サイド リミタリー帝国 4
帝都の周囲をリミタリー帝国軍が守るように囲い、さらにその外周を反乱軍が覆っている。
反乱軍が攻撃、リミタリー帝国軍が防衛、という形となっていた。
舌戦が終わり、いざ戦いが始まった――その瞬間。帝都。魔区にある建造物の中で唯一帝都でも外壁よりも高く造られた塔。その屋上部にあるU型建造物。
そのU型部分の間に黒い光の輝きが集中していき、そこから堰を切るように黒い光線が照射される。
照射された場所は、外壁を越え、リミタリー帝国軍の頭上を越えて、反乱軍の一部を射線上に跡形もなく消し飛ばした。
この黒い光線の元となっているのは、魔力。
魔力を圧縮することで密度を上げて威力を高め、それを光線状にして照射したのだ。
その代わりという訳ではないが、圧縮して威力を高めたことで、その範囲は射線上だけと限定的ではあるが、そもそもそれでも光線は非常に太いため、充分な範囲であると言えるだろう。
その元となっている魔力の規模は、一定以上の魔力持ちを数十では足りず、百に届いている。
わかりやすく言ってしまえば、魔法使い凡そ百人分の魔力による魔力光線。
それが黒い光線の正体であった。
そして、規模は違うがこれは魔道具であり、その名は「限定仕様型決戦用魔道具・回転式弩級大魔力砲台」――と正式名称は長いと略されて「大魔力砲」と呼ばれている。
正式名称を名付けた魔道具師長は、この件に関してだけは肩を落としたそうだ。
―――
大魔力砲は、U型建造物とその下にある塔を含めたすべてを指している。
黒い光線の元である魔力を塔の方で管理、運用しているため、どちらかといえば塔の方が本体であり、重要であった。
なので、U型建造物は全体の一部でしかなく、発射台の役割しかなく、アルムが破壊してもこうして修理が間に合い、使用することができたのだ。
ただ、修理が急ピッチであったことに変わりはない。
「魔力庫全消費。魔力持ちの数名が気絶。現在入れ替え作業中。再充填までに数分を要する」
「各部損耗率微小。交換なしで再使用可能」
「魔力圧縮炉冷却中。再使用まで数分」
「発射口融解なし。いけます」
「標的確認……射線上の対象、全消滅」
大魔力砲内部の各所から報告が挙げられてくる。
挙げられてくる報告は伝声菅を通って一か所に集め伝えられていた。
そこは大魔力砲内部にある中枢。全体を管理している場所であり、発射レバーがある場所でもある。
たくさんの伝声菅が繋がっているが、伝わってくる報告はどれも一切の曇りがないクリアな音質であり、きちんと聞き分けることもできるようになっていた。
伝声菅がそういう魔道具だからである。
聞いているのは、大魔力砲を製造した魔道具師たちを纏める存在であり、大魔力砲だけではなく魔区の管理者でもある魔道具師長――茶髪に鋭い目付きのガリガリの三十代後半くらいの男性。ジャアム。
「ケヒヒヒヒヒ! いい! いいですよ! 素晴らしい! これでこそ、ですよ! この一射はリミタリー帝国の魔道具は世界一であることを証明する祝砲なのです! さあさあ、次射の用意を急いでください! ワンド団長の話によると、邪魔者が現れるそうですから!」
喜びを露わにして、伝声菅で急ぐようにと指示を出すジャアム。
それが終わると、今度は管理室の中に居る者たちに確認を取る。
「また壊されるようなことになれば許しませんよ。きちんと守っているのですか?」
「はい! 大魔力砲の防衛に、破格の二人が来てくれています!」
「『限定仕様型決戦用魔道具・回転式弩級大魔力砲台』です。略するのはいいですが、きちんと覚えておくように。まあ、このまま一気に片が付けれますからね。最優先で守るのは当然のこと。ですが、ワンド団長の言う通りに、念には念を入れて……誰か。次射の前に反乱軍の本陣の場所を探っておきなさい!」
それで反乱軍は終わりです、とジャアムは勝利を確信したような笑みを浮かべる。
―――
リミタリー帝国。帝城。最上階に近い一室。そのバルコニー。
そこは帝都の外壁よりも高く、範囲は絞られるが遠目で外を見ることができていた。
その方向は、丁度大魔力砲が照射された方向である。
寧ろ、大魔力砲の威力をこの場に居る者たち――二人の男性に見せるために、先ほどの一射はあの方向に撃ったのだ。
何しろ、この二人の男性こそ、ジャアムに大魔力砲を――採算度外視で非常に強力な戦闘用魔道具を作れと指示を出したのだから。
それが、前皇帝・エラルと「暗黒騎士団」団長・ワンドである。
「想定通りの威力――いや、それよりも上だな」
「ええ。魔道具師長が頑張ったおかげでしょう」
「そうだな。あとで褒美をつかわそう。それよりも本当に消せるのだな? ……アンクの代わりに復讐しに来たという者は」
「そのために大魔力砲は反乱軍の本陣を狙えと言っております。それで釣られるなら纏めて、たとえ釣られなくとも反乱軍の本陣がなくなり瓦解します。どちらにしても反乱軍は終わりかと」
「それもそうだな。大魔力砲の時間稼ぎのためにリミタリー帝国軍を帝都に集めたが……ここまで本格的に集める必要はなかったかもしれないな」
「しかし、よろしいのですか?」
「何がだ?」
「反乱軍の旗頭はアンル殿下とネラル殿下。あなたの孫であるのに」
「ふんっ。あれらを気にする必要はない。優しさなどと、リミタリー帝国には不要だ。それとも、まさかあれらの助命を乞うつもりか? 部下であった者を切り捨てたお前が」
「まさか。ネラル殿下はともかく、アンル殿下は魔力量だけは豊富ですから、道具として使えなくなるのが少し惜しい、と思っただけのこと」
「確かに、その点だけは惜しいな」
エラルとワンド。
両者は揃って醜悪な笑みを浮かべた。




