実際にやってみないとわからないことだってある
強化した巨大な剣で黒い光線を押し返し、そのままU型建造物を破壊した。
それでもまだ魔力には余裕がある。
莫大魔力五人分とは、これほどなのかと自分の中にある魔力でありながら少し驚く。
………………。
………………。
ま、まあ、これはアレだよ。そこまでしっかりと確認した訳ではなかったし、そもそも魔力切れなんてそんなにというか、数回あるかないかくらいだから、上限なんてわかる訳がない。だから、魔力切れを起こした時の感覚が強く残っていて、それで実際はまだまだでも、ここら辺が限界かと勝手に思っていた……ということはあるかもしれない。
いや、きっとそうだ。そうに違いない。
「……大、丈夫であったな、アルム」
アブさんが、あれ? という感じで声をかけてくる。
多分、アブさんも俺が魔力切れを起こすと思っていたのに、そうならなかったことが不思議なんだろう。
だから、しっかりと答えておく。
「ああ、大丈夫だった。俺は思っていた以上の魔力量があるみたいだ」
「そう、みたいだな。あれだけ高密度の魔力を消費しておきながら、まだまだ余力を残して……普段と変わらぬように見えるが?」
「まあ、感覚的な話だが、もう一回同じことを今直ぐやれそうな気がする」
「………………できてしまうのか?」
「できてしまうな。ついでに、今も魔力が回復していっているような気がするから、似たようなことならさらにもう一回できるな」
「………………いや、どうして自分の魔力量を把握していない?」
それは、まあ、元々俺の魔力ではないから?
自分で培っていないから、感覚的に掴むのが難しいんだよ。
それに、これが限界ではない。
まだ、無のグラノさんと土のアンススさんの記憶と魔力を受け継ぐから……いや、限界はあるけれど、最終的には無限と言ってもいいような魔力量になりそうだ。
「ところで」
「ん?」
「これからどうするのだ?」
アブさんは下を見ている。
俺も釣られるように下を見ると、放射された黒い光線のところに居たリミタリー帝国軍が散々な目に遭っていた。
なんというか、帝都を守るようにリミタリー帝国軍は陣形を組んでいたのだが、もうそこだけは陣形として成り立っておらず、帝都まで続く穴となっている。
前を見れば、U型建造物は黒煙を上げていて、もう使い物にならないのは目に見えて明白。
守っていたはずのクフォラと「暗黒騎士団」最強の男性の姿もなかった。
さすがに、アレでやれたとは思えない。
うしろを見れば、守り切ることができた反乱軍、とその本陣があった。
………………。
………………。
「……突撃ぃ~!」
手を上げて、帝都に向けて振り下ろす。
まあ、気分的に言ってみた――。
「「「う、おおおおおおおおおおっ!」」」
怒号のような、いくつもの声がうしろからびりびりと響く。
振り返れば、反乱軍が声を上げてリミタリー帝国軍を攻め始めた。
なんというか、ものすごい勢いがある。
………………俺の命令で動いた訳ではないよな?
とりあえず、今後のことを聞くことも兼ねて、一旦本陣に戻ることにした。
―――
本陣は既に元の場所に戻っていた。
なので、迷うことなく着いたのだが――。
「私たちだけではなく、多くの反乱軍が助かりました。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
本陣について早々、アンル殿下とネラル殿下から、直接頭を下げてお礼を言われる。
いや、皇族! と思わなくもないが、それだけ感謝している、ということだろう。
ただ……うん。わかった。わかったから。ほら。頭、上げようか。感謝の気持ちは、うん。受け取ったから、ね。
……いや、頭を下げたまま、後日、何かしらの形で、とか言い始めるのはやめようか。ほら、周囲を見て。反乱軍のお偉いさんばかりで、俺を見る目が鋭くなってきているから。感謝ではなく殺意に変わりそうになっているから。
……いや、反乱軍の大恩人に、とかいいから。あとで厳しく言って――いや、言わなくていいから。正しい。あっちの方が正しいから。
………………。
………………。
黒い光線より両殿下の相手の方が疲れた。
両殿下のあとに、どこか呆れているセカンからも声をかけられる。
「まったく、お前は……私は偵察だけしてこいという意味でお願いしたというのに、まさかそのまま破壊してくるとは」
「え? なら、壊さない方が良かったか?」
「もちろん、破壊してくれた方が良かったし、それでこちらも助けられたのは間違いない。だが、そういうことではなく……はあ。お前は協力者なのだ。それも格別の、な。だから、居なくなられては困る。あまり無茶はするな」
身を案じてくれた訳か。
ここは素直に「ありがとう」と伝えておく。
そのあと、トゥルマとエルからも俺の身を案じる言葉をもらったのだが、ファイだけは違う。
あれは……そう。今度はお前の全力の魔法ありで戦おうぜ! と訴えている目だ。
こっちにその気はなくとも、目と目が合った――いや、相手の視界に入った瞬間に戦いを吹っかけられて、そのまま始まりそうな感じである。
できるだけ応じないように、セカンたちを盾としてどうにか逃れよう。
そうして、俺への声かけが終わると、セカンたちは帝都をどう攻めるかの話し合いを始める。
何しろ、確かにU型建造物からの黒い光線という脅威を取り払いはしたが、向こうには質の高い戦闘用魔道具にバトルドール、何より「暗黒騎士団」の大多数が存在しているのだ。
決して反乱軍が有利になった訳ではない。
なので、そこで俺は一言。
「運ぼうか?」
そう提案した。




