サイド アブの大大捜索 2
某に向けて声をかけてきたのは、赤の短髪の、二十代後半ほどの標準的な体型の男性。
その手にはメイスを持ち、もっとも特徴的なのは、黒い鎧を身に付けている、ということである。
つまり、某に向けて声をかけてきたのは、これまでにアルムが何度もやり合ってきた「暗黒騎士団」とかいう者たちの一人だろう。
ただ、不思議なことが一つ。
某は未だに姿はアルム以外からは見えなくしている。気配もできるだけ抑え、わからなくしているのだ。
なのに、そこの赤の短髪男性は、声だけではなく、視線も某に向けている。
まるで某が見えているかのように。
いや、見えているのだろう。
でなければ、某の姿を見て「レイス」とは言わない。
………………。
………………。
いや、誰がレイスだ! 某は「絶対的な死」だぞ! ダンジョンマスターなんだぞ! それに、あんな骨もないのと一緒にするな! せめてそこはスケルトンだろうが! ……まあ、空飛んでいるし、パッと見、そういう風に見えなくもない……気がしないでもないが、だからといってそれが許容できる訳もないので……撤回を要求する!
「……あっ? なんだ? なんか怒ってんのか? レイスが? 感情でも持っている特別なヤツか? ……ん? 中に骨? スケルトンか? ……まあ、いい。こんなところに居られても邪魔だし、さっさと消滅させておくか。丁度、これを試したかったしな」
赤の短髪男性が手に持っている、メイスの握りを確かめ出した。
……ふむ。あのメイスから聖なる力を感じる。
ということは、あのメイスは死霊特攻か。
まあ、いくら死霊特攻であったとしても、あれくらいの聖なる力であれば、某には通用しないのだがな。
だからといって、このまま放置するのも……アルムに迷惑がかかるかもしれない。ここで片付けておくのが後々のためだろう。
……ふっ。某と出会うとは運がなかったな、そこの赤の短髪男性。
ここは一つ、某の新たに編み出した即死魔法を使ってみよう。
アルムが自身の強大な魔力量を制御しようと頑張っている様子を見て、某もやってみたのだ。
その結果、ただ相手の命を即死させる通常のモノと、相手の命は取らないが身体の一部や持ち物を破壊させる弱めたモノと、使い分けることができるようなった。
今放ったのは、言うなれば即死魔法(弱)。
これで充分だろうと思ったのと、言わばこれは実験で、相手は敵なので。失敗しても構わないだろう――と思っていたのだが、即死魔法(弱)が赤の短髪男性に当たった瞬間、赤の短髪男性の前に魔法陣型の障壁が張られて防がれる。
ば、馬鹿な! いくら弱くしているとはいえ、某の即死魔法(弱)を防ぐだと!
「今、何かしたか?」
赤の短髪男性がニヤニヤとした笑みを浮かべて、そう口にしてくる。
ぐぎぎぎぎぎ……。
思わず歯ぎしりしてしまいそうになったが、それは相手を喜ばせるだけのような気がして我慢する。
代わりに心中で思いっきり歯ぎしりしておく。
ぐぎぎぎぎぎ……。
折角のお披露目を台無しにされるとは……。
ぐぎぎぎぎぎ……。
「はっ! 言ってもわからないだろうが、俺の鎧の前に魔法は効かねえよ。なんでも弾くのさ」
自信満々にそう言ってくる。
おそらく、そこら辺は普通秘匿するようなモノだと思うが、随分と口が軽い。
某が理解していないと思っているようだ。
ただ、そのおかげでわかった。
魔法の効果を無効化し、攻撃魔法はああして魔法陣型の障壁を展開して防ぐ、といったものなのだろう。
だから、即死魔法(弱)を防げたし、某の透明化を見抜けたのだと思われる。
ただ、どちらも強い魔法ではないため、限界があるかどうかは試してみないとわからないが。
そう納得していると、赤の短髪男性が攻めてきた。
「おらおらおらおら! レイスなら消滅しろ! スケルトンなら粉砕だあ!」
なるほど。装備品の力によって、自分は負けないと思っているようだ。
装備品の力に頼っているようでは、まだまだ甘い――某の前に立つ資格はない。
赤の短髪男性は某が居る場まで飛び上がり、メイスを振り下ろしてきたので、腕の骨で受けとめる。
砕けた――のは、メイスの方。
「……は?」
間抜け面を晒す赤の短髪男性。
目の前で起こったことが信じられないようだ。
しかし、某からすれば当然のこと。
何故ならば、某が身体強化魔法を使用すれば、某の骨は神の金属並の硬度を誇るのだ。(※個人的見解です)
……そう。某は美骸骨なだけではなく、堅骸骨でもあるのだ。
某はそのまま赤の短髪男性の肩を掴んで引き寄せ、拳を――打つべし。打つべし。打つべし。
黒い鎧に覆われていない箇所を、何度も打ち込む。
そうなると必然的に顔面の回数が多くなるが……赤の短髪男性が何か言おうとしているが、その度に顔面を打ち込んでいたので確認はできない。
そのまま何度も拳を打ち込み、最後に殴り飛ばす。
赤の短髪男性は床を何度も跳ね、転がり、最後に壁にぶつかって崩れるように倒れて、ピクリとも動かなくなる。
その赤の短髪男性に向けて言う。
「骨の鍛え方が足りない。だが、お前に何よりも足りないのは、骨密度だ」
バンッ! と決めておく。
まあ、聞こえてはいないだろうが。
とりあえず、即死魔法(弱)が防がれたのが納得できないので、即死魔法(弱)よりは少し強い……即死魔法(弱よりの中)くらいのをかけてみる。
すると、魔法陣の障壁が張られるが砕け、黒い鎧と砕けていたメイスは消滅し、赤の短髪男性が中に着ていた服、ついで全身の毛も死滅した。
赤の短髪も消えたので……ただの男性か?
まあ、即死魔法(弱よりの中)なら通用するとわかって満足したので、この場をあとにした。
―――
そのあとも捜索を続け――遂に見つける。
アルムから聞いた通りの容姿の持ち主。エラルとワンド。
その周囲には他にも人が居たが、重要なのは場所だ。
玉座も置かれているし――ここは所謂謁見の間というヤツだろう。
まだ反乱軍の方は辿り着いておらず、戦闘準備は終えて待ち構えているようだ。
ついでに奥を見れば、逃走路も用意されている。
ここも伝えておこう。
さて、あとはこのことをアルムに伝えれば………………そうか。アルムも見つけなければいけないのか。
アルム! 見つけたぞ! 骨を奮わせてくれ! いや、震わせてくれ! 骨伝導で位置を伝えるのだ!
健康骨と悩みました。




