身に付けていると案外気にならなくなる
俺が竜杖で空に飛んだ途端、竜騎士五騎が一斉にこちらに向けて飛んできた。
まだ戦端も開かれていないというのに、まさに奇襲である。
そういう手を使うのか、と思うが、向こうにとっての計算外は、俺が魔法使いだということだ。
飛んできたといっても、まだ距離はある。
竜種なので耐性が強いとか関係ない。
失敗してもいいから、耐性すら超えるような特大威力の魔法で燃やし尽くしてやる。
火のヒストさんの記憶の中にある、最強の火属性魔法を――ん?
竜騎士五騎が俺から少しだけ距離を取って、空中で綺麗に並んでとまった。
そうして様子を視認できるまで近付かれたことで、見えてくるモノがある。
「えっと……」
さすがに最強の火属性魔法を放つのが躊躇われる。
というのも、どうもこの行動は竜騎士の意思ではないようだ。
「こら! 言うことを聞け!」
「どうして突然……」
「動け! 動けよ!」
竜騎士が声を荒げるが、飛竜たちは一切反応しない。
ただただ、俺に向けて頭を下げ――いや、動いた。
「グギャアッ!」
うるさい、とでも言うように、羽で竜騎士を打ったり、その場で一回転したりと、竜騎士を落とした。
竜騎士たちの方も突然のことで反応が遅れて、綺麗に落ちていく……反乱軍の中に。
……竜騎士 竜がなければ ただの騎士。
最大戦力である飛竜に落とされ、人数差も相まって、結果から言えばフルボッコにされていた。
まあ、そっちは放っておいてもいいだろう。
問題は、未だ俺に向けて頭を下げている飛竜たちである。
こっちが飛んでいる以上、飛竜たちもバッサバッサと羽を動かして飛んでいるので、羽音が非常にうるさい。
町中なら間違いなくご近所迷惑だが、ここ町中でもないし、空中なのでこのまま飛び続けていても、それは問題にならないだろう。
それよりも、気にするべきは飛竜たちが俺からの反応を待っているように見えることだ。
「……言葉はわかるか?」
「グギャ!」
真ん中の飛竜が答え、他の飛竜が頷く。
わかるようだが、こっちがわからない。
さすがにこのまま放置して……は駄目だろうな。
どうしたものかと飛竜たちの様子を見て……気付く。
俺に向けて頭を下げていると思っていたが、どうも違う。
飛竜たちの視線は、俺のローブと竜杖に向けられている。
竜杖は、杖の先端にある宝石の上に小さな竜が乗っている装飾だが……もしや、これに何かしらを感じているのだろうか?
それに、思い出してみると、このローブはドラゴンローブ。
元となった素材は、カーくんの鱗だ。
カーくんは「究極聖魔竜」なんて呼ばれる竜だし、そんな竜の鱗がローブになったとしても、何かを感じ取れるのかもしれない。
……格の違いのようなモノを。
まあ、知っている俺からすれば、カーくんはカーくんだけど、飛竜からすれば違うのだろう。
……まあ、推測の域は出ないが。
それに、今重要なのは飛竜たちの扱いである。
とりあえず――。
「言葉がわかるということと、その態度と行動から察するに、乗っていた竜騎士よりも俺の方に従うということか?」
「グギャギャ!」
「ギャギャ! グ! ガギャグ!」
真ん中の飛竜が頷きながら鳴き、他の竜も同じく頷いて、言葉を話すように鳴きながら羽で器用に下を指し示したり、何かを伝えるように動かしながら、ペッ! と唾を吐くといった行動を取る。
見たまんまを言えば、「元から気に入らなかったんスよ、あいつら。なんか上から目線で命令してくるし、世話も他のに任せるしで、信頼度、好感度、最悪っス! 正直、やってられなかったんスよ」という感じだ。
まあ、そういう風に見えただけで、本当にそう言ったかはわからないが、そう外れていないと思う。
となると……俺の指示に従うようだし……。
「という訳で、飛竜五体を鹵獲してきた。乗り手がきちんと世話することが条件だと思う」
テレイルたちの前まで飛竜たちを連れて行き、簡単に説明する。
竜杖の見た目がそれっぽいので、竜杖の力だと言っておく。
まあ、飛竜たちは竜杖にもどこか気を遣っているようだし、あながち間違いではない。
飛竜たちも条件はそれで間違いないと頷いている。
テレイル、リノファ、「新緑の大樹」は苦笑いが浮かんでいたが、ゼブライエン辺境伯とシュライク男爵は面白いモノを見つけた子供のように俺を見ていた。
「おいおい、ドルグ。飛竜を手懐けるなんて、本当に何者なんだ」
「通りすがりの凄腕魔法使いだ、ガオル」
「魔法だけでなく、色々と凄腕だったってことだな」
「そうだな。テレイル殿下が味方に引き込んだのは、まさに英断だったということだ」
当のテレイルは苦笑だが、それも直ぐに引っ込む。
真面目な表情で飛竜たちを見る。
「言葉がわかるのなら、きちんと世話することを約束するので、協力して欲しい」
「……グギャ!」
「多分、『しかたねえっスね!』だと思う」
その通りだと頷く飛竜たち。
こうしてセプテ砦に配置していた国軍の竜騎士は無力化され、飛竜たちはこちらの仲間となる。
そして、そんな飛竜たちの最初の仕事は、俺の提案でゼブライエン辺境伯とシュライク男爵、他精鋭数名を、セプテ砦内に投下することだった。




