サイド 反乱軍 エル 1
リミタリー帝国は実力主義の国。
何用でも有用な力さえ示せば、その地位は、待遇は良くなっていきます。
元リミタリー王国出身。元周辺国出身。生まれに関係なく。
だからこそ、帝国という巨大な力を維持できている、とも言えるでしょう。
しかし、当然のように闇も存在します。
それは旧リミタリー王国の人間――その中でも爵位を持ち、さらにその爵位も上になればなるほど、 旧リミタリー王国の人間以外――有用な力を示した者は除外され、それ以外はどのように扱っても許されるということ。それこそ、殺人や人身売買といった犯罪行為を平気で行い、それが当然のようにまかり通っています。
罰せられる場合もありますが、その人物がリミタリー帝国にとって有益であるのなら揉み消されることが優先されているのです。通例、でしょうか。
何しろ、リミタリー帝国の頂点である現皇帝・ラトールを筆頭に、前皇帝・エラルと「暗黒騎士団」の団長・ワンドがその主導なのですから。
周辺国を取り込み、帝国にまで上がったが故の傲慢が、そうさせるのでしょうか。
その上、次期皇帝とされている皇太子・ラフラルは現状に染まり、現リミタリー帝国に同調しています。
ただ、幸いと言えるのはアンル殿下とネラル殿下はそれを良しとはしなかった、ということ。
だからこそ、今もリミタリー帝国による被害を受け続けている元周辺国の人間として、アンル殿下とネラル殿下に私は協力するのです。
ですが、それは別に反乱軍――元周辺国、出身であるからこそ協力していた……だけではありません。
もちろん、反乱軍による現リミタリー帝国の打倒も目的の一つですが、それ以外にもう一つ……元近衛騎士の友であるトゥルマにも、誰にも言っていない、胸に秘めた目的があります。
そして、その目的達成まで、あともう少し――。
―――
反乱軍にとって最大の幸運と言えるのは、アルムの協力を得られたことだと私は思います。
何しろ、魔道具研究所の町・マアラからアンル殿下を救出できただけではなく、おそらくですが、リミタリー帝国の切り札であろう黒い光線を放つ建造物の破壊に、今は上空から帝城まで反乱軍の精鋭たちを運搬しての奇襲と、反乱軍が勝利を得るためには欠かせない存在となっています。
だからこそ、帝城強襲に参加する私、トゥルマ、セカンさん、ファイ、反乱軍の精鋭たちにとっても、これで負ける訳にはいきません。
「ここからは時間との勝負だろう。時間をかければかけるだけ、向こうの数は増えていくからだ。それに、強襲を受けたことで皇族たちがこの場から逃走をする可能性もある。だが、それは最後の手段だろう。おそらく、そうなる前に『暗黒騎士団』がこちらの前に現れるだろう。無理に戦う必要はないが、充分に注意するように。とりあえず、今この場に居る者たちだけで部隊を編成。追加人員は均等に振り分ける。部隊は三部隊。それぞれ部隊長は私、トゥルマ、エルだ。私を含めたこの三人を部隊長とするのは帝城の中を知っているからである。迅速な行動のため。少なくとも、地図は必要ないだろう?」
帝城。最上階にある皇室。
その中でセカンさんが確認するように視線を向けてきましたので、問題ありませんと頷きを返します。
トゥルマも同じく。
セカンさんも頷きを返し、視線はそのままファイに向けられます。
「お前は、一人で動いた方が成果を出せるからな。この方がいいだろう?」
「はっ! さすが! わかっているじゃねえか! ただ、一つ加えておいてくれ。アスリーが出てきたら、俺を呼べってな!」
「暗黒騎士団」最強の男性。アスリー。
確かに、反乱軍の中でアスリーと対抗できるとなれば、ファイが妥当でしょう。
セカンさんはやはりブランクがありますし、今は魔道具の黒い鎧を身に付けていません。
トゥルマも魔道具装備の差で難しいでしょう。
それなら私……いや、まあ、私だって「暗黒騎士団」ですし、やろうと思えばできますが。
やらないだけですが、何か?
ええ、やろうと思えば、それこそ小指一本で……いや、さすがにそれは盛り過ぎですので、片手……両手……両足……体すべて………………やろうと思えばできます。そう思う気持ちは大事ですね。少なくとも気持ちは負けていません。
アルムなら……なんだかんだとどうにかしそうな雰囲気があります。
私もそういう雰囲気を持っている、ということにしておきましょう。
そうして、部隊は直ぐに編制され、帝城攻略を開始します。
時折、数としては少ないですが、リミタリー帝国軍、それとバトルドールが姿を見せますが、問題なく対処することができました。
何しろ、私だけではなく、この場に居るのは反乱軍の精鋭なのですから。
「やってやりましょう! エルさん!」
「反乱軍の意地、見せてやりますよ!」
「リミタリー帝国に目にもの見せてやります!」
頼もしい限りです。
それに、私が「暗黒騎士団」であったことも関係なく、共に戦ってくれます。
嬉しい限りです。
そうして、反乱軍の精鋭たちと共に快進撃のように帝城内を進んでいき――下の階に向かおうと階段の踊り場に着いた時、私は「暗黒騎士団」と相対しました。




