考えるよりも先に動くことだってある
「――アルム!」
俺を呼ぶ声が聞こえる。
視線を向ければ、そこに居たのはセカン。
何を求めて俺の名を呼んだのかは、問うまでもなかった。
「わかっている! 確認してくる!」
そう声を出し、竜杖に乗って空へ。
俺が先ほどまで居たのはアンル殿下とネラル殿下、セカンたち、それと反乱軍の代表者たちが集まっていた本陣。そこが一気に騒ぎ出す。何事が起こったのか、と。
喧騒と言っていいほどの騒ぎだが、それが聞こえないほどの上空まで上がり、黒い光線が照射された箇所の付近に向かう。
「アルム! 今のは――」
「アブさん! それを確認しに行くんだ!」
アブさんと共に見に行く。
黒い光線が照射されたところは、本陣から離れた場所。だから、本陣に影響はない。
しかし、黒い光線が照射されたところは地面にしっかりとその跡が残されており、反乱軍が居た場所を越えた先まで続いている。幅は、町の門の横幅くらいはありそうだ。それに、黒い光線の熱量がすさまじいと示すように、地面が赤く焼けている。
黒い光線の照射上に、反乱軍の姿はほとんどない。大多数が焼き消された。姿形が残っている方が稀だが、残っていても命までは残っていない。
それだけではない。
黒い光線が照射された付近にも熱量、それとその余波も届いていて、見た目以上の被害が出ている。
「……くっ」
思わず漏れる。
拳も痛いほど握っていた。
「さっきのはなんだったと思う?」
なんとなく予測はできるが、アブさんにも聞いてみる。
答え合わせのようなモノだ。
「見た限り、感じた限り、確証とまではいかないが、おそらく魔力を集めて圧縮して照射したモノだろう。威力から考察すると、一般的な魔法使いが保有する魔力量で数十……いや、凡そ百人規模だな」
「それほどか?」
「ああ、それくらいの数で集めなければ、こうはならないだろう」
魔力を集めた光線というのは考え付いていたが、規模は予想よりも上。百人規模……だから、魔道具研究所の町・マアラで基準以上の魔力量持ちを連れて行ったのか。
そこで、地上が目に入る。
地上では、リミタリー帝国軍が反乱軍に向けて襲いかかり、戦端が開かれていた。
本来なら反乱軍の方が攻める気が強く出ていただろうが、先手を奪われ、さらにはその先手は誰の目にも明らかで反乱軍の各所で動揺が広がって勢いがない。
その上、魔道具研究所の町・マアラでは五体しか見かけなかったが、バトルドールの姿をリミタリー帝国軍の中でそれなりに見かける。
結構な数を用意していたようで、黒い光線による動揺から反乱軍は立ち直っておらず、一気に押し込まれようとしていた。
それに、反乱軍全体が強い恐怖に包まれているのが感じられる。
バトルドールを含めたリミタリー帝国軍の強さもそうだが、黒い光線に対して――だろう。
再び照射され、それが自分のところにきたら――と誰もが脳裏に過ぎっているのだ。
正直なところ、現皇帝がどうかは知らないが、エラルとワンドが何も変わっていなければ、そこにリミタリー帝国軍が居ようとも、絶好の機会であれば撃つだろう。
反乱軍もそれがわかっているからこそ、余計に恐怖を抱き、押し込まれているのだ。
このままだと反乱軍は負ける可能性が高い――が、この黒い光線をどうにかすれば、状況は変わる可能性が高い。
その黒い光線が照射された場所――帝都の中の黒い光が輝いていた場所に視線を向ける。
そこは、帝城よりも低いが、帝都の外壁よりも高い建造物。その屋上にあるU型の物体から黒い光線が照射されたようだ……というか、それに見覚えがあった。俺が帝都から脱出する際に火属性魔法で燃やし尽くしたモノ――だったのだが、それがその時とまったく同じ形で存在している。修理……いや、建て直した、のだろうか?
だが、なんにせよ、あのU型建造物がある限り、黒い光線が再び照射される可能性は充分にある。可能性はない、と考えて行動する方が危険だ。
だったら、今の内にもう一度壊してしまえばいいだけ。
他にそれらしいのがない以上、それで次はない。
「『赤燃 赤く熱い輝き 集いて力となる 基礎にして原点 火炎球』」
前回焼き尽くしたのと同様に、数m級の巨大火炎球を放つ。
巨大火炎球はU型建造物に向けて真っ直ぐに飛んでいき――着弾しようとした瞬間に両断されて、そのまま帝都の外――反乱軍の頭上を越えてその奥に跳んでいき、その先で着弾した。
一体何が――と視線を向ければ、U型建造物の屋上に立っている人物が居る。
顔までは判別できないが、長剣と黒い鎧は見えたので、おそらく「暗黒騎士団」最強の男性だと思う。
「……中々の腕前の者が居るようだな」
アブさんも同じようにU型建造物の方を見て、そう口にする。
ただ、よく見れば屋上に居るのは一人じゃない。
もう一人居て、その手に持つロッドをこちらに向けていた。
クフォラか? と思った瞬間、U型建造物の屋上から土槍が数十とこちらに向けて飛んでくる。
「面倒な!」
竜杖から落ちないようにしつつ、土槍をかわしながらより外へ――範囲外へと移動する。
ただ、俺の近くにはアブさんが居た。
大丈夫だろうか? と視線を向ければ――。
「……危なかった」
何やら体の関節部を直角に曲げて、どこか奇妙な踊りでも踊っているかのような体勢で、アブさんがそう呟いた。
いやいや、見えているのが俺だけだからって、その避け方はちょっと……ダンジョンマスターっぽくないな。
というか、そっちを気にしている場合ではない。
どうにかU型建造物を破壊しないと、このまま反乱軍が押し切られる。
だが、破壊しようにも邪魔者が居て……上空から魔法を放てばいけるか? と考え始めた時、U型建造物が動き出した。いや、正確にはその場で回り出して、少ししてとまる。
……先ほどまで俺が居た場所が黒い光線の射線上だとするなら、回ったことでそれは変わって……角度を考えるなら……狙いは本陣か!
俺は飛び出すように竜杖を加速させた。




