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賢者巡礼  作者: ナハァト
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これ! と一発で決まる時ってない?

 クフォラが出て来たのなら、俺も出た方がいいと思う。自惚れでもなんでもなく、この場でクフォラの魔法と正面からやり合えるのは、俺だけだと思うからだ。

 それに、あの巨大な炎の蛇を野放しにすれば、反乱軍に大きなダメージを与えることになる。

 なので、直ぐにでも出ようと飛――。


「待て!」


 ぼうとしてとめられる。

 セカン、ではなく、ファイがとめてきた。

 自分も連れて行けと笑みを浮かべ――ていない?

 真剣なまなざしをクフォラが居る辺りに向けている。


「……ちっ。やっぱり残していたか。全部帝都に送る訳がないか」


 そう口にして、どこか憎々しげである。

 なんというか、こう……居るよね。自分だけわかっているというか、どうやってあの距離を見ているのか不思議というか、察しているというか――とにかく、なんか見えている人って。

 そう思っていると、ファイが声をかけてくる。


「俺も連れて行け!」


 やっぱりそれは言うのか。


「いや、全部潰すのには人手が居るし、こっちも丁度いい数だ! セカン、トゥルマ、エルも連れて行け! 経験できるいい機会だし、今の内にしておいた方がいい!」


 ファイが戦場に自分以外も一緒に連れて行け? と珍しさからか、ファイ以外の名が出た全員が顔を見合わせた。

 突然のことではあるが、ファイの様子から何かしらがあることは窺える。


「まさか……もう出て来たのですか? いえ、ここにあったのですか?」


 エルが何かに気付き、ファイに問う。

 ファイは頷きを返した。

 というか、迷う時間も惜しく、何より全体の戦局は反乱軍が押しているのなら、そこで何かしらの経験を積ませるというのは、確かに今が好機と言えば好機。

 近くに居るアンル殿下とネラル殿下も、ここは大丈夫なので行ってください、と頷く。

 まあ、冒険者や兵士も居るし、ここに何かがあって気付いて戻ってくるくらいまではもつと思われる。

 それに――。

 チラッと上空を見れば、こちらの状況を見ていたアブさんが、ここは見ておくと頷く。

 これで大丈夫だ。何も問題ない。


「さっさと行くぞ! 時間がもったいない!」


 俺がそう声をかけると、セカン。トゥルマ、ファイ、エルは直ぐに俺の下へきた。

 魔道具研究所の町・マアラに攻め入るのだから、元々戦闘準備はできている。

 竜杖に跨ると、セカンとファイが竜杖を掴み、トゥルマはセカンを、エルはファイを掴む。


「行くぞ! 放すなよ! 落ちるぞ! 落ちても拾わないからな!」


 戦闘の中に拾いに行くなんて無理だから。


「いや、そこは責任感をもって」


 セカンがそう言い、他の三人も頷く。


「いや、この場合の責任感は掴んでいるのが放す方だろ。俺は関係ない」


 きっぱり言うと、四人が文句を言ってくる。


「……なら、あそこまで徒歩でいくか? 戦場の中を突っ切って」


 ピタッと文句はとまった。面倒なのだろう。

 わかればいい、と一気に飛び上がり、リミタリー帝国側の奥――クフォラが居る場所に向けて飛んでいく。


     ―――


 行動が素早かったおかげか、あるいは相手にその気がなかっただけなのか、炎の蛇が反乱軍に襲いかかる前に、俺が水属性魔法で上から超巨大な水球を落として、炎の蛇を一気に蒸発させる。


「……お前、魔道具の補助なく、素であれほどの魔法を放てるのか?」


 セカンが驚きの声を上げる。

 いや、トゥルマとエルも驚き、ファイは目を輝かせていた。

 ……そこは見なかったことにしていく。

 ワクワクするなよ。


「まあな」


 少しだけ胸を張っておいた。


「……しかし、あれほどの魔法を放った割には平気そうだな」


 トゥルマが不思議そうに聞いてきたので答える。


「あれくらいなら一日――は言い過ぎかもしれないが、長い時間放ち続けられるくらいはできるぞ」


「……どれほどの魔力量ですか、それは」


 エルが信じられないといった表情で俺を見る。

 ただ、具体的な魔力量を求められても困るのが事実。

 莫大? 膨大? 魔力五人分としか。

 というか、さらに嬉しそうになるな、ファイ。

 そのままさらに奥へと向かうと、クフォラは地上で待ち構えていた。

 俺たちが来るのをわかっていたかのように、わざわざある程度人払いをして場所を空けている。

 ある程度、というのは、クフォラの側に五人居るのだ。

 ファイが気にしていたのは、その五人のことだろうか?

 空いた場所――クフォラと対峙するような位置に向かい、セカンたちが竜杖から手を放して下り、俺も地上に下りる。

 そこでクフォラに視線を向けて……気付く。

 ……五人は五人じゃなかった。

 いや、何言ってんだ、俺。

 そうじゃなくて、正確には五人ではなく五体だったのだ。

 人ではない。人形。

 パッと見は全身鎧を身に纏っているような姿なのだが、違った。

 体がすべて鉛のような青みを帯びた灰色に輝く金属で構成されていて、頭はあるが目や鼻、口に耳といった部分はない。当然髪も。……そうか。髪はないのか。どこか悲しそうとか、寂しそうに見えるが……まあ、あったらあったで違和感がすごそうだけど。

 それと、よく見れば、どれも剣を持っているように見えたが、それも違って右腕そのものがそのまま伸びて剣のような形になっている。


「……なんだ、あれは?」


 セカンから、そんな呟きが漏れた。

 トゥルマは驚愕し、エルは警戒するように目を細め、ファイは普通。あっ、俺も。

 いや、俺もその五体が異様だとは思うのだが、それだけ。

 多分、無のグラノさんとかカーくんとかアブさんとかを知っているからだと思う。

 それに、火属性魔法の魔力過多で燃焼できそうな気がする。

 ……やってみていいだろうか? いや、駄目だ。持って帰ろう。そうしよう。それがいい気がする。ラビンさんへのお土産にいい気がする。………………あとでもらえないか聞いてみよう。


「あれは新たに開発された戦闘用魔道具。確か、自立型戦闘用魔導人形――通称は『バトルドール』だったはず」


 ファイが、そう口にした。

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