サイド 対バトルドール 2
トゥルマもバトルドールの一体と戦っていた。
「これは……なるほど……随分と出来のいい魔道具ですね……」
剣と盾を駆使してバトルドールと戦いながら、その情報を収集していく。
これでも――と言うべきかどうかだが、少なくともトゥルマは反乱軍の――言ってしまえば大将である。
セカンとファイはその強さが目立つが、反乱軍の大将とはなり得ない。
いや、ファイはともかく、セカンにそれだけの器がない訳ではないのだ。
トゥルマが最初から――元周辺国がバラバラであった頃から反乱軍となった今まで、軍関係に関わっていたからこそ、反乱軍では誰もが認める大将なのである。
また、決して弱い訳ではない。
セカンとファイが目立つというだけで、その強さは引けを取っている訳ではないのだ。
そんなトゥルマは、バトルドールを――。
「それに、随分と学習するのが早いようで」
そう評した。
トゥルマがバトルドールと戦い始めて直ぐ、バトルドールの行う攻撃は並の兵士と同等、あるいはその少し上、という程度であり、トゥルマからすれば大したことはない程度。
バトルドールもただ硬いだけの存在でしかない、と思っていた。
しかし、バトルドールはトゥルマの剣術を模倣し始めたのだ。
ただし、それは自分なりに模倣して――ではなく、完全に動きを真似ている、というモノ。
それに対してトゥルマは学習が早いと評したのだ。
だが、合わせて少し残念に思う。
何しろ、剣の長さや手足の長さ、人によって違う最適解は違うのだから、当然バトルドールにはバトルドールに合った最適解があるのだ。
そういうのを無視しての模倣。
一定以上の効果はあるかもしれないが、トゥルマからすれば大したことがないというのは変わらない。
やり合ったことでトゥルマはバトルドールの硬さを充分に理解し、斬れる――と思ったその時、バトルドールの学習能力の高さが真価を発揮する。
そのきっかけは、エルがバトルドールを倒したこと。
バトルドールはその様子を見ており、学習したことでその動きが変わる。
トゥルマが放つ剣を弾くようになり、足も動かし始めた。
動きの変化を、トゥルマは敏感に察する。
その狙いを考え――答えを導き出す。
「……もしかしなくても、ファイの方に誘導していませんか? ついでに言えば、私の剣を滑らせて、そのままファイに攻撃を向けさせようと狙っていませんか?」
バトルドールは、違う違う! そんなつもりは一切ないよ! と焦るように首を左右に振って、誤解だと手も振る。
明らかに慌てた様子。
何より、バトルドールはファイの方に移動しようとしていた。ついでに、トゥルマの剣を弾き流して、その切っ先をファイに向けさせようとしている。
それに間違いはなかった。
トゥルマとしても反応が返ってくるとは思わず、内心では少なからず動揺していたが、それでもやることは変わらない。
「そうか。私の見当違いでしたか」
そうそう、と頷くバトルドール。
「そんな訳ありませんよね!」
――一閃。
トゥルマがバトルドールの頭部から剣を振り下ろし、その技量をもって両断。
その際に核も斬られて、バトルドールは停止した。
「これでも反乱軍の大将……いや、『黎明の破壊騎士団』の団長でもあるのです。反乱軍と『華やかな花』のためにも、無様なところを見せる訳にはいかないのですよ」
トゥルマは、キリリと決め顔を浮かべた。
―――
エルとトゥルマは少し時間がかかったものの、バトルドールを倒した。
といっても、両者共にバトルドールの情報を集める、という目的があってのことである。
倒そうと思えば直ぐ倒せるだけの実力を持っているのだが、それは何もこの二人だけではない。
寧ろ、戦闘能力という面だけを見れば、エルとトゥルマよりもセカンとファイの方が強いのである。
セカンにとって、バトルドールは相性のいい敵と言えた。
セカンが得意としている戦い方は格闘。
武術を習得しており、その上内部へダメージを与えられる鎧通しも使うことができる。
確かにバトルドールは金属の体であり、打撃、斬撃に強く、魔法にもある程度の耐久度をもたせるように造られているため、大抵の攻撃には強い。
しかし、内部破壊まではどうしようもなかった。
「――ふっ!」
短い呼吸と共に、セカンはバトルドールの胸部に打撃による鎧通しを行う――のだが、それでもバトルドールは動いた。
核が破壊されていないからである。
けれど、セカンは慌てずに、今度は頭部に鎧通しを行い――バトルドールは核を破壊されて停止した。
セカンからすれば、バトルドールは脅威足り得ない。
すると、そこで耳に届いたのは、トゥルマの勝利宣言だった。
セカンは少し考えたあと――。
「この勝利を反乱軍――それと『輝く宝石』に捧げよう」
そう締めくくった。
アルムが聞けば、「捧げられても要らないんじゃないか? 『輝く宝石』は」と言っていただろう。
―――
もう一人。ファイはバトルドール二体を同時に相手取っていた。
といっても、セカン、トゥルマ、エルが割と直ぐ倒したように、ファイもやろうと思えば二体同時であろうとも直ぐに倒すことはできる。
なんだかんだと、それだけの力を有しているのだ。
しかし、ファイは直ぐ倒すようなことはせず、少しの間だがバトルドール二体を相手取る。
その様子は何かを確認するかのようで、好戦的な笑みは消え、真面目そのもの。
途中、エルの短剣が飛んできたりといったことはあったが――。
「……まあ、数が増えたところで、やっぱ楽しくねえな。玩具と戦うのは」
ファイはそう結論を出す。
直後、バトルドール二体は、一切反応できないほどの速度によるファイの槍の刺突で、ほぼ同時に頭部が貫かれて停止した。
ファイは槍を肩にかけ――。
「さて、エル。さっきの短剣について――やり合おうか!」
好戦的な笑みを浮かべる。




