妙に合致する時がある
セカン、エルに、反乱軍の精鋭たち――それとマジックバッグを利用して、食料や回復薬類などの補給物資も合わせて、帝城の最上階にあるバルコニーに次々と運んでいく。
最終的に数百人も居るので数回に分けて行ったが、回を重ねる毎にリミタリー帝国軍からの妨害の攻撃は少なくなっていた。
多分、それどころではない、ということなのだろう。
一度運ぶ度に軽くだが状況を窺っているが、さすがに帝城の最上階から攻められると思ってはいなかったようで、リミタリー帝国軍は慌てに慌てているらしい。
そこにさらにファイが喜々として暴れているそうなので、尚のことだろう。
混乱状態なのは確実である。
それに、今のところの感触だと、元々配置されている数もそれほど多くないそうだ。
やはりというか、リミタリー帝国軍のほとんどが帝都の外で反乱軍と戦っている状況である。
……ふはは。さすがに俺が空を飛べると知ってはいても、数回に分けているとはいえ、多くの人員を運べるとは思わなかったようだ。
甘い。甘いぞ。リミタリー帝国軍。
ただ、それでも油断はできないのが現状である。
有利にもなっていない。
というのも、バトルドールが帝城内に配置されているのもそうだが、何より危険なのはやはり「暗黒騎士団」なのだ。
「暗黒騎士団」の姿は、帝都の外で確認されていない。
つまり、帝都内に全員居る可能性が非常に高い……というか間違いないだろう。
黒い光線を発するU型建造物がなくとも、依然としてリミタリー帝国軍の戦力は非常に高いのだ。
そうして、これで最後という運搬をしている時、視界に入るモノがあった。
……なんというか、こっちも奇策を用いたようなモノだが、アレも奇策と言えるのか………………言えるんだろうな。
だって、普通はあり得ないのだから。
それは、帝城の外。帝城の壁。
定常の最上階のバルコニーに向けて、壁をそのまま駆けるように登っていっているのが居た。
それが誰かと言えば、「暗黒騎士団」最強の男性である。
無茶するなあ、と思うが、それは俺から見ればで、当の本人からすれば全然無茶ではないのかもしれない。だって、普通に少しも詰まることなくするすると登っていっているし。
いや、待てよ。もしかして――。
「……なあ!」
下の大きな箱に居る精鋭たちに、尋ねるように声をかける。
少し大きな声になるのは仕方ないこと。
「何か!」
精鋭の一人が聞き返してくれた。
「アレ、見えるか!」
帝城の壁を登っている「暗黒騎士団」最強の男性を指し示す。
「あれ? ………………ええ! 壁を登って! いや、ええ! なん、ええ! どう、ええ!」
動揺がすごいな。
声をかけてきた精鋭の一人が気付き――それで気付いた他の精鋭たちも驚きの声を上げ始める。
なるほど。もしかしなくても、俺だけに見えている幻影の類ではないようだ。
なんて見ている場合ではない。
このまま放置すると最上階のバルコニーに到達して、うしろから一気にやられる可能性が高い。
………………。
………………。
良し。反撃。
「『赤燃 赤く熱い輝き 集いて力となる 基礎にして原点 火炎球』」
火炎球を十数展開。一斉発射。
火の粉が軌跡を描きながら十数の火炎球が飛んでいき――「暗黒騎士団」最強の男性は壁を蹴って飛び出し、腰から提げている剣を抜いて、すべてを斬り裂く。
「お、おお!」
下から、思わずといった感じで感嘆の声が漏れ聞こえる。
精鋭の誰かが口にしたようだが、その気持ちはわかる。
それほどまでの見事な剣技だった。
ただ――。
「あっ、落ちる」
精鋭の誰かがそう口にした通り、空を飛ぶのは不可能なようで、空中に足場はなく、落ちていく。
「暗黒騎士団」最強の男性はどこか抜けているのかもしれない。
勝った。
でもまあ、最強ならアレで死にはしないだろう。
そう思いながら落ちていく姿を見ていると、その先にあったのは帝城内にある庭園。
草花や木々が生い茂り、その中の一本の木にぶつか――る前に「暗黒騎士団」最強の男性はくるりと体を回転させて姿勢を正し、木を足場として、しなった木が戻る反動の力を利用して一気に飛び上がり、先ほどよりも低い位置だが帝城の壁に戻って――壁登りを再開する。
「「「……いや、えええええっ!」」」
下から驚きの声が漏れる。
その気持ちはよくわかる。
「……精鋭なんだから、あれくらいできるよな?」
俺の問いに、誰もこちらを見ない。
中には無理無理と頭を左右に振っている正直な者も居る。
まあ、あれは俺も……いや、限界まで身体強化魔法をかければ………………まあ、やりたくはないが。
しかし、これはマズい。
さすがに放置はできない。
とりあえず、精鋭たちは大きな箱ごとバルコニーに置いて――広いバルコニーで助かった――俺はバルコニーの縁から下を見た。
「暗黒騎士団」最強の男性が一直線に登って来ている。
「『赤燃 赤く熱い輝き 集いて力となる 基礎にして原点 火炎球』」
再度、火炎球を数発放ってみる。
上からなら――と思っていたら左右に動いて避けられた。
効果は薄い、というかない。
どうしたものか。
………………パン、パン! と手を叩く。
「ファイ、召喚」
なんちゃって、と思った瞬間――。
「はっはー! 俺に任せろ! あいつは俺の獲物だー!」
うしろの部屋からバルコニーにファイが現れ、そのままバルコニーから外に飛び出し、「暗黒騎士団」最強の男性に向けて落ちていく。
……ええ! まさか! 本当に召喚を! と思ったが、うしろを見れば精鋭の一人が汗を掻いて息を吐いていたので、おそらく大急ぎで助けを呼びに行ったのだろう。
それで、ファイが来た、という訳か。
もう少しタイミングを考えて欲しい。




