ここぞとばかりを逃してはいけない
丸焦げになった細身を竜杖で突いてみる。
……ピクリ、と動いた。生きている。
同じく丸焦げになった筋骨隆々を竜杖で突いてみる。
……ビクリ、と反応した。生きている。
まあ、だからといって、トドメまで刺そうとは思わない。
借りはあったが、恨みではないからだ。
その借りも、どちらかと言えば俺がきちんと戦えなかったことが起因だし。
無のグラノさんたちやラビンさん、カーくんに言えば、俺の鍛え方が足りない、と更なる鍛錬が施されるだけだろう。
……強くなる必要があるのは確実だし、正直に言ってもっと鍛えてもらおう。
強大な魔法があるからどうにかなると思っていたのは慢心だ。
それでも、今回は魔法だけでどうにかしたが。
魔法使いだし。
ただ、もう一つ気を配ることができた。
こんなモノを突くな、と竜杖の装飾の竜からジト目を向けられている気がする。
そうだ……ですよね。うん。杖は突くためのモノではなく、魔法使用時の媒介……え? 違う? 突くのはいいが、こんなのを突くのは嫌? ……なんだ。わがま……いえ、なんでもありません。はい。善処させて頂き……はい? それに突き方も悪い、と。なるほど。……申し訳ございません。もちろん。しっかり鍛錬させていただきます。はい。今後の頑張りに期待していただければ……。
「……何をやっているのだ? どうしてその杖に向かって頭を下げている?」
セカンの声が聞こえてきたので、竜杖のご機嫌を取っていた俺は視線を向ける。
「大事なことだ。本当に大事なことだ」
「……そ、そうか」
大事なことなので二回言っておいた。
セカンも理解してくれたと思う。
そうして、セカンの後方が目に付いたが、反乱軍とリミタリー帝国軍の戦いは終わっていた。
もちろん、勝ったのは反乱軍の方。
今は生存しているリミタリー帝国軍の者を反乱軍が捕縛している最中である。
「そっちも片付いたようだな」
「ああ。一般兵士、もしくは多少強い程度であれば、こちらも精鋭を引き連れているのだから問題ない。ここまで攻め入ることができたのなら、やはり一番の難敵は『暗黒騎士団』だろう。……まあ、あの黒い光線すらどうにかしたお前にかかれば、敵ではないようだがな」
セカンが丸焦げ状態の細身と筋骨隆々を見る。
元同僚して、思うところがあるのかもしれない。
どこか悲し気というか哀れみの目で――あれ? 見てないな。寧ろ、少しばかり怒りが交じっている目だ。
そう思っていると、セカンは筋骨隆々に向けて倒れながら、構えた肘を打ち込む。
「うぅっ!」
筋骨隆々から呻き声が漏れた。
ただ、意識は取り戻していないようで、痛みに対する反射行動だろうか。
それに、大したダメージにはなっていないようで、トドメにもなっていない。
いきなり何を? と思いつつセカンを見ると、セカンはスッと立ち上がり、細身の方へ移動。
セカンは細身を跨ぎ、細身の両足を持って脇の下に挟み込み、そのまま細身の背を反るように持っていって背中と腰を極める。
「う、うう……」
細身の意識は戻っていないようだが、悪夢でも見ているかのように呻く。
痛そうだ。
ただ、ダメージはありそうだが、トドメまでには至っていない。
というか、いきなりの行動の意味がわからない。
なので、聞くことにした。
「セ、セカン? どうした?」
「いや、いい機会だと思ってな。今はどうか知らないが、まあ変わっていないだろう。私が『暗黒騎士団』の頃、こいつらはファイに次いで好き勝手していてな。色々と迷惑をかけられたのだ」
なるほど。それは邪魔できない。
まあ、その気は元からないが。
「とりあえず、ここは私たちに任せていい。『暗黒騎士団』に対抗できる者は限られているからな。また私たちが遭遇するとは限らないし、他の方で既に遭遇しているかもしれない。アルムはそっちの方に向かってくれ」
「それはいいが……どこに居るんだ? トゥルマにエルは」
「要所に人を置いているだろうから、そこで聞け」
「わかった」
頷きつつ、考える。
「暗黒騎士団」は、確か団長含めて総勢十三人の組織。
セカンの代わりが居るかどうかはわからないが、不明なら多く見積もっていた方がいいだろう。居るとして、ファイとエルが抜け、細身と筋骨隆々は倒した。ファイが今「暗黒騎士団」最強と戦っているから……ワンドを含めてあと八人は居るのか。まあ、八人全員帝城に居るとは限らないが、居ると考えておく方がいいだろう。
それに、倒すべきは「暗黒騎士団」だけではなく、俺の目的である前皇帝、反乱軍の目的である現皇帝も居る。
ここが帝城である以上、帝都の外に出る秘密の逃走路だってあるかもしれない。
こっちにはアンル殿下とネラル殿下が居るから、その先を押さえているかもしれないが、二人にも、誰にも教えていないのがある、という可能性もある。
やはり、一番はこの場で押さえることだろう。
リミタリー帝国側の状況が悪くなれば逃走の可能性は充分にあるし、少し急いだ方がいいかもしれない。
この場から出て、他のところへと向かう。




