特に理由なくイケる、と思う時がある
放棄された魔道具研究所の町・マアラを、反乱軍が占拠した。
現在、アンル殿下とネラル殿下、セカンたちで今後の方針、行動について話し合っている。
主に、帝都までどのように進んでいくか、どこで他の反乱軍と合流するか、魔道具研究所の町・マアラにどれだけの人員を残していくか、といったところか。
詳しくは知らない。参加していないので。
それに、俺は協力者という立場なので、進む方向に付いていくだけだ。
目的地――帝都に着ければ問題ない。
……いや、まあ、参加しようと思えばできなくはないと思うが、協力者であって反乱軍の一員という訳ではないので、そういうことに関わるのはやめている、といったところか。
それに、反乱軍とはそもそも目的が違う。
俺の目的はエラルとワンドへの復讐だ。
そこは変っていない。
そのために反乱軍に協力しているだけに過ぎないのだから。
まあ、協力しているからこそ、反乱軍が勝てるように手伝うのだが。
………………。
………………。
というか、正直今暇である。
話し合いの最中って、それに参加しておらず、他にこれといってすることのない者にとって、ただただやることがない時間ではないだろうか?
これで俺とアブさんだけの行動であれば、帝都までビューっと飛んで行って、その時その場の状況によるが、帝城や魔区の上空からしこたま魔法を撃って全壊……はいけるかどうかわからないから半壊……だと物足りないから六分壊、いや七分壊くらいはやっておきたい。
三分残しであれば、反乱軍が来てもやりようがあるし、やった、勝ったと思えるだろう。……いやいや、違う違う。リミタリー帝国をどうにかしたいと思っているのは反乱軍であって、俺はリミタリー帝国そのものではなく、エラルとワンドをどうにかしたいだけだ。
危なかった。今、危なかった。
そのままノリで帝都まで飛んでいくところだった。
………………。
………………。
あれ? それの何が悪いんだ?
三分も残すんだ。協力者として、それで充分じゃないだろうか?
過程はすっ飛ばしてもらって、結果――リミタリー帝国にとどめを刺したのは反乱軍。
この結果が大事なのでは?
………………。
………………。
アブさんに声をかけて行くか。
そうと決まれば……アブさんはどこにいった?
えーと、魔道具研究所の町・マアラに入るところまでは確認しているから、そのあとどこかに行ったのだろう。魔道具研究所の町だし、アブさんの目から見ても珍しいのがあるのかもしれない。……アブさんの目、自体はないけど。
とりあえず、アブさんを探しに行くか。これも一つの暇潰しである。
―――
「ん? 同士じゃないか? あれ? 同士は反乱軍の中でも上の方だったよな? こんなところに居ていいのか?」
魔道具研究所の町・マアラの中を、アブさんを探しながら歩いていると、そう声をかけられた。
というか、誰が同士だ! 誰が! いや、なんの同士だよ!
そう思いながら声がした方を向くと――。
「……団長?」
傭兵団「日の出傭兵団」の団長が居た。
同士と呼ばれる理由にも納得できた。
いや、同士ではないんだけどな。そもそも、同士であると口にした覚えもないし、あれはその場を乗り切るための……いや、深くは考えない。その方が平和なことだってある。
「無事だったんだな。団長」
「まあな。というか、そもそもここの警備をしていたんだ。ここに居るヤツの力量くらいは大体把握している。上手く戦って生き残るくらいはやってできるさ」
「そうか。それに聞いたぞ。リミタリー帝国軍側に居た、ここを守っていた他の傭兵団に声をかけて説得して、反乱軍の方に引き込んだって。それで反乱軍は随分と助かった、と」
「まっ、あいつらはな。俺らと似た境遇だったから引き込んだまでよ。よく一緒にリミタリー帝国に対して愚痴っていたからな」
それなりに友好関係を築いていたからこそ、説得する気になったし、相手も説得に応じたのだろう。
そう思っていると、傭兵団の団長の雰囲気が変わる。
「それに、だ。あいつらとは約束していたんだよ」
「約束?」
もし何かあっても敵対しない、あるいは何かあった時協力する、とか。
「俺らの故郷……元王都・オジナルに連れて行くと」
「……そ、そうか」
何故だろう。嫌な汗がとまらない。
「合わせて、『華やかな花』にも連れて行くってな。あいつらなら、『輝く宝石』ではなく『華やかな花』を選んでくれるはずだ。なら、将来の仲間だ。仲間なら助ける。説得したのは、当然のことをしたまでだ。なあ、同士よ?」
傭兵団の団長にがっちりと肩を組まれる。
まるで、逃がさない、というように。
……あれ? もしかして、俺が同士ではないと、どこかからバレたか? 可能性としては……トゥルマだろうか。トゥルマと傭兵団の団長はいきなり通じ合っていたし、トゥルマは俺がどちらにも加担しない――中立であると知っている訳だし。
……だから、か? もしかすると、俺を同士と呼ぶのは、俺自身が口にしなくとも、外堀を埋めることで他からそのように見えるようにしているのでは……あり得る。有り得るぞ。
だが、俺から違うと口にするのも……今更過ぎる気がしないでもない。
もし否定しても冗談で済ませそうな気がする。「冗談だよな?」と笑顔だけど怖い雰囲気付きで。
あの場はああするしかなかったとはいえ……くっ。駄目だ。目を合わせるな。合わせてはいけない。
「……う、うん。そ、そうだな」
喉が渇きを訴えてきたが、どうにかそれだけ絞り出すことができた。
それで、傭兵団の団長は味方に引き込んだ傭兵団の様子を見に行く途中だったと、去っていった。
………………ノリで帝都に行く気が完全に失せた。
とりあえず、アブさんとは合流しておこうと探すと、洗濯物を白くする――漂白の魔道具を熱心に見ていたところを見つける。
声をかけて何故熱心に? と尋ねると「これを使えば、某も美白になるだろうか?」というアブさんの返答に、なんかほっこりしたというか落ち着いた。
―――
魔道具研究所の町・マアラを占拠した反乱軍は、二日間休息と再編で滞在したのち――防衛や治安維持のために一部をここに残して、帝都に向けて進み出した。




