言葉にしなくても心で、本能で察することもある
トゥルマの案内で森の奥へ。
そう離れていない場所に、冒険者と兵士たち――それと執事とメイドに守られるようにして、ネラル殿下が居た。
「……に、兄さま~!」
「ネラル!」
アンル殿下の姿を見たネラル殿下が飛び出し、そのまま抱き着く。
いい光景だ。
どこか遠くの方から大声で文句を言っているセカンと、その文句の効果はなさそうなファイの笑い声が聞こえてこなければ、だが。
だからだろう。
トゥルマやエルだけではなく、冒険者と兵士たちも、どことなく苦笑いである。
もちろん俺も。
まあ、アンル殿下とネラル殿下は会えた喜びの方が勝っているようなので、耳に入っていないようで良かった。
それと、俺にしか見えていないが、上空に居るアブさんは、泣いてないやい、という感じでこちらに背を向けている。
……いや、そもそも骸骨は涙を流さないというか流れないと思うのだが。それに、泣き顔とかもないよね?
―――
ほどなくして気付く。
少しすれば戻ってくると思っていたセカンとファイが戻って来ない。
戻ってくる気配が一切ない。
アレか? 今更戻ってくるのがちょっと恥ずかしいとかだろうか? まあ、そう思いたくなるというか、考えたくなる気持ちもわかる。何しろ、今こちらの方はアンル殿下とネラル殿下を中心にして、穏やかな空気が流れているのだ。そこに、先ほどまでやり合っていたことで殺伐とした雰囲気を纏ったままのセカンとファイが戻ってこようとしたが、ここの穏やかな様子を見て……何か違うと思ってもおかしくないだろう。あれ? もしかして空気読めてない? と二人が考えて、穏やかな空気になるまでそこらで時間を潰しているかもしれない。
あるいは、こう、難しいよな。既に出来上がった空間というか雰囲気の中に飛び込むのは。
どちらも可能性はある。
うん。きっとそうに違いない。
仕方ないな。ここは一つ、俺が大人となって、迎えに行ってやるか。
俺が加われば、殺伐とした雰囲気も消えるだろうし、出来上がった空間の一員が自ら招くことで、スッと合流することもできるはず。
やれやれ、と腰を上げて、セカンとファイを迎えに行ってくることをトゥルマに告げてから向かう。
その最中。アブさんはどうしているだろうか? と視線を向ければ、これから向かおうとした先を指し示している。
急げ、急げ、と何度も。
何をそんなに慌てているのか……はっ! まさか、戻って来られないセカンとファイの寂しい姿に共感して、早く迎えに行って欲しい、というだろうことか?
まったく……アブさんは優しいな。
でもな。アブさん。こういう時は、こっちの迎えに行った時の態度も大事なんだ。
慌ててはいけない。
気を遣って迎えに来た、という態度は決して出してはいけない。
でないと、相手が拗ねて「……いいよ。別にそういうの気にしないというか、気にしていないから。もういいから」と」意固地になる可能性は充分にある。
そうなると「一人の方が気が楽だし」とも言い出しかねない。
……まあ、今は一人ではなく二人で居るのだが。
なんてことを考えている間に、先ほど竜杖で下りた場所に辿り着いた。
「「………………」」
セカンとファイは身構えていた。
互いに向けて、ではない。
『………………』
先ほどまでは居なかった武装集団に向けて、だ。
既に一瞬即発のような雰囲気で、いつやり合い始めてもおかしくない。
敵か! ――竜杖を構えて飛び出そうとした時、気付く。
……あれは、敵ではない、な。
見れば、セカンとファイと対峙している武装集団は「日の出傭兵団」だった。
どうしてここに? と思うが、まずはその前にとめた方がいい気がする。
「ちょっと待ったあ~!」
あえて声を上げて飛び出す。
頼むから、これで襲わないでくれよ、と願いながら歩を進めて、セカンとファイ、「日の出傭兵団」の間に無事に立つことができた。
動くなよ、と示すように両腕を広げる。
「待て待て! 何を争うとしている! どっちも味方だ! セカンには言ったよな。彼らが傭兵団『日の出傭兵団』だ! 団長! この二人は味方だ! 敵じゃない!」
きっと敵だと誤解していただろうから、これで大丈夫なはず。
「……いいや、それは無理だ。アルム」
「……ああ、それは無理な相談だ」
セカンと傭兵団の団長から拒否される。
いや、無理って、意味がわからないんだが?
「俺も無理だな! こいつら、中々楽しめそうだ!」
いや、ファイ。お前には言っていない。
何故なら、絶対そう言うと思っていたからだ。
「いや、無理って、どうしてだよ? 敵ではないんだぞ?」
「「いいや、敵だ!」」
セカンと傭兵団の団長が揃って否定してくる。
いや、ええ~……。
「何故そうなる?」
「何故、だろうな……それは私にもわからない。だが、この体が、この心が、あいつは敵だと訴えているのだ」
「それはこちらも同じだ。お前は敵だと、俺の中の何かが告げている。決して相容れないと」
そう言うのに合わせて、セカンと傭兵団の団長の戦意が高まる。
合わせて、ファイと傭兵団の方も。
というか、なんでそんなことに……と考えて、脳裏に浮かんだのは「輝く宝石」と「華やかな花」の二つの言葉。
いや、理由はわかった。わかったが……何故、お互い何もわかっていない状態なのに敵対するのかわからない。
そもそも、どちらも本能で察知するとか……手の打ちようがなさ過ぎる。
どうしたものかと思った時、俺を呼ぶ声が耳に届いた。
「お~い! アルム! まだ戻れないのか?」
トゥルマが現れた。
緊迫した雰囲気を直ぐに察し、セカンとファイ、傭兵団の方を順に見て――傭兵団の方に向かい、傭兵団の団長の前でとまって視線を合わせる。
「「………………(ガシッ)」」
仲間の証であると力強い握手が交わされる。
お前も本能で察するのか、トゥルマ。
「さあ、来い!」
セカンとファイに向けて構えを取るトゥルマ。
トゥルマが傭兵団の方に付いた。
……うん。いや、もう知らん。
「バトルスタート!」
そう言って、俺は広げていた両腕を交差した。




