サイド アブの大大捜索 1
アルムに頼まれて、エラルとワンドなる人物を探す。
一応特徴は聞いているが、上手く見つかるだろうか?
それに、今回は時間との勝負でもある。
リミタリー帝国軍の援軍が来られる前に決着を着けねば勝利は難しく、状況次第で相手が逃亡する可能性もあるのだが、何よりも某が危惧しているのはアルムの進撃速度だ。
下手をすれば某が見つけるよりも早くに見つける可能性がある。充分にある。いや、その前に帝城が残るかどうか……もう探すのが面倒だと、アルムが魔法で粉微塵に、それこそ更地にしてしまうことだってあり得るだろう。
今のアルムの魔力量なら、それくらい簡単にやってしまえる。
……自棄を起こして短絡的な行動に出なければいいが。いや、別にやってもいいのだが、某が出たあとでお願いしたい。
だからこそ、早々に見つけたいところだが……大丈夫だ。これまでの実績を思い出せ。某。なんだかんだとアルムの願い通りのことは成し遂げてきた。今回も大丈夫だ。やればできる。
そう。某はダンジョンマスター。それだけではなく、美骸骨でもあるのだ……頑張れ、某。
手を前に出し、おっ! と小さく上下させる。
気合を充分に、某の姿を見えなくしたまま捜索する。
―――
とある一室。
二人の男性が室内にある扉近くで、何やらごそごそと動いている。
件のエラルとワンドだろうか? と近付くと――違うとわかった。
服装で判断するなら執事だろうか。それも若い。
室内には他にも大勢の執事やメイドの姿があって二人の男性が行っていることに協力しているようだ。
その中も確認してみたが、それらしい者は居ない。
なので、次に向か――。
「良し。これで大丈夫だ。反乱軍が非戦闘員を襲うとは思わないが、リミタリー帝国軍の方は俺たちを壁にしようとしてきてもおかしくないからな」
「ああ、こうして壁を作っておけばそう簡単には入れなくなるはず。これで安全だ」
扉近くに居た二人がそう口にする。
どうやら侵入防止のために、室内にあった椅子やら机、タンスなどの壁として使えそうな物を扉の前に積み重ねて容易に入れないようにしていた。某は既に侵入しているが。
まあ、これで戦闘中は被害を受けることはないだろうと、先を急ぐ――。
「あ、あのさ……」
「なんだ?」
「今、ふと思ったというか、思ったからこそ自覚してしまったというか……」
「だから、なんだ?」
「……トイレ、行きたい」
「………………」
「………………」
二人の男性が室内を見て、扉を塞ぐ積み重なった物を見る。
「無理、だよな。我慢するしかない、か」
「そうだな……ただ、そう言われると俺も行きたく……」
なんとも言えない雰囲気が漂う。
すると、大勢の執事とメイドの中から、ちらほらと手が上がる。
「「「あの、トイレ行くなら一緒に……」」」
なんとも言えない表情を浮かべる二人の男性。
大変だな、と思いつつ、某には無用なことなので、さっさと次に行くことにした。
―――
帝城。広い。部屋。多い。中々見つからない。
しかし、諦めるには早過ぎる。
それに、この程度の広さ……某のダンジョンと比べれば大したことはない。
ふっ。某のダンジョンの勝ちだ。
それに、帝城の大抵の部屋は無人だが、某のダンジョンはどこもそれなりの数が居る。……魔物だが。いや、今は冒険者の数も増えているだろうし。
ふっ。やはり、某のダンジョンの勝ちだな。
意気揚々と捜索を続ける。
―――
「きゃーーーーー!」
部屋に入った途端、女性の悲鳴が響く。いや、違う。骨に伝わってくる。
視線を向ければ、メイドが興奮している騎士に襲われそうになっているところだった。
ちなみに、それを行っているのは反乱軍ではなくリミタリー帝国軍の方。
やれやれ、またか。と某は思う。
というのも、ここ以外にも似たような状況が起こっているのを、何度か見たのだ。
どうやら、襲撃されたことで一種の興奮状態に陥っているようである。
共通しているのは、どれも行っているのはリミタリー帝国軍の方。
それと、その都度、某の中の何かが見過ごすなと告げてきた。
だが、某には骨しかない。つまり、枠組みだけ。なのに、某の中って……骨の中? いや、さすがにそれはないか。ともかく、今は某の中の何かに従って助ける。
声を出す訳にはいかないが、勢い良く向かい――速度を上げ過ぎた。
急にとまろうとするがとまれず、思わず何かを掴むことで勢いを落としてとまる。
危なく、メイドの方にぶつかるところだったが、一体何を掴んだのだろうか? と視線を向ければ――メイドを襲おうとしている騎士のズボンだったようで、それが下着ごとずり落ちて……丸出し状態だった。
「きゃーーーーー!」
「きゃーーーーー!」
メイドだけではなく騎士の方も叫ぶ。予定外だったからだろうか。
すると、騎士はズボンを履き直そうとするが、そこで足がもつれて、頭から倒れ、受けた衝撃で気絶する。
「きゃーーーーー!」
「んをっ!」
メイドは叫びながら逃げ出すが、その際に倒れた騎士の丸出しになっている部分を踏み抜いたように見えたが……まあ、それが意図したものであったかどうかは某が気にすることではない。
とりあえず、騎士もこのまま放置でいいだろう。
先へと進む。
―――
いくつかの部屋を巡るが、目的の人物たちは未だ発見していない。
急がなければ、と思っていると――。
「おいおい。とうとう帝城にもレイスの類が出てくるようになったのか」
広い室内で、黒い鎧を身に付けた者が、某に視線を向けてそう言ってきた。




