選択肢が多いと逆に迷うこともある
………………さて。どうしたものか。
階段を下りた先は、左、正面、右、と三方向に分かれて進むことができる。
ピン! ときたね。これ。
セカンの一団、トゥルマの一団、エルの一団、と進んだ方向によって出会う一団が違うのではないだろうか?
つまり、まず間違いなく、どれかを今セカンの一団が進んでいる。未だ出会っていないトゥルマの一団はおそらく別方向から先行していると思うので、どれかを進めば出会うだろう。あとは、さすがに抜かれていない……はずのエルの一団があとを追いかけてくる――そんな三方向ではないだろうか。
ということは、出会いたい人に合わせて三方向の中から進むべき方向を決めないといけない………………のだが、どうする? 誰に、という思いは別にないというか、正直誰でもいいのだが、問題は選択肢の多さ。三択はきついよ。せめて二択に……いや、待てよ。これは特に考える必要がないのでは?
誰でもいいのなら、まず二方向は出会い、一方向は追ってくる。どのみち誰かに出会えるのだし、それならどれを選ぼうが実質勝ちと言ってもいい気がする。
それに、少なくとも追ってくる一方向はまだしも、残り二方向は進めば誰かに会えるのだ。
……勝ったな。何が?
とりあえず、気楽に決めればいい。
――ど、れ、に、し、よ、う、か、な。
………………。
………………。
今更だが、ピンときたけど、分かれているよな? セカンたち。
どこかで一緒になって共に行動して、誰も居ない方向がある……なんてことは……ないはず。
それに、考えてみると一つは出会えないというか、俺が先頭で進むことになって、その先で敵が待ち構えている可能性もあるのか。
だったら……あっち……いや、そっち……と見せかけて、こっち………………どうやって決めればいいんだよ。
考えながらうろうろしたって何も解決しない。そんなことはわかっているのだが……それでも考えることはやめられないし、うろうろもとめられない。これも生理現象みたいなものかもしれない。
いや、そんなことを考えるのではなく、今はどれを進むか……待てよ。進まない、という第四の選択肢も……て、ここに来た目的を思い出せ。ここで足踏みしている場合では本当にない。
とりあえず、左――は選びがちだから、セカンの一団とトゥルマの一団はあえて別の方向に行っている気がするので、右に行ってみるか。
―――
左、正面、右の三方向の内、右を選択して進んでいく。
………………。
………………。
おかしい。特にこれといって何も起こらない。
つまり、誰も――セカンの一団もトゥルマの一団とも出会わない。
となると、残るのはエルの一団があと追いで来る……いや、待てよ。エルの一団があと追いで来るとは限らなくないか? それこそ、エルの一団がセカンの一団かトゥルマの一団に合流……いや、実はどの一団も同じ方向に進んでいて、三つの一団がすべて合流することだって……つまり、実際は特に何も起こらないというか、出会えない可能性もあるのでは……。
あれ? もしかして間違えた? また迷うのか? と不安を抱きながら進んでいく――と、曲がり角を曲がったところで突然目の前に人が現れる。
「え?」
ぶつかる! と思いながら、俺は身を捩る。
「おっと!」
相手も同じように身を捩り、そのまま立ち位置が変わるようにして、上手くぶつからずにかわすことができた。
「失礼した! 急いでいて……」
振り返り、頭を下げる。
「いやいや、それはこっちも同じだ。そろそろ反乱軍が来そうな気がして、相手をしてやろうと思ってな」
………………。
………………。
ん? 反乱軍が、来そう? 相手をしてやろう?
嫌な予感がして、少しだけ顔を上げて相手を見る。
まず視界に飛び込んできたのは、真っ黒な鎧。どこかで、というか、これまでに何度も見てきたことのある馴染みの鎧だ。手には立派なハルバードを持っている。
さらに視界を上げると、緑色の短髪で、豪快そうな印象の顔立ちの三十代くらいの男性であることがわかった。
というか、「暗黒騎士団」だ。
「大丈夫か? ぶつかってはいないと思うが、所詮は鎧越しだからな。怪我はないか?」
「……はい。大丈夫です」
「そうか。そこまで慌てていたとなると、反乱軍から逃げてきたのか? 災難であったな」
「い、いえ……」
俺はその反乱軍の協力者なんです――とはさすがに言えない。
というのも、今はマズい。
相手との距離は近距離。近接職と魔法使いが対峙していい距離ではない。俺がそれでもこれまで対応できていたのは、その距離でやり合うための準備ができるだけの時間的猶予があったからである。
今この場で行動を起こそうとすれば、目の前の相手の方が速い……と思う。
せめて、もう少し離れていれば、対応も変わったのだろうが……今はやり過ごすのが一番だと判断する。
「まあ、安心しろ。この帝城に土足で踏み入った反乱軍など、私がすべて薙ぎ払ってくれる。この愛槍斧は凶悪だからな」
「なるほど」
それはできないと思うが、今は同意しておく。
あとでうしろから魔法を放ったら駄目かな?
「それに、何やら反乱軍の協力者である妙な魔法使いが居るようでな。そいつが中々厄介なようだ。クフォラも退けるほどの実力の持ち主らしい。そいつも土足で踏み入っているようだから、充分に気を付けるように」
「は、はい。ご、ご忠告ありがとうございます」
俺です、と言いたくなったがグッと我慢。
「とりあえず、ローブを着て、竜が装飾された杖を持っているそうだ。そうそう、丁度お前が持っているような杖だ。もし見かけたら逃げて他の誰か、できれば『暗黒騎士団』の誰かを……」
目の前の男性が途中で言葉をとめた。
視線は俺の持つ竜杖に向けられている。
「………………」
「………………お前かっ!」
反転して駆け出す。




