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賢者巡礼  作者: ナハァト
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気分転換って大事

 魔道具研究所の町・マアラから帝都に向けて出発して――特に何事もなく反乱軍は順調に進むことができていた。

 びっくりするくらい何も起こらない。

 さすがに軍隊を相手にする訳にはいかないと、ある意味常識的な判断をして盗賊の類は出てこないし、何より寄る町はどこも無条件降伏だった。

 兵士や騎士――リミタリー帝国軍の姿がどこにもなかったのである。

 町に寄った時の情報によると、皇帝命令でリミタリー帝国軍は帝都に集結せよと、帝都に向かったそうだ。

 どうやら、帝都で決戦――となるようである。

 ただ、そんな状態なので、今各町には兵士や騎士は居ない。

 一応、各町の防衛や治安維持は独立組織である冒険者たちが残っているので、依頼という形でどうにかギリギリで保っているようだ。

 だから、魔道具研究所の町・マアラの時と同じようにする。

 防衛・治安維持のため、反乱軍の一部を町に残して帝都へと向かっていく。

 おそらく、他でも同じようなことが起こっているだろう――ということは容易に想像できる。

 一方向から向かうだけの戦力であれば痛手であるが、帝都に向かっている反乱軍はここに居る俺たちだけではなく、ほぼ全方向から向かっているのだ。

 全体の数で考えれば寄った町に一部を残しても、そう気にする数にはならないだろう。

 それだけの数が集まるのだ。

 けれど、楽観視はできない。

 これは俺だけの考えではなく、アンル殿下とネラル殿下、それにセカンたちも同意見だ。

 こちらは元周辺国すべてということもあって複数国の、所謂連合国なので数は多い。

 しかし、相手は魔道具の力によって個の力が非常に高められている。

 その最たる存在で最も強化されているのが「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」だが、近衛や騎士、末端の兵士すら、魔道具によって何かしらの強化が施されているのが、リミタリー帝国軍だ。

 数は反乱軍の方が多いが、個の強さはリミタリー帝国軍の方が上であり、それは数をものともしない可能性が充分にある。

 何より、個の強さ以外にも何かしらの魔道具によって大打撃を受けることだってあり得るのだ。

 ……油断はできない。


     ―――


 とりあえず、反乱軍と歩調を合わせる必要はないので、俺は竜杖に乗って空から帝都に向かう。

 一応、偵察という名目もある。

 これまでの状況からすると、その必要性はないと思うが、それでも建前は必要だ。

 決して――そう。決して、暇を見つけては何度も勝負を願い出てくるファイの相手が面倒になった訳ではない。決して。

 そっちはセカンたちに頑張ってもらおう……うん。そうだ。それがいい。帝都に着くまでの間に、少しでも強くなれるとするなら、ファイとの模擬戦だろう。

 ファイとしても、「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」最強のヤツに勝つため、今は己を少しでも鍛えたいのだ。

 ……だから、頑張れ、セカンたち。いつもより激しさが増していると思うが、きっと双方のためになるはずだ。俺は忘れない。セカンたちのことも、ファイも……まあ、どっちも死んでいないけど。


「どうした? アルムよ。先ほどから黙って」


 俺一人で空に居るため、アブさんが気兼ねなく声をかけてきた。


「ん? いや、なんでもないよ、アブさん。ところで、一ついいか?」


「なんだ?」


「いや、なんか、妙に張り切っていないか? そういう風に見えるんだが?」


 何かが変わったという訳ではないが、なんというか、こう別に敵は居ないのに殴り合う仕草をしたり、己を鼓舞するように両拳を握って「よし。よし」と気合を入れていたりと、アブさんの行動からそう感じた。

 すると、アブさんはそれが当然であると頷く。


「間違ってはいない。何しろ、相手はアンク殿の敵なのだろう?」


「まあ、そうだな」


「なら、アンク殿の友である某が、代わりに仕留めてやるのだ!」


 グッ! と親指を立てて見せてくるアブさん。

 いや、やる気になってくれるのは嬉しい。

 気持ちは俺も同じだ。


「だから、アルムよ。即死させたい者が居るなら、いつでも某に言え。なんならこれから向かう先に居るところの全員でもいいぞ」


「……できるのか?」


「もちろんだ!」


 アブさんが自分の胸を叩き、(コツ)ーン! と骨と骨がぶつかった軽い音が響く。

 まあ、さすがに全員ってのは……嘘ではないだろうな。

 アブさんはダンジョンマスターだ。

 普段が普段なのでそう見えないが、実際はそれだけの力がある。

 頼もしい限りだ。

 そのあとはアブさんと共に気楽に進み、いい気分転換になった。


     ―――


 そうして、それなりの日数は経過したが、帝都に辿り着く。

 帝都の周囲は既にリミタリー帝国軍が展開して陣を組んでいる。

 各方面からきた反乱軍も既に到着しており、対峙して、同じく陣を展開していた。

 どうやら俺たちが最後のようだ。

 まあ、俺たちのところは反乱軍の旗頭であるアンル殿下とネラル殿下が居る訳だし、所謂本陣なので、最後に到着しても……うん。許してくれるはず。

 寧ろ、アンル殿下とネラル殿下の安全を考えれば……最後で正解のはず。

 到着と同時に、各方面に指令を出したり、代表者的な人たちが集まったりと戦闘準備が始まって直ぐに終わって、トゥルマが前に出て、対峙しているリミタリー帝国軍の代表者らしき人物が前に出て舌戦――まあ、これでケリが着く訳もなく決裂して……遂にリミタリー帝国の未来を決める戦いが始まる。

 ――瞬間。帝都の中から黒い光が輝いたかと思えば、そこから黒い光線が照射されて反乱軍の一部を焼き貫いた。

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