表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者巡礼  作者: ナハァト
372/614

時には考えてから話すことも必要です

 クフォラと対峙する。

 向こうが周囲を空けて待っていたのは、バトルドールを存分に戦わせるためだろうが、それは俺にとっても都合がいい。

 周囲への影響を気にすることなく、魔法を放つことができる。

 ……いや、周囲への影響というか、自然への影響は考慮しないといけない。まあ、それは相手次第とも言えるが。

 その相手となるクフォラを見て、思うことを口にする。


「……あんたは、裏切ったことが許せないとファイやエルを相手にすると思っていたんだがな」


「フフフ。もちろん、裏切りは許しませんよ。死をもって償っていただきます。ですが、それはあと。今はあなたの方を先に殺します。よくよく思い出してみれば、あなたたちがアンル殿下を連れて逃げ出した時、あなたは生意気にも私の魔法を防ぎました。先ほどもそう。まさか、私とやり合える魔法使いがそちらに居るとは思いませんでしたが、居るのならリミタリー帝国にとって邪魔な敵になるかもしれません……いえ、既になっていますね、あなたは。ワンド団長に狙われていますもの」


 クフォラは、相手を射殺すような目を俺に向けてきた。


「それに、同じ魔法使いであるのなら、教えてあげなければいけませんよね……私の方が上である、と。魔法使いとしての格の違いを」


 そのままロッドを構えつつ、酷薄とした歪な笑みをクフォラが浮かべる。

 こちらを威圧するように、クフォラから大きな魔力が溢れ出す。

 わざわざ空けた場所にしたのは、クフォラにとっても自由に魔法を使うため、なのかもしれない。

 竜杖を構えつつ、俺も思ったことを言うために口に開く。


「綺麗な顔立ちをそんなに歪ませて、今のリミタリー帝国はそこまでの国ではないと思うが?」


 でなければ、反乱なんて起きない。


「ただ、魔法使いとしてどちらが上か知りたいのなら、教えてやるよ」


 俺の方が――無のグラノさんたちから受け継いだ力がどれだけのモノか。

 そして、クフォラと魔法合戦に――。


「え? 綺麗って……」


 クフォラに動揺が見られる。

 構えたロッドを引っ込めて、何やらもじもじし始めた。


「ええ……あれ? もしかして、これって、あれ? そういうことなの?」


 ん? んん? どういうことなの? あれ? どうした? 先ほどまでの、よし戦うぞ! という雰囲気はどこいった?


「そりゃ確かに、男と女だし、敵対している間に相手のことを憎からず思うことだってあるかもしれないけど……まあ、でも、仕方ないよね。ほら、私って、その……綺麗、だし、その場に居るだけで自然と、ね。ほら、見惚れてしまっても、仕方ないっていうか」


「いや、あの……」


 クフォラに向けて軽く手を振ってみるが、反応がない。

 いや、生きていることは見ればわかるし、意識もハッキリしているように見えるのだが……こちらに向けられていないような……。


「でも、待って。やっぱり敵対しているってヤバくない? マズいよね、この状況……でも、いい。敵対しているって……いい。戦いを通して相手を知り、想い合うようになる二人。でも、所属している組織は敵同士。普通に会うことは難しく、想い人と組織の間で揺れ動き揺さぶられる感情。相手と出会えるのは戦場ばかり。でも、それでも、戦いを通して相手を深く知り、結び付いて、焦がれて……」


 う~ん。駄目だ。俺のことが見えていない。

 あれ? おかしいな。先ほどまで俺を殺す気満々だったのに……殺意、どこ行った?

 どうすればいい? と周囲を見ても、誰も居ない。

 後方でセカンたちが戦っているだけだが……まだ戦っているので、こちらの様子に気付いていないため、助言を求められない。

 元は同じ所属だったんだし、ファイかエルにどうにかして欲しいのだが……。

 ………………。

 ………………。

 まあ、いっか。

 よくよく考えてみれば、ここは戦場であり、今は戦闘中である。

 隙を見せた方が悪い……はず。

 なんか少し気が引けるというか、道徳的にそれでいいのか疑問だが……クフォラが敵であることに変わりはないし、「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」は誰もが何かしら強化されていて、クフォラは魔力系が強化されているのは間違いない。

 油断していい、できる相手ではない可能性があるし、倒せる時に倒しておくのが一番だ。


「『青流 流線で流形 不定形であり 変幻自在 水球(アクアボール)』」


 頭を冷やして欲しいという意味も込めて、人と同程度の大きさの水球を打ち込んでみる。

 いや、もっと大きくもできたのだが……やはり申し訳なさがあるのかもしれない。

 水球はそのまま飛んでいき――。


「……はっ!」


 クフォラが横っ飛びしてかわす。

 水球はそのまま魔道具研究所の町・マアラの外壁にぶつかった。

 外壁に特に異常はないので、威力も抑えめになっていたようだ。

 横っ飛びで水球をかわしたクフォラは、そのまま腹部を地面に打ち付けてしまったようで、呻き声を上げてうずくまっている。

 といっても、回復したかどうか、我慢したのかはわからないが、直ぐに立ち上がって俺を睨む。


「……まさか、このような汚い手を打ってくるとは。汚い。魔法使い、汚い。性格悪い。だから、陰湿だのなんだのと陰口を叩かれて、モテないのです」


 いや、それだと魔法使い全体がそうみたいに言っているが、さすがに全員が全員ではない、というか、別に職種は関係ないと思うが?

 それに、全員となるとクフォラ自身も入っているのだが、それはいいのだろうか?

 俺自身はまあ……少し気になる。


「何より……私の乙女心を弄んだ罪! 万死に値します!」


 クフォラの魔力が先ほどよりも大きく溢れ出す。

 怒気も含まれているようだ。

 というか、弄んだ覚えはないのだが?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 天然「たらし」とか、鈍感系「ハーレム」主人公でなく、ただの天然で鈍感なだけの奴なのがアルム君のいいところだと思いました。笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ