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賢者巡礼  作者: ナハァト
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口にすることで初めて気付くこともある

「「あっ! お前は!」」


 俺が姿を見せたことで「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」の細身と筋骨隆々が反応を示す。

 ただ、俺はそれに答えることなく、戦っている反乱軍の精鋭たちの前――一番前に居るセカンよりも前に降り立って――。


「ここじゃ狭い! 場所を移すぞ! 『青流 流線で流形 不定形であり 変幻自在 水球(アクアボール)』」


 水属性魔法を発動。

 水球――それこそ、この廊下の天井まで届きそうな巨大水球を作り出し、細身と筋骨隆々、リミタリー帝国軍を纏めて内部に取り込んで、奥へと押し出すように放つ。

 飛んでここまで来た時に見えたのは、この先が広い部屋だったので、そこに向けて。

 細身と筋骨隆々、リミタリー帝国軍を内部に取り込んだ巨大水球は、広い部屋の中央付近で弾けるように消え、内部に居た者たちはどしゃどしゃと大きな音を立てて落ちる。


「セカン!」


「わかっている! 行くぞ! 付いて来い!」


 俺は飛び出すように前へ出て、セカンは反乱軍の精鋭たちに一声かけてから追ってくる。

 広い部屋は――ただ広いだけ。物は特に置かれていない。


「なんだ、この部屋?」


「第一舞踏場だ。皇族と上位貴族だけが使用することを許されている舞踏会専用の場だ。開催されていない時は、ご覧の通りだがな」


 追ってきたセカンがそう答えてくれる。

 さすがは元「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」副団長。帝城内に詳しい。


「つまり、物がない今は、動きやすいってことか」


「まあ、それは相手も、だがな」


「ちなみに、第一ということは第二も?」


「ああ、下にある。そっちは下位貴族も使用できる。参加者の数的に広いのは第二の方だが、豪華さは第一の方が上だ」


 分ける必要性を俺はまったく感じないが、元貴族の執事見習いとしては、そういうのに拘る人も居る――いや、貴族は大抵拘っているな。権威とか、そういうことに必要なのだ。

 まあ、なんにしても、ここだと充分に戦える場所ということに変わりはない。


「それじゃあ、俺はそこの『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』二人に借りを返さないといけないから、少し躍ってくるわ」


「ああ、存分に踊ればいい。ただ、借り?」


「帝都に来ていきなり襲いかかってきて、俺を捕らえた二人だからな」


「そうか。それは確かに借りを返さなければいけないな。……大丈夫なんだろうな?」


「問題ない。捕らえられた時は全力を出していなかったからな。あっ! 一応、聞いておくが、帝城が多少壊れても構わないよな? そこに気は使わなくても」


「……まあ、力を出し切れずに敗北するくらいなら……構わない。ただ、できれば穏便に片付けてくれ」


「じゃ、セカン了承ってことで」


 水浸し状態ながらも立ち上がり、俺を強く睨む細身と筋骨隆々の下へと向かって歩を進める。

 大きな帝城からすれば、この部屋が全壊しようが一部であることに変わりはない。つまり、多少の範囲内に充分含まれるのは間違いないだろう。


「……た、多少だからな! 多少なんだぞ! 多少の意味、わかっているよな!」


 セカンが少し焦ったように声を飛ばしてきたので、片手を上げておく。

 口にしていないから大丈夫。

 知らなかった、で通せるはずだ。

 俺が向かい始めると、細身と筋骨隆々がリミタリー帝国軍から自らから離れていく。

 存分に動ける、邪魔が居ない方がいいのは、向こうも同じようだ。

 だから、その誘いに乗る。

 リミタリー帝国軍の方は、セカンが反乱軍の精鋭たちを率いて攻め始める。

 あっちはセカンも居るし、大丈夫だろう。

 そことは少し離れた位置で細身と筋骨隆々と対峙する。


「……借りを返してやるよ。細身と筋骨隆々」


「………………」


「………………」


「どうした? どちらも黙って? それとも気付いたのか? 何を敵に回してしまったのかを!」


 竜杖を構える。

 そうだよな。U型建造物からの黒い光線を単独で防いだのだ。

 それを知り、俺に恐れおののいてもおかしくない。


「いや、その……ほ、細身?」


 細身が自分を指差しながら、そう尋ねてくる。


「き、筋骨隆々?」


 筋骨隆々が自分を指差しながら、そう尋ねてくる。

 ……ん? あれ? と竜杖を構えるのをやめて普通に立つ。


「え? いや、名前知らないし、外見的特徴でいくしかないから。それに、ほら、どっちも男性だし。そうするしかないかな、と」


「……ああ、まあ、そう……なるのか?」


「まあ、間違っては、いない……が?」


「あっ! それとも、弱い方? 強い方?」


 順に、細身、筋骨隆々と指差す。


「あ?」


「ほう。わかっているな!」


「あ? それは聞き捨てならないな。普通は逆だと思うのだが?」


「お? なんだ? やるか?」


「別にそれでも構わないが。お前の攻撃は当たらない」


「はっ! そんなひょろっとした体! 一撃で沈むぞ!」


 細身と筋骨隆々が険悪な雰囲気となってきた。

 睨み合い。バチバチと火花が散っている。

 ……まあ、なんだ。どっちも自分の方が強いと思っていたってことだな。

 このまま眺めつつ、時折言葉の燃料を注げば、そのまま共倒れしそうだが……それだと借りを返したことにはならないな。

 俺は、借りを返したいのである。


「こらこら、やめろやめろ。仲間だろ、お前たちは」


「「お前のせいだろうが!」」


 俺のせいにするとか、酷い。


「まあ、いい。とりあえず、あいつを倒した方が強いってことでいいな?」


「ああ、それでいいぞ! 倒すのは私の方だがな!」


 そう言って、細身と筋骨隆々が襲いかかってくる。

 ……はっ! ズルいぞ!こっちはまだ竜杖を構えていないというのに!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] アルム「多少ってことは、多かれ少なかれ、ってことだからオール・オア・ナッシングのオールじゃなきゃいいってことだよな?」 アブ 「その解釈で間違いないのではないか? 尤も某の名前の由来を…
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