注意を促しておくことで防げることだってある
「暗黒騎士団」の女性――鞭を使う者を倒した。
といっても、それを行ったのは俺ではなく、竜杖によって、である。
竜杖を拾うと、装飾の竜が助けてあげたのだから感謝しなさいと言っているような気がして、本当に助かったと思ったので、心からありがとうございます、と言うことができた。
それにしても、壁とか天井とかぶつかって、最後に壺で……まさに完璧な動きだったが、それが偶然というにしては……やはり、どこにどう当たればどうのように飛んでいくか。すべてを計算して? 竜杖が?
チラリと見れば、装飾の竜が少し自慢気にしているように見える。
……まさか、ね。
とりあえず、もう危機は去ったのだろうか? と「暗黒騎士団」の女性の様子を窺っておく。
……完全に気絶していた。
とりあえず、縛って……いや、それよりもトドメを刺しておく方がいい気がしないでもない。
どうしたものかと思っていると、反乱軍の精鋭が声をかけてくる。
「ここは俺に任せて先に行け。女王さ……この女性のことはこの豚……ごほん。俺が縛り上げら……縛っておく。きっちりと。問題ない」
反乱軍の精鋭が親指を立て、輝く笑顔を浮かべてそう言ってくる。
「………………いや、え? でも、さっき四つん這いになって完全に従ってた人に任せるのは」
「あれは演技です。演技なのです。油断を誘うための。それ以外にはありません。惜しかったですね。もうあと少しで、私の華麗なる逆転が見れましたのに」
反乱軍の精鋭はそう言うが、どうにも怪しい。
今の、自分に任せてくださいという姿こそが演技な気がする。
でも、それだと四つん這いの姿が真実となるが………………深く考えるのはやめておこう。下手に突いていい話ではない気がする。本能も同意しているし。
ただ、どうしたものか。
俺には俺の目的があって、それはそこで気絶している「暗黒騎士団」の女性は関係ない。いや、身の危険に遭いそうだったが。それでも竜杖のおかげで回避できた。
だから、別に目の前の反乱軍の精鋭に任せて先に進んでもいいのだが……不安だ。誤って解放……いや、命令されれば解放するとか、欲に塗れて妙なことになりそうな気がしないでもない。
まあ、それで目の前の反乱軍の精鋭と、「暗黒騎士団」の女性の、その二人だけで完結する話なのなら別にいいというか、放っておくのだが、俺にちょっかいをかけてきたし、周囲に飛び火するのは間違いないだろう。
どうしたものか。
それに、目の前の反乱軍の精鋭は「暗黒騎士団」の女性を見て、既に「はあはあ」と息も荒いし……本当に不安だ。
本当にどうしたいいのか悩んでいると――俺が来た方からこちらに向けて近付いてくる複数人の足音が聞こえてきた。
味方か敵かわからない以上、竜杖を持っていつでも魔法を放てるように身構える。
すると……反乱軍の精鋭たちが現れた。
見覚えのある――最後に運んだ時に声をかけた精鋭の人だったので、なりすましとかではないとわかる。
「味方か。良かった。応援か?」
「ええ、各陣営に向けて援護を……と、何故こんな廊下に?」
「ああ、それは……本当に丁度良かった。先に進みたいんだが放置できなくてな。そこの女性は『暗黒騎士団』だ。自らそう名乗っていた。そっちで捕らえておいてくれないか?」
「『暗黒騎士団』! 大殊勲ではないですか!」
「まあな」
他にも二人ほど倒していますが、何か?
「わかりました。こちらの方で捕らえておきますので、先に進んでください」
顔に覚えのある反乱軍の精鋭が、快活に答える。
ただ――。
「……ちっ」
四つん這いだった反乱軍の精鋭は舌打ちをして、恨めし気な目を向ける。
それは仲間に向けていい目ではない。
なので、「暗黒騎士団」の女性だけではなく、四つん這いだった反乱軍の精鋭の方にも注意をしておくように、と告げてから先へと進む。
―――
先へと進んでいく内に、戦闘音が耳に届いてくる。
戦闘音は徐々に大きくなっていき、辿り着いた場所はそれなりに広い階段の踊り場。
そこで反乱軍の精鋭たちと、リミタリー帝国軍、それとバトルドールも居る。
バトルドールに関しては反乱軍が戦っている姿を初めて見たが、充分に渡り合っていた。
セカンたちが得た情報を活かして、基本は関節を攻め、トドメで砕くといった感じである。
その結果として、苦戦はするが負けない、といったところ。
やはり、精鋭と称されるだけの実力はあるということか。
バトルドールの相手をしつつ、リミタリー帝国軍ともやり合っているのだが負けていない。
まあ、数で勝っているので押し切ることができているのだ。
だが、これは今だけの優位。
時間をかければリミタリー帝国軍側の援軍が来るだろうし、急がなければならない――のだが、一気に押し切ることはできないようだ。
というのも、この場に居る反乱軍の精鋭たちを率いている者――エルが、今度はしっかりとした黒い鎧を身に付けた者――「暗黒騎士団」の女性とやり合っていて、抑え込まれているような状況だからである。




