なんかできるように見えてしまう時ってあるよね
クフォラの側に居た五体。「バトルドール」という名の戦闘用魔道具――自立型戦闘用魔導人形だ、とファイは言う。
……いるよね。こう、なんでお前が知っているんだよ! と言いたくなるヤツって。
「バ、バトルドール? 聞いたことはないが、要は魔道具だろう? そこまで警戒が必要な存在なのか?」
セカンがファイに尋ねる。
ファイの真剣な様子から、その必要があるかもしれないと思ったようだ。
「どうだろうな? ここに居るお前らなら大丈夫だと思うが、他の兵士とかならまず無理だろうな。何しろ、金属の体だ。並大抵の攻撃は通じない。魔法も同じく。そういう加工をしているはず。あとは……なんだったか?」
ファイがエルに尋ねる。
エルは「私は詳細までは……」と申し訳なさそうな表情を浮かべた。
すると、ファイがクフォラに視線を向ける。
いや、敵に聞くってどうなのよ?
「あとは……そうですね。あとはある程度の剣術を学ばせていますし、この体ですから当然痛みはありませんので、動かなくなるまで動きます。ですが、魔力で動いていますので、魔力が切れれば当然動かなくなりますよ。ですが、それに期待はしない方がいいですよ。たっぷりと注がれていますので、丸一日でも戦うことができますから」
クフォラが笑みを浮かべる。
いや、言うのかよ!
「て、なんで私は馬鹿正直に言うのよ!」
クフォラが地団駄を踏む。
ファイが自然体でさらっと聞いたからかな? それで思わず前の「暗黒騎士団」の同僚感覚のままで話してしまったとか?
……あり得る。
ファイが色々と情報を知っているのは、こういう手段で聞いていたからだろうか。
……ファイ。侮れないな。
「――という感じだ」
クフォラの説明を、ファイがそう締めくくった。
うん。まあ、それは別にいいのだが、せめて相手をフォローしてやった方がいいのでは?
敵だけど、ファイに振り回される姿は、見ていてちょっと悲しくなってくるというか、「頑張れ!」て一言くらいは言ってやりたくなる。
そこで気付いた。
以前、ファイが言っていた玩具って……バトルドールのことだと。
「俺はあの玩具が気に入らない! だから、潰す!」
ファイが槍を構える。
その様子を見て、クフォラが口を開く。
「あら? 気に入らないなんて失礼ね。これでもそこらの雑兵よりも余程強くて命令通りにも動く。これを量産して、リミタリー帝国の次期主力兵士となるのですから」
「だから、それが気に入らねえんだよ! 戦いを玩具任せにするってのがな!」
「やれやれ。それの何が悪いのやら。私にはわからない思いですね。まあ、わかろうとも思いませんけれど」
クフォラがロッドを持っていない方の手を上げる。
その動きに合わせて、バトルドール五体が身構えた。
動きを見せたことで、こちらもセカン、トゥルマ、エルが身構える。
……俺も構えた方がいいだろうか? でも、構えとか取らず、自然体で立っている方がなんか魔法使いっぽくない? それもできる魔法使い、みたいな?
「まあ、バトルドールの強さを推し量るのに、あなたたちはいい相手です。精々頑張ってください。できるだけ長く戦ってくださいね。その方が、いいデータを得られてバトルドールの今後のためになりますので」
クフォラが上げた手を下ろす。行け! と。
バトルドールが動き出す。
五体すべてがこちらに向けて駆け出し、こちらもセカンたちが駆け出した。
「あっ、そうそう。一つだけ忠告を。私たち『暗黒騎士団』ほどではありませんが、その体はこの黒い鎧に近い強化が施されています。何しろ、バトルドールは魔道具なのですから」
真正面からぶつかり合うセカンたちとバトルドール五体。
セカン、トゥルマ、エルが一体ずつ、ファイが二体を相手取っている。
ファイは数で不利だが、それでも普通にやり合っていた。
トゥルマ、エルも。
若干押され気味に見えるのは、セカンだろうか。
これは仕方ないと思う部分もあった。
トゥルマの鎧は「暗黒騎士団」の黒い鎧ほどではないが自身を強化する魔道具の鎧であるし、ファイとエルはその黒い鎧を身に付けている。
言葉通りにバトルドールが黒い鎧に近い強化をされていたとしても、充分にやり合えるのだ。
しかし、セカンは生身。
強化はない、のだが、それでも押され気味でやり合えているのが、セカンの強さを証明しているような気がする。
バトルドールの方も、リミタリー帝国の次期主力兵士とクフォラが言っていただけのことはあって、そう簡単には倒せなさそうだ。
セカンたちでこうなら、普通の兵士では難しいかもしれない。
ただ、一つ気になることがある。
……そう。俺のところには一体も来ていない。
というか、なんでお前が二体を相手にしているんだよ! とファイを見れば、俺の視線に気付いたファイが顎を振ってクフォラを指し示す。
……はいはい。あっちの相手をしろってことか。
俺は戦闘中のセカンたちの間を抜けて、クフォラと対峙する。
「すみませ~ん! なんか余っちゃったから、相手してもらってもいいか?」
手を上げて、笑みを浮かべる。
「ええ、構いませんよ。といっても、あなた如きで私の相手になるかどうかはわかりませんが。何もできず、無残に殺されてもいいのなら」
クフォラが酷薄とした笑みを浮かべた。




