できる人を見て、自分を鼓舞する時もある
帝城の中を進んでいると――。
「もうここまで来ていたのか!」
アブさんが現れた。
「アブさん。戻ってきたってことは、見つかったのか?」
「ああ、問題ない。それと、それだけではないぞ!」
えっへん! と胸の骨を張るアブさん。
何やら自慢そうにしている。
「何かあるのか?」
「探している途中で『暗黒騎士団』に姿を見られてな。それで一人倒しておいたぞ」
「おお! すごい! さすがアブさん! これでリミタリー帝国軍の戦力がさらに減った……え? 見られた? アブさんが見つかったのか!」
「うむ。何やら魔法効果を無効化するといった鎧のようで、それで透明化していても見えたようだ。攻撃魔法は魔法陣型の障壁を張っておったよ」
……なるほど。そういう効果の鎧も作り出していたのか。そんな効果まであるとは、俺も危なかったかもしれない。アブさんが倒してくれたようだし、一先ずは安心だろうか。
う~んと唸ると、アブさんは気軽に話す。
「ああ、といっても、アルムが気にするほどのモノではないぞ」
「そうなのか?」
「実際に試したが、無効化、あるいは障壁には限界がある。それ以上の魔法を放てば関係ない。アルムの魔法であれば、それこそあってないような差でしかないだろう」
「なら、気にしなくても……ん? 試した? 即死魔法を放ったのか?」
「うむ。弱よりの中、といったところで鎧が砕け散ったので、そこまで強い効果ではなかった」
「まあ、敵だし。即死でも別にいいっちゃいいが……」
「いや、生きているかどうかは不明だ。確認しなかったからな。おそらく、生きていると思われるが、相当殴ったからな。しばらく再起不能だろう」
「殴った? アブさんが?」
「うむ! 某は堅骸骨だからな!」
むんっ! とアブさんが両腕を上げ、鍛え抜かれた筋肉を披露するようなポーズを取る。いや、筋肉はないけど。それでも、それなりに様になっていた。……カーくんの影響かな? それか火のヒストさんの。
まあ、ダンジョンマスターだし、何も戦える手段が魔法だけとは限らないか。
それよりも、気になることが一つ。
「弱よりの中ってなんだ?」
「それはな……」
アブさんから説明を受ける。
………………。
………………。
正直、負けた気分である。
いや、そんな気分よりも先に、まずはアブさんを褒めよう。
アブさん、すごい! と拍手する。
アブさんのない鼻が伸びているような気がしないでもない。
でもまあ、ほら、俺はアレだし。魔力量が膨大だから、制御するのも大変で………………頑張ろう。
負けていられない。いつまでも暴走の危険性があるままではいけない。
心の中で手を前に出し、オッ! と小さく上下させる。
「それじゃあ、アブさん。案内を頼む」
「ああ、任された!」
エラルとワンドへ――闇のアンクさんの復讐を行うまで、あと少し……。
―――
アブさんの案内のまま進んでいく。
エラルとワンドが居るのは、謁見の間だそうだ。
謁見の間には他にも人が居るようなので、現皇帝とかその辺だろう。
あとは「暗黒騎士団」か。
残りは……ワンド、「暗黒騎士団」最強の男性、クフォラと、人数的にはあと一人……いや、セカンが抜けた分を埋めていればもう一人。
つまり、あと四人か五人か。
セカン。トゥルマ。エル。どこかが倒してくれていれば楽だが、多分謁見の間に集まってそうなんだよな。
なら、あとはこちらもあちらも揃って相対することになるのだろうか。
………………あれ? なんか忘れているような……ああ、ファイか。まだ「暗黒騎士団」最強の男性とやり合って……いるんだろうな。どちらも姿を見せないし。
となると、謁見の間には「暗黒騎士団」最強の男性は居ない……と思うのだが、なんかそうはならない気がしないでもない。いや、こういうのは考えると実現しそうだからやめておこう。
とりあえず、ファイがまだ戦っているのなら、頑張れ、と応援するのはなんか違う気がするので、負けるなよ、とだけ思っておく。
そうして、アブさんの案内によって、分かれ道でも迷うこともなく、リミタリー帝国軍が居ようとも発見される前に魔法を放って倒したりと、さらに早く、安全に動けるようになった。
途中で階段を下り……別の階段を下り……一階まで下りる。
「いいな、アルム。これから向かう先では大勢が待ち構えている。気を付けるのだぞ」
「ああ、わかっている!」
そのまま進み、辿り着いたのは帝城のホール。
広いのはもちろんのこと、吹き抜けており、巨大なシャンデリアが天井から吊り下げられている。あの高さだと……魔法で灯すのだろうか。
ただ、ホールにあるのはそれだけはない。いや、アブさんが言った通り、居るのは、か。
ホールには、他の廊下には繋がっていない、二階の奥にある大扉に続く大階段があって、そこを通さないようにリミタリー帝国軍が配置されていた。
あの大扉の奥が謁見の間なのだろう。
他には誰も――セカンもトゥルマもエルも、その姿はない。
俺が最初かと思っていると、俺の姿を捉えたリミタリー帝国軍が一斉に身構える。
当然、俺も身構え、先制とばかりに魔法を放とうとした時――。
「待ちなさい。あれには誰も手を出してはいけませんよ。あれは……私の敵なのですから」
「暗黒騎士団」――クフォラが、配置しているリミタリー帝国軍を二つに割って、その姿を現わした。




