妄想で補う時もある
七体のスケルトンは、全員元人間らしい。
つまり、意思があって名があるという。
「名はわかるけど、意思はどこに宿っているんだ?」
『………………』
そこ? いや、そっち? とスケルトンたちが頭部や胸部を指し示し合う。
「……どうじゃろうな。詳しいことまではわからんよ。何しろ、調べて何かあれば、本当に死んでしまうからの。命が懸かっておるのじゃ。おいそれと調べることはできん。そういう存在ってことで手を打たんか?」
口調的に年長者っぽいスケルトンがそう言ってくる。
「そ、そうだな」
突っ込んではいけない部分だったようだ。
――意思が体に、骨全体に宿っているという認識……でいいかな。
双方納得したということで、自己紹介が始まった。
「エントリーナンバーワン!」
年長者っぽいスケルトンが声を張りながらそう言うと、赤を基調とした、動きやすそうな衣服を着ているスケルトンが俺の前に躍り出てくる。
俺はその場に座り直して眺めた。
「その名はヒスト! 燃えるような赤い短髪に、野性味溢れる顔付き! その体は鎧のような筋肉で盛り上がっている! 火属性魔法の使い手!」
「肉を食え! 肉を! 筋肉こそ、すべてを超越する!」
そのスケルトンは、うおー! と両腕を上げて盛り上がっている。
火属性……関係なくない?
「エントリーナンバーツー!」
赤い衣服のスケルトンを押してどかして俺の前に現れたのは、女性用の青い神官服を身に纏ったスケルトン。
「その名はリタ! 清流のような美しく流れる青い髪に、切れ長の目が特徴的な顔立ち! すらっとした体付きだが、その魔法技術は卓越している! 水属性魔法の使い手!」
「は? すらっとしていません。寧ろ、バインバインです」
なんとなく、嘘っぽい。
「エントリーナンバースリー!」
青いローブのスケルトンが一礼して移動し、次に出てきたのはシャツに短パンと普通だが、濃い緑色の長マフラーが妙に目立つ、他のより少し小さいスケルトン。
「その名はウィンヴィ! 薄い緑のくせ毛に、あどけなさが残る顔立ち! 見た目はまだまだ少年だが、その強さは本物! 風属性魔法の使い手!」
「いや、もう成人してるから!」
声も男性というよりは少年のような甲高さだ。
「エントリーナンバーフォー!」
ちょっと納得いかないような様子で小さいスケルトンは移動し、代わりに布面積の少ない女性用の衣服にマントを羽織るスケルトンが現れる。
「その名はアンスス! 長く美しい茶髪に、妖艶さが表れている顔立ち! その体からは色気が醸し出し、多種多様な魔法表現を持つ! 土属性魔法の使い手!」
「ふふふ。よろしくね。仲良くしましょ」
ひらひらと手を振ってきたので振り返した。
「エントリーナンバーファイブ!」
そのまま妖艶なスケルトンは横にずれていき、そこに女性用の衣服を身に纏うスケルトンが現れた。
ただ、衣服は気崩して着ているのだが、そこに色気はなく、寧ろ気怠そうな印象を受ける。
「その名はレイ! 誰もが見惚れる銀髪に、芸術品のような美しい顔立ち! 均整な体付きのエルフであり、その魔力量は随一! 光属性魔法の使い手!」
「……よろ」
特に動きもなく、短い言葉だけだが、どこか愛くるしさを感じられたので、頭だけ下げておいた。
「エントリーナンバーシックス!」
気怠そうなスケルトンがゆっくりと去り、黒を基調とした普通の衣服を身に纏うスケルトンが一礼して前へ出てくる。
「その名はアンク! 若さ残る黒髪に、顔立ちは普通! しかし、鍛えられた引き締まる体付きを持ち、魔法だけではなく剣の腕も超一流! 闇属性魔法の使い手!」
「よろしくお願いいたします」
先ほどもそうだが、俺に向かって一礼するその所作は、礼儀正しさが滲み出ていた。
こういう人ほど、怒らせると怖そうだ。
「エントリーナンバーセブン!」
礼儀正しいスケルトンが一礼して移動し、これまで各スケルトンの紹介をしていた、聖職者が着るような祭服を身に纏っている、年長者っぽいスケルトンが出てくる。
「ワシの名はグラノ。溢れる白髪に、精悍さが残る顔立ち! まだまだ若い者には負けない動ける体を持ち、魔法の英知の探究者! 無属性魔法の使い手! よろしくの!」
笑みを浮かべたように見えたので、俺も笑みを浮かべてよろしくお願いしますと頷く。
「さて、ワシらの紹介は終わったことじゃが、何か言いたいことがあるという顔をしているの? 気にせず言うてみい」
年長者っぽいスケルトンがそう尋ねてくる。
「じゃあ、遠慮なく。容姿を言われても全員スケルトンで服装以外の相違点がわからん。一応聞くけど、言っていた容姿は所謂生前の?」
「うむ。その通りだ。中々特徴を捉えた紹介文だと思うが……まあ、いいか。それで、お主のことも教えて欲しいのだが構わんか?」
「俺か? わかった」
別に隠すようなことはない。
それに、今のところは他にできることはないので、どうせならとこれまでの俺の人生を語った。
俺自身、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。