同時に言われると困惑する
少し遅れました。
申し訳ございません。
俺の提案はこうだ。
簡単なこと。以前も似たようなことはやっているのだ。
まず、大きな箱みたいなモノを用意する。人がたくさん乗れるヤツな。
いや、今の魔力量であればもっと……まあ、何度も行き来することになるのは面倒なので、できれば数回――と言っておく。え? 嘘っぽい。いや、本当だから。本当、本当。怪しむ目で俺を見るな。とりあえず、今は人を運べる、ということだけ覚えてくれればいい。
ああ、そういえば、大きな箱あるわ。
世界樹の時に使った、数十人くらいがどうにか乗れるヤツがマジックバッグの中に入っている。え? 見る? 普通の蓋がない箱という感じなだけで……ん? 郷土? リミタリー帝国軍を倒して、必ず故郷に帰るんだという思いがでてきたのか? なんだって急にそんな話に……違う? ……ああ、強度の方ね? 運ぶ最中に下から狙われるのが怖い、と。なるほど。なら、箱の強度は――。
――グッ! と親指を立てておく。
「「「いや、口にして言えよ!」」」
セカン、トゥルマ、エルから文句が出た。
ファイは笑っている。
いや、そもそも俺が持っているのは急造だし、これから用意するのも急造だろ? どっちもどっちだと思うが?
それに、下から攻められようが当たらなければいいだけだ。
ほら、ファイもその通りだと頷いている。
「「「いや、そもそも避けられないだろ!」」」
セカン、トゥルマ、エルから文句が出た。
そこはまあ、俺の腕の見せどころ? だろうか。
しっかりと避けることを約束しつつ、大きな箱を見せる。
「「「………………不安しかない」」」
セカン、トゥルマ、エルから項垂れる。
大丈夫だろ、とファイが俺に向けて親指を立ててきたので、俺も立て返す。
ファイが俺に賛成的なのは、俺の提案が大きな箱に反乱軍の精鋭を乗せて運び、帝都を囲むリミタリー帝国軍を越えて、帝都――いや、帝城に直接乗り込む、というモノだからだろう。
一気に相手の本陣へと攻め込む――おそらく「暗黒騎士団」が待ち構えていて、一番の激戦地となる場所へと直接向かおうというのがお気に召したようだ。
もちろん危険はあるが、セカン、トゥルマ、エルがやめろと否定しない、無下にせずに悩んでいるのは、有用性が高く、そのまま現皇帝を押さえれば、早急に勝利を宣言できるからだろう。
それに、このままでは反乱軍はリミタリー帝国軍全体と戦わなければならない。
それを良しとはしていないのだ。
何しろ、この戦いの本質は内乱。
現皇帝を打破してアンル殿下を新皇帝とするか、あるいは現皇帝がそれらを潰して現状のままとするかというモノ。
反乱軍だって、リミタリー帝国軍だって、誰しもが相手を滅ぼすまで戦いたいと思っている訳ではないのだ。
何より、反乱軍が勝利すれば、アンル殿下が新皇帝となり、リミタリー帝国軍はそのままアンル新皇帝の力となる。まあ、それで終わりではなく、これまでの関係性もあるからその調整が大変だろうけど……そこまで俺が考えることではない。
この国の、この国に住む者たちが考えることだ。
俺の目的が、エラルとワンドへの復讐を闇のアンクさんの代わりに行うことは変わらないのだから。
「……それで、どうする? やる? やらない?」
なんだったら、ファイだけ連れて帝城に乗り込んでもいいけど?
―――
「いや、ちょっ! 当たらないよな? 本当に当たらないよな?」
下から少し焦った感じでトゥルマが声をかけてきた。
その声量が普段よりも大きいのは、いつも通り、あるいは小さいと、風の音で掻き消されて聞こえないからである。
というのも、現在、トゥルマを筆頭にした反乱軍の精鋭数十人が乗った大きな箱を、竜杖に括り付けた頑丈なロープで吊るして帝城に運んでいる最中だ。
運ぶのは総勢数百人なので、さすがに一度に全員は無理なため、何回かに分けて運ぶことになり、まずはトゥルマと精鋭たちを運んで、次回以降の降下場所の確保を行うことになった。
ちなみに、降下場所は帝城の最上階にあるバルコニー。
戦闘中の降下場所を考えた場合、地上の方が危険であるし、何よりせっかく空を進んで攻められるのだから、合わせて意表も突けるかもしれないということで、最上階から攻めていくことになったのだ。
もちろん、一番乗りは誰にも譲らないとファイも居る。
「大丈夫。当たらないって」
安心させるように俺も少し声量を上げて答える。
一応、先ほどの返答には「多分」という言葉が最後に付くが、そこは言わないでおいた。
絶対はないのである。
ただ、言わないでおいたのは、それだけ運んでいるトゥルマたちが不安そうだからだ。
ファイは除く。
でも、不安そうなのもわからなくもない。
数人が竜杖を掴んで移動する時とは違い、大きな箱で運ぶのは下から見れば完全に的である。的でしかない。狙ってくださいと言っているようなモノだ。
あとは……アレかな? 竜杖を掴んでの移動と違って、大きな箱は縁以外に掴むところがない。だから、縁を掴んでいる者以外は非常に不安そうな表情なのだ。
こういう時、何かを掴んでいるって安心感に繋がるのかもしれない。
だが――時にはこういう時に何も掴めない場合だってあるのだ。
「――揺れるぞっ!」
俺は声を上げる。返答は気にしない。
下から――リミタリー帝国軍が矢や魔法を放ってきたのだ。
一応、矢は届かない位置まで高く飛んでいるが、魔法は飛んでくるのがある。
避ける。避ける。
揺れる。揺れる。
揺らすなとか文句言ってくるな。
直撃を避けるためなのだから我慢しろ。
……吐くなよ。
誰か、そいつ吐きそうになっているぞ! 口を押さえろ!
トゥルマたちの方は阿鼻叫喚である。
あと、縁に居て下を覗き込んでいるヤツら。右、左とか、左、右とか、一度に言わないでくれるか。どっちに避ければいいか迷うから。それで当たる場合だってあるんだぞ。
流されないように集中する。
腕の見せどころだと、下からの攻撃を回避しながら進み、無傷で最上階のバルコニーに辿り着いた。




