思わず強くなってしまうこともある
忘れないように、と思っていたのですが、投稿が少し遅れました。
申し訳ございません。
セカンたちは森の中を進んでいた。
目的地は、もちろん魔道具研究所の町・マアラだろう。
その上空で一声かけて、少し先の場所に下りて待つ。
人が大勢来るので、アブさんは上空で待機。
ほどなくして、セカンが姿を見せた――のだが警戒全開だった。
しかも、来たのはセカンとトゥルマだけである。
「どうして二人だけ? まあ、いいが。こちらに居るのはアンル殿下」
「それはわかっている。だが、どうして『暗黒騎士団』が共に居る? それも二人も。一人は見知ったヤツだが、もう一人は知らない。新人か?」
「そう警戒すんなよ、セカン。俺もこいつも『暗黒騎士団』を抜けてそっちに協力するってことになっただけだからよ」
ファイが軽快に答える。
セカンの顔見知りはファイのようだ。
そうなると、セカンはファイの顔見知りでもある。
「抜けただと? お前が?」
セカンが怪しむよう目を細め、ファイに声をかける。
「ああ、あんたたちの側の方が面白い戦いができそうだからな」
「……確かに、お前らしい理由だ」
眉間を揉むセカン。
なんというか苦労性な雰囲気が醸し出されている。
「なんだ? セカン。『暗黒騎士団』の時もそうだったが、あんたはこっちでも苦労が絶えないのか?」
「そうだな。今、お前に気苦労をかけられている」
「ははははは! 気にし過ぎだって、セカン! 俺は俺で好き勝手にやるだけだからよ!」
「だから、それが気苦労になると……」
セカンが頭を抱えそうになっている。
その一方で、トゥルマと金髪の男性は――。
「エル! よくぞやってくれた!」
「トゥルマさん! やってやりましたよ!」
ガッチリと握手を交わしていた。
こっちはこっちで知り合いのようだ。
………………。
………………。
俺はアンル殿下と目を合わせる。
「それじゃあ、何やらお互いに積もる話もあるようだし、俺はアンル殿下をネラル殿下のところに連れて行っておくから、そっちはそっちで存分に旧交を温めてもらって――」
アンル殿下を連れて行こうとしたら、セカンにガッチリと肩を掴まれて前に進めなくなる。
というか、食い込んでいる。食い込んでいる。なんか痛い。なんか痛いから放してくれないか? 骨がなんか出してはいけない音を出そうとしている気がする。そのまま折れたらどうするんだ。
「何がどうなってこうなったのか、説明しろ」
セカンの迫力に負けた。
わかったから。説明するから。肩から手を放してくれ。
―――
簡単にだが、セカンたちと別れてからのことを説明し終わる。
一応、念のためにという意味で、あえて省いた部分も当然ある。
傭兵団「日の出傭兵団」の協力を得たが、その理由については濁しておいた、とか。
ここで無用な争いを起こす必要はない……ないが、このまま進めば出会うことになるだろうし、その場合は………………どうしよう?
今俺が取るべき行動の中で一番の候補は「そっとしておこう」だ。
流れに身を任せようとも考えたが、その場合は面倒なことになりそうなので、関わるのをやめるというか、関わらないようにしようというか……まあ、できればそっちで上手くやって欲しいモノである。
説明を聞き終えたセカンは、頭を抱えた。
何か言おうとして口を開くが何も言わなかったり、大きなため息を吐くなど、色々と飲み込んで消化するのに少しばかり時間がかかりそうだ。
その様子を見て、ファイが「そうそう、こんなだった!」と笑うと、セカンがそれに反応してファイをしばこうとするが、ファイは回避して――。
「うおおおおお! お前には言いたいことが色々あったのだ! これを機に言わせてもらうぞ!」
「ははははは。確かセカンは捕らえられていたんだよな? 腕が落ちていないか確認してやるよ!」
何故か小競り合いが始まった。
いや、小競り合いというよりは、どちらもそれなりに本気で相手を倒そうとしているように見えなくもない。
……放っておこう。
下手にとめると巻き込まれる。
なので、今の内にアンル殿下を連れて行こうとしたのだが、そこにトゥルマが居て、「ご無事で何よりでございます」とアンル殿下に一礼したあと、俺に「よくやってくれた」と声をかけてきた。
その流れで金髪の男性のことを紹介される。
何度か耳に届いていたが、名は「エル」。トゥルマが近衛騎士だった頃からの友だそうだ。
そして、元から元周辺国側の人で味方。
「暗黒騎士団」に選ばれるだけの才覚の持ち主で、これまでその立場を利用して、元周辺国側に色々と情報を流していたらしい。
そうした中で元周辺国側の旗頭の一人であるアンル殿下の行方が不明となり、ネラル殿下からトゥルマを通してお願いされ、捜索していたところで今回の出来事となったそうだ。
エルによると、捜索の際に少し派手に動いてしまったため、元周辺国側だと気付かれたと思われる、と。
俺のことについては、先ほどトゥルマから聞いたそうで、エルは俺に感謝の言葉をかけてきた。
「あなたが居なければ、こうして無事にアンル殿下を助け出すことができなかったかもしれません。協力していただき、ありがとうございました」
手を差し出されたので握手を交わす。
そうして、少しばかり親睦を深めている間も、セカンとファイはやり合っていた。
形としては、ファイがやめないのでセカンが付き合っている、だろうか。
あれは時間がかかりそうだと判断して、セカンとファイはこの場に置いて、こちらの方だけでネラル殿下の下へと向かう。




