無難なので充分かと
セカンたちが倒したバトルドールの数は五体。この場にある分の全部。一体も逃していないのはさすがである。
その内、二体を確保することができた。
残る三体は、反乱軍の方でも念のために調べたいようなので、そちらに。
まあ、直接倒したのはセカンたちであるし、その中の二体でも分けてもらえたのは素直に嬉しい。
これでお土産は確保できた。
きっとラビンさんが喜んでくれる……と思う。
執事見習い時代の同僚の執事やメイドも言っていた。
お土産選びにもセンスが必要な時がある、と。
……これはセンスが光ったお土産なのだろうか?
不安になってきた……が、直感が諸手を上げて賛成してきたのも事実なので、その直感を信じよう。
大丈夫さ。きっと。
あとで反乱軍にも引き渡すが、とりあえず今は俺のマジックバッグの中へ入れておく。
そのあとはアンル殿下とネラル殿下のところへ一旦戻る。
俺にしか見えていないが、戻るとアブさんが上空に待機していて、問題なかったと親指を立ててきた。
ありがとう、と頷くように小さく頭を下げ、反乱軍の本陣へと下りていく。
アンル殿下とネラル殿下から無事で良かったと一言もらってから、向かった先で起こった出来事を説明し、そのまま休憩を取ることになった。
一応、反乱軍とこの場のリミタリー帝国軍の戦いはまだ続いているが……まあ、そっちは大丈夫だろう。俺やセカンたちが今更参戦しなくても、このまま反乱軍で押し切れる。
寧ろ、ファイとエルはまだ戦っているのだ。
それだけでも過剰戦力だろう。
それでも一応いつ呼ばれても駆け付けられるように気は少し張りつつ、体を休める。
こうなると、思考だけが動く。
正直なところ、リミタリー帝国側の戦力を削ぐという意味で、クフォラはこの場で倒しておきたかった。
邪魔さえ入らなければいけたと思う……思うのだが………………「暗黒騎士団」の最強、か。てっきり、ワンドが未だに団長であるし、その位置に居ると思っていた。
まあ、確かに、闇のアンクさんの記憶から……多分五十年は経っているし、さすがに――ということだろう。
ただ、あの男性が「暗黒騎士団」の最強というのは、ファイを相手に無傷、その上反撃で僅かとはいえダメージを与えられるところから、あながち間違っていないのかもしれない。
しかし、それにしたって「人類最強」と渡り合えるとか……噂とはいえ本当だろうか?
まあ、「人類最強」については、俺もそう呼ばれている者が居る、ということしか知らないので、比較しようにもなんとも言えないのだが。
そうして、色々と考えている内に……この場での反乱軍とリミタリー帝国軍の戦いは終わった。
もちろん、反乱軍の勝利である。
リミタリー帝国軍の敗北の直接的な理由は、二つ。
この場で一番上の地位に居たであろうクフォラが居なくなったことと、ファイが暴れ過ぎたことだ。
途中から上からの指示もなく、戦意喪失して降伏する者が現れ始めてそれが一気に広がり、それでこの場のリミタリー帝国軍が瓦解した、という形である。
まあ、なんにしても勝利は勝利。
ファイもイライラは解消され、落ち着きを取り戻したようだ。
「……じゃあ、やるか、エル」
「……え?」
「いや、え? じゃねえから。終わったらやり合うってよ! もちろん、約束も忘れていないぜ! 俺に勝ったら、壊した短剣を弁償してやるよ!」
「………………はあ~。わかりました。わかりましたよ。戦えばいいんでしょ。戦えば。……きっちり、弁償してもらいますからね」
「勝ってから言え! 勝ってから!」
まだ戦うようだ。
いや、まだ終わってないんだが。
魔道具研究所の町・マアラの攻略が残っている……が、いっか。
反乱軍に任せれば。
とりあえず、魔道具研究所の町・マアラを陥落すれば、こちらの完全勝利である。
―――
魔道具研究所の町・マアラも陥落した。
というより、抵抗なんてまったくなく、門も普通に開いていたくらいだ。
どうしてそんなことに――と思ったが、中に入って直ぐにわかった。
魔道具研究所の町・マアラの中に居た人たちの数が、目に見えて減っていたのである。
何がどうなっている? と反乱軍が残った人たちから事情聴取すると、俺、ファイ、エルでアンル殿下をここから連れ出した日の翌日に、あの「暗黒騎士団」最強の男性が皇帝からの命令書を携えて現れ、魔道具に関する重要な研究材料や道具、書類、それと職種問わず、魔力量が一定以上ある者を全員帝都へと送り出したそうだ。
そうなると、クフォラがバトルドールと共に現れたのは、バトルドールがどれだけやれるかの情報収集だけではなく、その時間稼ぎのため、という側面もあったのだろう。
最後にクフォラが「暗黒騎士団」最強の男性と退いて完了。
残ったのは、重要なモノは何もない魔道具研究所の町。
つまり、リミタリー帝国は魔道具研究所の町・マアラを見捨てた――放棄した、ということでいいのだろうか。
しかし、何か狙いがあっての行動なのは間違いないだろう。
帝都に……何かあるのかもしれない。
思考の中に過ぎるのは、俺が帝都から脱出する際に壊した巨大建造物だが……壊し切れていなかったのだろうか? いや、それとは違うモノ、という可能性もある。
ただ、さすがにその答えは出ないし、行ってみないことには何もわからない。
反乱軍と共に帝都に辿り着いたに何が起こるのか――一抹の不安が過ぎった。




