言葉にするのが大事な時もある
ファイが落ちていくと、「暗黒騎士団」最強の男性もさすがに安易な対応は取れないようで、両者はそのまま戦いながら落ちていく。
とりあえず、ファイに任せておけば大丈夫だろう。
こっちの大きな戦力を割くことになるが、それでもそれで「暗黒騎士団」最強の男性を抑え込めるのなら儲けものだ。
ただ、こうして上から戦う様子を見ると、一つ気になることがある。
下にあるのは中庭なので、そのままそこで戦い始めることになると思うのだが……中庭。大丈夫だろうか? 多分、無事に終わらないんだろうな。滅茶苦茶なことになりそうである。
庭師は居るだろうから、酷く落ち込みそう。
そうなれば、責任を取らせよう。
もちろん、取るのはファイと「暗黒騎士団」最強の男性の二人。
だって、やったのがその二人のだから、当然である。
うんうん、と頷いてからバルコニーから下を見るのをやめると、先ほど運んだ精鋭たちが俺と同じように下を見ていたのだが、その中の一人と視線が合う。
「………………」
「………………」
頷き合った。
多分、俺と同じことを考えていたと思われる。
その精鋭たちも直ぐに動き出し、バルコニーから続く部屋の方へと移動していく。
部屋の中は、俺がこれまでに運んできた精鋭たちの一部が慌ただしく動いていた。
何しろ、その部屋は言ってみれば、帝城内におけるこちらの拠点。休憩所。回復場所。
奪われる訳にはいかないし、ここから攻めていかないといけないのだ。
バルコニーからパッと見てもわかるくらい、かなり豪華な室内である。
置いてある調度品はどれもかなりの高級品に見えた。それこそ、王族とかが使っていそうな……というか、本当に皇帝の私室なのかもしれない。
そもそも運搬に使用した大きな箱が置けるくらいに広いバルコニーなど、帝城にはここにしかなかったのだ。
………………。
………………。
ここに皇帝が居れば楽だったんだけどな。少なくとも、反乱軍にとっては。
さすがにそうはならないというか、戦時中だから会議室とか、そういうところで指示を出しているのかもしれない。
今は特にU型建造物が破壊されて、帝城がいきなり攻められているのだから。
……それ、どっちも俺が関わっているな。
あれ? もしかすると、向こうは俺を一番狙ってくるってこと?
……まあ、いいか。それを全部倒していけば、いずれエラルとワンドが俺の前に現れるだろう。それ以外は正直どうでもいい。邪魔するなら倒すが。
さあ、もう少しだ。闇のアンクさんの復讐を果たすまで……あともう少し。
状況的に逃げ出しそうだが、絶対に逃がさない。
そのために――。
「……アブさん」
「どうした?」
「アンクさんの相手は前皇帝と現『暗黒騎士団』の団長だ。この状況でここから逃げ出すと思うか?」
「アンク殿の記憶があるのだから、その者たちがどのような行動に出るのか、某よりもアルムの方がよく知っているのではないか?」
「だよな。そのアンクさんの記憶から判断するに……何かしらの理由を付けて逃げるな、これは」
「そうか。なら、必要だな。どこに居るのか把握するのが」
「ああ、頼めるか?」
「任せておけ。某もアンク殿にいい土産話をしたいからな」
そう言って、アブさんが帝城の中に消えていく。
これで、アブさんが見つけてくれると思う。
それまでの間は反乱軍に協力することにした。
―――
皇帝の私室と思われる部屋の中に入ると、この場に残っているのは精鋭たちだけ。
見知った顔であるセカン、トゥルマ、エルの姿はない。
話を聞けば、セカン、トゥルマ、エルの三人はそれぞれ精鋭たちを率いて、もう帝城攻略に行っているそうだ。
一つに纏まって動かないのは、建物内ということで纏まり過ぎると満足に動けなくなるから。他にも挟撃されて一気にやられないようにというのと、皇帝がどのように動いているか把握していない以上、下手をすれば逃げられてしまうので、捜索範囲という意味で分散するしかないとうのが実情といったところか。
それに、目下の脅威である「暗黒騎士団」に関しては、数だけ揃えてもどうしようもないのだ。
寧ろ、いたずらに被害を増やす結果になりかねない。
だから、対抗できるセカンたちが分散しているのだろう。
……さて、どうしたものか。
誰のあとを追うべきか、だが……とりあえず、付き合いの長さということでセカンの方に行ってみるか。
セカンの部隊のあとを追う
闇のアンクさんの記憶があるとはいえ、実体験として帝城の中を進むのは初めてである。
広い。廊下が広く、天井も高い。
数人規模であれば普通に戦えるだろう。
あと、それなりに分かれ道があるが、迷うことはなかった。
そうだよな。迷う訳なんかない。
戦闘音が大きくなる方に行けばいいし、そもそも要所には追加で反乱軍の精鋭が戦闘に参加できるように案内役の人員が配置されているので、どっちに向かえばいいのか教えてくれる。
「ありがとうございます」
そのおかげで順調に進むことができるので、感謝の気持ちを言葉にしておく。
そうして進んでいくと、廊下で戦闘が行われていた。
いや、正確に言うなら戦っているのは前の方だけで、うしろの方は詰まっている。
前の方にセカンの姿を発見。
ついでに、リミタリー帝国軍の方に「暗黒騎士団」の姿も。それも二人。
――俺は天井の高さを生かして竜杖で浮かび、そのまま前方に向かって声をかける。
「今ここであの時の借りを返してやるよ!」
帝都に着いた時に俺を捕らえた、「暗黒騎士団」の細身のヤツと筋骨隆々のヤツに向けて、そう言い放った。




