表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者巡礼  作者: ナハァト
394/614

精神が肉体を凌駕することだってある

 ………………。

 ………………。

 なんて言ったらいいのだろうか。

 とりあえず、見たままを告げるのであれば、それなりに広い階段の踊り場で戦いが行われていた。

 反乱軍の精鋭たち、リミタリー帝国軍とバトルドールの間で。

 その中で目を引いたのは、エルとその相手――黒い鎧を身に付けた「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」の女性。

 エルはその女性とやり合っていたのだが、防戦一方。

 反乱軍の精鋭たちの方はわりと余裕がありそうだったので、エルの方を手伝った方がいいだろうか? と様子を窺ったのだが……エルも余裕がありそうだった。

 いや、正確に言うのであれば、エルは本気ではない。

 相手の女性も本気ではない。

 つまり、どちらも本気でやり合っていない……なんで?

 理由がわからない。

 そのまま見ていると、エルとその女性は戦うのをやめて、言葉を交わし始めた。

 ……う~ん。ここからだとよく聞こえない。

 ただ、反乱軍の精鋭たち、リミタリー帝国軍とバトルドールには聞こえているようで、そちらの方でも次第に戦うのをやめて……エルとその女性との会話を聞いているようだ。……いや、戦いが収まるのならそれでいいと思う。思うのだが……次第に、中には歯を食いしばって泣きそうな表情で拳を握ったり、無表情で壁を叩き出したりと、いきなり意味のわからない行動を取り始める。

 それだけではない。バトルドールも戦うことをやめて、壁の隅を見ながら両足を抱えるようにして座り出した。その背中にはどこか哀愁が漂っていて、自分の存在意義とはなんだろうか? と難しいことを考え出しているように見える。……いや、バトルドールってそんなことができるのか? 不思議だ。

 なんというか、混沌としているように見えてきた。

 そして、その女性との話が終わったのか、エルがこちらの方を見ると――。


『………………はあ~~~~~』


 反乱軍の精鋭たち、リミタリー帝国軍問わず、多くの者から長くて大きい溜息が漏れた。

 エルが声をかけるのが戸惑っている様子。

 さっぱり意味がわからない。

 反乱軍の精鋭たちとリミタリー帝国軍、それにバトルドールも含めて、そこだけは妙に仲良くなりだしたというか、互いに優しい言葉をかけ合い、心を取り戻す……いや、保とうとしている、だろうか。

 エルが俺に気付くが、俺も状況がわからないので、曖昧な笑みというか、どう表現していいかわからずに微妙な表情を浮かべた。

 とりあえず、ダメージ的に一番食らっているように見える、壁を叩いている人をやめさせようと反乱軍の精鋭の一人に声をかける。


「あの、拳、痛くないんですか?」


「不思議と、痛くないんだ。どれだけ叩いても痛くない。心の方が痛いからかな」


 確かに痛そうな表情ではない。泣きそうな表情だ。


「えっと……とりあえず、やめた方が……」


「そうだな。このままじゃ、手を痛めて女を抱けなくなってしまう。あっ、俺、この手で抱ける女が居ないんだったわ」


 そう言う反乱軍の精鋭は、まるで聖人のような穏やかな表情を浮かべていた。

 ただ、それが怖いと思うのは……きっと気のせいだろう。

 どう答えたらいいのかわからずにいると、向こうから声をかけてくる。


「兄ちゃんはまだ若い。充分機会はある。俺みたいになるなよ? 頑張れ。爆発しろ、て言われるような明るい未来を手にしろ」


 物騒だな。果たしてそれは明るい未来なのだろうか?

 だが、そう言う反乱軍の精鋭の一人は、俺を応援するように拳を握る。

 いや、他の者たちも同様に慈愛に満ちているというか、応援しているような目でこっちを見ていた。


「は、はあ……えっと、頑張ります」


「それでいい」


 うんうん、と頷く反乱軍の精鋭たちとリミタリー帝国軍。

 何故だろう。俺も応援したくなってきた。

 そうする前に、エルが声をかけてくる。


「アルム。無事で何より」


「そっちこそ」


 反乱軍の精鋭たちとリミタリー帝国軍がエルに向ける視線が怖く感じるのだが、きっと気のせいだろう。


「アルムがここに居るということは、反乱軍の精鋭たちは全員運び終えた、ということでしょうか?」


「ああ、それが終わって、今は自由行動中だ。ああ、そういえば『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』はもう二人倒した。あと、ファイが『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』最強の男性と今戦っている」


「勢いはこちらにある、ということですね」


「ああ、このまま一気にいく……が、その前に、もう戦っていないということは、彼女は大丈夫なのか?」


 エルと話していた女性を指し示して尋ねると、エルはその女性を招き寄せ、軽くだが紹介される。

 ほうほう。なるほど。ナナンさんで、エルの幼馴染と……ナナンさんが辛い思いをしないようにするのがエル目的の一つだったと……で、もう和解して、これからはもう味方? ……味方でいいのか。それは良かった。良かったんだが……どうして手を繋いで紹介するのかな? その必要、ないよな?

 いや、こっちの戦力が増える分には文句はないけど……少しイラッとした。

 とりあえず、このままここに居ても仕方ないので、この場はエルに任せて俺だけ先へと進む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ