サイド 反乱軍 エル 2
私が相対したのは、「暗黒騎士団」。名は、ナナン。
輝く金髪をなびかせ、誰よりも綺麗な顔立ちで、均整の取れた体付きの女性。
その手に持つ美しい装飾が施された細剣が、彼女の美しさをより輝かせています。
階段の広い踊り場で、リミタリー帝国軍とバトルドールを引き連れて待ち構えていました。
「周りは俺たちに任せてください! エルさんは『暗黒騎士団』を!」
反乱軍の精鋭の一人がそう言い、反乱軍の精鋭たちと、リミタリー帝国軍とバトルドールによる戦いが始まります。
向こうも同じなのか、私の方にはリミタリー帝国軍は一人も、バトルドールは一体も来ません。
ナナンが来て、対峙するだけ。
私はナナンに向けて口を開きます。
「……ナナン。どいて頂けませんか? 私は、あなたと戦いたくありません」
「エル。あなたこそ『暗黒騎士団』を抜けて、このようなことまでして……わかっているの? 無事では済まないわよ」
「わかっていますよ。すべて覚悟の上です。ですが、それはこちらが負ければ、の話。勝てば問題ありません。目的達成です」
反乱軍も。私も。
「……そう。あなたが何を思ってそうしているのかはわからないけれど、私、怒っているのよ」
ナナンがそう口にします。
それが不思議なのです。
何故、ナナンは見てわかるほどに怒っているのでしょうか?
怒っているナナンも可愛……いえ、その理由は皆目見当がつきません。
わからなければ聞けばいい、と尋ねる――前に、ナナンが襲いかかってきました。
特に気を付けるべきは、刺突。
目にも止まらぬ速さを実践でき、気が付く前に急所を突かれていた、なんてこともあり得ます……が、刺突をしてきそうな雰囲気がありません。
いえ、ナナンが怒っているというのは窺い知れるのですが、本気ではないというか、怒りをぶつけてはいるが、どこか私を気遣っている節があります。
ですが、私は反撃をしません。
防御だけに専念します。
ナナンを傷付けることなど……できません。
ナナンを傷付けた者は容赦なくぶち殺しますが。
何しろ、ナナンと私は、言ってしまえば幼馴染。
二人共が才に恵まれ――いえ、本当に恵まれているのはナナンの方。
私はナナンの隣に立ちたくて、努力を続けたに過ぎません。
言ってしまえば、ナナンは天才で、私は秀才のようなモノ。
「暗黒騎士団」になったのも、先に入団したナナンを追って引き離されないためでしかありません。
私がそうまでしているのは……。
「何故、戦わない?」
ナナンが戦いながら声をかけてきました。
もちろん、私は答えます。
「最初に言いましたが、私はナナンとは戦いたくありませんから」
「ここまでのことをしておいてか?」
「私にとっては必要なことですから」
「暗黒騎士団」は、団長・ワンドの命で、時にリミタリー帝国にとって不利益、邪魔な存在を消すことがあります。
その場合、大抵は元周辺国の人。
……私はそれをあとで知りました。
団長・ワンドの指示で、意図的に情報を制限しているからです。
私より先に「暗黒騎士団」に入団しているのですから、ナナンも経験しているでしょう。
時々辛そうにしていますので、おそらく知っていると思います。
だからこそ、これ以上ナナンに辛い思いをさせない。
それが、私の秘めた目的。
そのために――現リミタリー帝国の打破は必要なのです。
気が付けば、ナナンは私に攻撃をするのをやめ、ジッと見てくるだけでした。
私が不思議そうに見返すと、ナナンが口を開きます。
「ここまでのことをしたのは……私のため、なんでしょ?」
私は答えません。
ですが、私を見るナナンの目はすべてを悟っているようでした。
「そこまで私、鈍くないわよ。あなたの目的も……あなたの気持ちも」
どうやらお見通しだった。そういうことのようです。
面目が丸潰れでしょうか。
「だからこそ、私は怒っているのよ。私のためと言うのなら。私のことを思うのなら……私にも手伝わせなさいよ」
「確かに、その通り……ナナンの言う通り、ですね」
私とナナンは、少し気恥ずかしそうに笑みを浮かべ合います。
何しろ、想いが通じ合っている、と確信が持てますから。
「ナナン。一つ、聞いてもいいですか?」
「何?」
「いつから私の気持ちを知っていましたか?」
「最初からに決まっているでしょ。私だって、エルを見ていたんだから」
いや、本当に気恥ずかしいですね。
妙に汗を掻いてしまうと言いますか……いえ、今はそれどころではありません。帝城攻略の最中でした。ナナンと幸せな時間を過ぎすのはあと。これからナナンが協力してくれるのなら、こちらはより勢いが付くのは確実。
まずは、この場の反乱軍の精鋭たちと、リミタリー帝国軍とバトルドールの戦いを収めなければ、と様子を窺えば――。
『………………はあ~~~~~』
どちらも戦いをやめてこちらの様子を窺っていて、長くて大きい溜息を吐いていました。
え? あれ? 戦いは?
どすどすと何かを力強く叩くような音が聞こえ、戦闘音かと思ってみれば、反乱軍の精鋭、リミタリー帝国軍問わず、複数名が素手で帝城の壁を叩いています。
あの、拳、痛めるからやめた方が……。
状況がわからず、近くに居る反乱軍の精鋭たちに声をかけます。
「……あの」
「はあ……すみません。話しかけないでいただけますか。爆発しろ」
「立ち直る時間ください。爆裂しろ」
「もう俺の心は死んだ。爆散しろ」
……あ、あれ? 頼もしき反乱軍の精鋭たち……ですよね?
何故そんな敵意を……。
「ちくしょう……俺だって、俺だってなあ……」
リミタリー帝国軍の一人が泣き始めました。
声をかけようとしますが、それを遮るように反乱軍の精鋭たちが声をかけます。
「わかる。わかるよ。……飲もう。とりあえず、今日は飲もう。いつか出会った時を祝して。俺たちは仲間だ」
「ああ……仲間だ」
反乱軍の精鋭たちとリミタリー帝国軍が共に泣き合い、慰め合うように肩を抱き合ったりしている。
そこに戦いはもうなかった。
和解、したのだろうか?
……はっ! 反乱軍の精鋭たちとリミタリー帝国軍はこれでいいとしてもバトルドールは? と視線を向ければ――。
「………………」
足を抱えるように座って壁の隅をジッと見ていました。
そんなバトルドールの背を、反乱軍の精鋭たちとリミタリー帝国軍が共に叩いて話しかけています。
……平和な世界? がそこにありました。
戦いはもうありません。
そして、そんな様子を、なんとも言えないような表情で見ているアルムが居ました。




