そうでもない。
こちらの攻撃で纏っている炎は消せるのだが、石部分までは削れない――だけではなく、消した炎も直ぐに他から燃え移ってきて再び纏う。
対して、こちらの方は、相性の問題もあるのかもしれない。
相手の石部分が思いのほか頑丈で威力が強く、削り切れず、逆にこちらの方が削られるくらいだ。
まあ、削られた分は直ぐに魔力で補充するのだが。
そんな感じなので、決着は中々着かない――ため、俺は水人形に更なる魔力を注ぎ、さらに大きくする。




