聞こえていなくてもわかられることだってある
U型建造物から照射させる黒い光線の射線上に移動する。
その先にあるのは反乱軍の本陣だ。
本陣が――アンル殿下とネラル殿下、セカンたちがそれでやられてしまうと、反乱軍は間違いなく終わってしまう。
そうはさせないと向かう――が、妨害が入る。
クフォラの魔法が――火の玉や土槍が俺に向けて放たれ続ける。ご丁寧に、しっかりと俺の進路を妨害するように。
ただ、狙いが俺であるため、これでアブさんの方には向かわないので安全だろう。
アブさんは範囲外から付いて来ているのだが、こっちは思うように進めず……イライラする。
避けながらになるため、どうしても時間がかかってしまう。
それでも、どうにか黒い光線の射線上まで移動することができた。
俺の背後には本陣があり、慌ただしくしているのが見える。
それはそうだろう。
移動するなりなんなりと、何かしらの対策を打たないと、そのまま黒い光線に焼き消されてしまうのだから。
ただ、間に合うかはわからない。
黒い光線もそうだが、その衝撃の余波も侮れないのだから。
その辺りの説明をして射線上からできるだけ人を居なくさせたいが……それができない。
今もクフォラからの魔法は飛んできている。
妨害が続いて落ち着かない。
まさか、これは魔道具研究所の町・マアラでの意趣返しか?
もしそうだとするのなら陰湿……いや、さすがにそれはないか。何か別の目的が……いや、意趣返しはあり得そうだな。俺がここに来ることはわかっていただろうし、クフォラなら何かしらのやり返しを行っても不思議ではない。
……おかしい。妨害してくる魔法の数が増え、威力も上がっているような気がする。
ついでに、俺を指差してU型建造物の屋上で憤慨しているように見えなくもな……いや、まさか。
この距離で判別するなんて……。
………………。
………………。
婚期――一瞬、魔法の数が桁違いに増え、形状も変わって明らかに威力が違うと見てわかる。
狙ってのことなので、どうにか回避することができた。
しかし、これでハッキリした。
……迂闊なことは考えないようにしよう。
そう結論を出すと、遠目なのでハッキリとは見えないが、クフォラが横に居る「暗黒騎士団」最強の男性に頭を撫でられ、慰めているように見えた。
いや、まさかな。見間違いだ、きっと。
すると、クフォラが「暗黒騎士団」最強の男性にもじもじしながら声をかけ……「暗黒騎士団」最強の男性は両腕を交差させて×印を作った――というのが見えた気がする。
突如、これまでで最大数の魔法が放たれてきて、見た目は特に変わっていないが禍々しい何かを感じ取れるモノに変わっていた。
上下左右――あらゆる回避行動を取ってどうにかかわす。
「それは八つ当たりと言うのでは?」
思わずそう口にしてしまった。
さすがに距離があるため声は聞こえないが、クフォラが「うるさいっ!」と反応したように見えた。
……くそっ。こっちと違って向こうは余裕だな。
いや、その通りなのだが。
黒い光線を放つU型建造物をどうにかしたいが、反撃しても防がれてしまう。そもそもこの状況では無理。
今、俺が無事というか、まだ避けられる状態なのは、クフォラに決める気がないからだ。
時間稼ぎをされている。
おそらく、連射はできないのだろう。あの威力だし、魔力を溜めるのにある程度時間が必要なのは間違いない。まあ、考えてみれば、アブさん曰く魔法使い凡そ百人分の魔力。
それをそんな直ぐに溜めるのは、さすがに無理ということか。
――ということは、だ。どうやら、黒い光線で俺と反乱軍の本陣を、纏めて焼き消したいらしい。
そういう思惑が見てとれる。
エラルかワンドの指示だろう。もしくは両方か。
だが、時間が稼がれたのは事実。
U型建造物の間に黒い輝きが発生し、大きく強くなっていく。
合わせて、クフォラからの魔法もとまった。
もう必要ない、ということだろう。
そこに、アブさんが寄ってくる。
「不味いぞ、アルム! 黒い輝きが!」
「わかっている!」
「わかっているのならいいが……一ついいか? アルムよ」
「なんだ、アブさん」
「この場に留まっているということは、あの黒い光線を防ぐつもりなのだろうが、どうやって?」
「………………」
「………………」
「………………勢いでここまで来た。今少し後悔している」
「アルムゥ!」
黒い輝きがさらに大きく強くなって、今にも照射されそうだ。
ただ、防ぐだけでは駄目な気がする。それに、クフォラと「暗黒騎士団」最強の男性が手を出さないのなら、こっちにとっても絶好の攻撃の機会だ。
だから……ええい! こうなったら真正面から相手して、そのままぶっ壊してやるよ! 出し惜しみはしない!
「『白輝赤燃 呪縛を断ち切り 螺旋炎獄を巻き付かせ 戒めを解き放つ すべてを浄化する 眩く白き輝刃 燃える意思が結ぶ 光斬剣・火炎纏い《フレイム・ロール》』」
掲げた手の先に、幅だけでも人の数倍はある、螺旋状の火炎を纏う光り輝く巨大な剣が出現。
U型建造物から黒い光線が照射される。
それに合わせて――ぶつけるように――螺旋状の火炎を纏う光り輝く巨大な剣を突き出した。




